2 / 47
あなたとは結婚出来ません!
第2話
しおりを挟む
「メリッサはすごいと思うよ」
ヒューゴはベンチに腰掛けた私の隣に座る。
「小さい頃にお母様を亡くし、継母たちに虐げられて生きているのに。
社交界にだって行かせてもらえなくて、ただ掃除ばかり命じられているのに。
それなのに、いつも我慢して笑って生きていて……」
「ふふっ。私、笑顔だけは得意だから」
満面の笑みでヒューゴを見る。そしてヒューゴは、少し悲しそうな顔で私に告げた。
「僕の前では我慢しなくていいんだよ。僕の前では泣いてもいいんだよ」
その言葉に、本当に涙が溢れ、慌てて下を向く。
家族から馬鹿にされ、奴隷みたいに扱われ、なんでこんな人生を歩んでいるのだろうと思った。前世はスパルタ教育を受けながらも、家族からは愛をもらっていた。前世のほうがずっとずっと幸せだった……ーー
ヒューゴはそっと私の髪を撫でる。私はさっと涙を拭き、ヒューゴを見上げた。そして無理に笑顔を作る。
「私、結婚することになったの」
「えっ!? 」
咄嗟の報告に、驚きを隠せないヒューゴ。その顔は明らかに強張っていた。
「私はこの地を去ることが出来て、本当に幸せだわ」
だが、相手は『悪魔辺境伯』だ。もしかしたら、ここ以上に酷い待遇が待っているかもしれない。
ヒューゴは怪訝な顔で私を見て、遠慮がちに聞いた。
「それは、メリッサが望んでいる結婚なの?
今のメリッサは、幸せそうな顔をしていないんだけど」
バレバレだ。ラファエラが行きたくない嫁ぎ先に、代わりに行かされることになったのだ。当然幸せではない。
「私は伯爵家の娘だから、政略結婚は覚悟していたわ」
私の今世、終わったな。今世でこれだけ悪いことばかり起こるのだから、来世に期待するしかない。
ヒューゴは悲しそうに私を見て告げた。
「メリッサ、幸せになってね」
「うん、今までありがとうね、ヒューゴ」
こうして私は故郷を離れ、遠く離れたハンスベルク辺境伯領へと嫁ぐことになった。『悪魔辺境伯』と噂される、冷徹な辺境伯のもとへと。
ハンスベルク辺境伯領から迎えが来るまでの二日間、私はいつも通り必死で下働きをした。
一日目、庭の落ち葉拾いをする。
秋も深まった今、絶好の紅葉シーズンだ。庭の木々は色付き、そして冬へ向けて葉を散らす。私はスカートが汚れるのも気にせずに、無心に落ち葉をかき集めた。そして、山のようになった落ち葉を袋に入れようとしたのだが……
「ほら、キャロル!ボールを取ってきて」
ラファエラがわざと落ち葉の山に向かってボールを投げる。愛犬キャロルが落ち葉の山に突っ込んだのは言うまでもない。おまけに、キャロルは私を見ると噛みつくように躾けられているらしい。ボールを咥えて顔を上げたキャロルは、私目がけて猛突進する。そしてボールをぽろっと離し、私のスカートに噛みついてくる。
……このクソ犬が!!
だが、幼い頃から私は『女性はおしとやかに』と教えられてきた。ここでクソ犬を蹴り飛ばしたりしてボロを出すと、ラファエラの格好の餌食になるだろう。
「キャロル、やめて!」
私は引き攣った顔で許しを乞う。すると、ラファエラがにやりと笑って私に告げたのだ。
「お姉様、ご自身は犬以下の存在だということを忘れないでくださいね。
キャロルに土下座して頼んでね」
仕方なく土下座し、スカートだけでなく腕も噛まれてしまった。だが、こんな生活もあと二日と我慢する。
二日間。お義母様の言われる通り、屋敷の床磨きをする。
昨日と同じく、服が汚れるのも気にせず、床に這いつくばって雑巾で拭く。屋敷は普段は綺麗にしてあるが、今日はわざと汚してあるのだろうか。絵の具みたいなものがべったりと付いている。それを必死で雑巾で拭いた。
気付いたら、私の服も黄色にピンクにと染まっていることに気付く。それをわざと見に来たラファエラが、にやにや笑って告げた。
「まぁ、お姉様。とても見窄らしいこと。
今日は悪魔辺境伯の侍者が迎えに来るのに、そんな姿をしていたら嫌われてしまいますわ」
誰のせいだよ、と心の中で思う。だが、この生活ももう終わりだ。一刻も早く出て行きたいと思った時だった。
「メリッサ!何をしておる、メリッサ!」
お父様に階下から大声で呼ばれた。私は雑巾を持ったまま、小走りで階下へ降りる。すると、広間にはグレーの服に赤いマントを付けた騎士たちがいる。見たことのない隊服だ。もしかしてこの人たち……
「メリッサ、その姿はどうした!?
今日はハンスベルク辺境伯領から迎えが来るから準備するようにと言っていただろう」
お父様は、イラついたように私に言う。
「申し訳ございません。館の床掃除をするようにと命じられていましたので……」
私が溢すと、騎士たちはざわっとする。そして信じられないような顔で私を見るのだった。みんな、きっと私を見て引いているのだろう。
だが、慌てるのは父親だった。
「そんなことを言ったのは、どこのどいつだ? 」
あなたの妻ですけど?
「もういい!とっとと行ってしまえ!」
最後は怒鳴り声に近かった。そんなお父様に、私はせめて最後の挨拶でもと近付くが、お父様からは凄まじい殺気を感じている。きっと、私の酷い姿をハンスベルク辺境伯領の侍者に見られたからだろう。お父様のイメージが傷付くのだ。
それでも私は負けずに、笑顔で頭を下げる。
「今までお世話になりました」
それに対して、もちろん誰も返事をしない。だが、私はこの家を離れられることがこの上なく嬉しかった。相手が悪魔辺境伯だろうとも、今以上は幸せになれるだろう。この頃はそう思っていたのだ。
ヒューゴはベンチに腰掛けた私の隣に座る。
「小さい頃にお母様を亡くし、継母たちに虐げられて生きているのに。
社交界にだって行かせてもらえなくて、ただ掃除ばかり命じられているのに。
それなのに、いつも我慢して笑って生きていて……」
「ふふっ。私、笑顔だけは得意だから」
満面の笑みでヒューゴを見る。そしてヒューゴは、少し悲しそうな顔で私に告げた。
「僕の前では我慢しなくていいんだよ。僕の前では泣いてもいいんだよ」
その言葉に、本当に涙が溢れ、慌てて下を向く。
家族から馬鹿にされ、奴隷みたいに扱われ、なんでこんな人生を歩んでいるのだろうと思った。前世はスパルタ教育を受けながらも、家族からは愛をもらっていた。前世のほうがずっとずっと幸せだった……ーー
ヒューゴはそっと私の髪を撫でる。私はさっと涙を拭き、ヒューゴを見上げた。そして無理に笑顔を作る。
「私、結婚することになったの」
「えっ!? 」
咄嗟の報告に、驚きを隠せないヒューゴ。その顔は明らかに強張っていた。
「私はこの地を去ることが出来て、本当に幸せだわ」
だが、相手は『悪魔辺境伯』だ。もしかしたら、ここ以上に酷い待遇が待っているかもしれない。
ヒューゴは怪訝な顔で私を見て、遠慮がちに聞いた。
「それは、メリッサが望んでいる結婚なの?
今のメリッサは、幸せそうな顔をしていないんだけど」
バレバレだ。ラファエラが行きたくない嫁ぎ先に、代わりに行かされることになったのだ。当然幸せではない。
「私は伯爵家の娘だから、政略結婚は覚悟していたわ」
私の今世、終わったな。今世でこれだけ悪いことばかり起こるのだから、来世に期待するしかない。
ヒューゴは悲しそうに私を見て告げた。
「メリッサ、幸せになってね」
「うん、今までありがとうね、ヒューゴ」
こうして私は故郷を離れ、遠く離れたハンスベルク辺境伯領へと嫁ぐことになった。『悪魔辺境伯』と噂される、冷徹な辺境伯のもとへと。
ハンスベルク辺境伯領から迎えが来るまでの二日間、私はいつも通り必死で下働きをした。
一日目、庭の落ち葉拾いをする。
秋も深まった今、絶好の紅葉シーズンだ。庭の木々は色付き、そして冬へ向けて葉を散らす。私はスカートが汚れるのも気にせずに、無心に落ち葉をかき集めた。そして、山のようになった落ち葉を袋に入れようとしたのだが……
「ほら、キャロル!ボールを取ってきて」
ラファエラがわざと落ち葉の山に向かってボールを投げる。愛犬キャロルが落ち葉の山に突っ込んだのは言うまでもない。おまけに、キャロルは私を見ると噛みつくように躾けられているらしい。ボールを咥えて顔を上げたキャロルは、私目がけて猛突進する。そしてボールをぽろっと離し、私のスカートに噛みついてくる。
……このクソ犬が!!
だが、幼い頃から私は『女性はおしとやかに』と教えられてきた。ここでクソ犬を蹴り飛ばしたりしてボロを出すと、ラファエラの格好の餌食になるだろう。
「キャロル、やめて!」
私は引き攣った顔で許しを乞う。すると、ラファエラがにやりと笑って私に告げたのだ。
「お姉様、ご自身は犬以下の存在だということを忘れないでくださいね。
キャロルに土下座して頼んでね」
仕方なく土下座し、スカートだけでなく腕も噛まれてしまった。だが、こんな生活もあと二日と我慢する。
二日間。お義母様の言われる通り、屋敷の床磨きをする。
昨日と同じく、服が汚れるのも気にせず、床に這いつくばって雑巾で拭く。屋敷は普段は綺麗にしてあるが、今日はわざと汚してあるのだろうか。絵の具みたいなものがべったりと付いている。それを必死で雑巾で拭いた。
気付いたら、私の服も黄色にピンクにと染まっていることに気付く。それをわざと見に来たラファエラが、にやにや笑って告げた。
「まぁ、お姉様。とても見窄らしいこと。
今日は悪魔辺境伯の侍者が迎えに来るのに、そんな姿をしていたら嫌われてしまいますわ」
誰のせいだよ、と心の中で思う。だが、この生活ももう終わりだ。一刻も早く出て行きたいと思った時だった。
「メリッサ!何をしておる、メリッサ!」
お父様に階下から大声で呼ばれた。私は雑巾を持ったまま、小走りで階下へ降りる。すると、広間にはグレーの服に赤いマントを付けた騎士たちがいる。見たことのない隊服だ。もしかしてこの人たち……
「メリッサ、その姿はどうした!?
今日はハンスベルク辺境伯領から迎えが来るから準備するようにと言っていただろう」
お父様は、イラついたように私に言う。
「申し訳ございません。館の床掃除をするようにと命じられていましたので……」
私が溢すと、騎士たちはざわっとする。そして信じられないような顔で私を見るのだった。みんな、きっと私を見て引いているのだろう。
だが、慌てるのは父親だった。
「そんなことを言ったのは、どこのどいつだ? 」
あなたの妻ですけど?
「もういい!とっとと行ってしまえ!」
最後は怒鳴り声に近かった。そんなお父様に、私はせめて最後の挨拶でもと近付くが、お父様からは凄まじい殺気を感じている。きっと、私の酷い姿をハンスベルク辺境伯領の侍者に見られたからだろう。お父様のイメージが傷付くのだ。
それでも私は負けずに、笑顔で頭を下げる。
「今までお世話になりました」
それに対して、もちろん誰も返事をしない。だが、私はこの家を離れられることがこの上なく嬉しかった。相手が悪魔辺境伯だろうとも、今以上は幸せになれるだろう。この頃はそう思っていたのだ。
567
あなたにおすすめの小説
『嫌われ令嬢ですが、最終的に溺愛される予定です』
由香
恋愛
貴族令嬢エマは、自分が周囲から嫌われていると信じて疑わなかった。
婚約者である侯爵令息レオンからも距離を取られ、冷たい視線を向けられている――そう思っていたのに。
ある日、思いがけず聞いてしまった彼の本音。
「君を嫌ったことなど、一度もない」
それは誤解とすれ違いが重なっただけの、両片思いだった。
勘違いから始まる、甘くて優しい溺愛恋物語。
王太子妃専属侍女の結婚事情
蒼あかり
恋愛
伯爵家の令嬢シンシアは、ラドフォード王国 王太子妃の専属侍女だ。
未だ婚約者のいない彼女のために、王太子と王太子妃の命で見合いをすることに。
相手は王太子の側近セドリック。
ところが、幼い見た目とは裏腹に令嬢らしからぬはっきりとした物言いのキツイ性格のシンシアは、それが元でお見合いをこじらせてしまうことに。
そんな二人の行く末は......。
☆恋愛色は薄めです。
☆完結、予約投稿済み。
新年一作目は頑張ってハッピーエンドにしてみました。
ふたりの喧嘩のような言い合いを楽しんでいただければと思います。
そこまで激しくはないですが、そういうのが苦手な方はご遠慮ください。
よろしくお願いいたします。
虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました
たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。
「地味で無能」と捨てられた令嬢は、冷酷な【年上イケオジ公爵】に嫁ぎました〜今更私の価値に気づいた元王太子が後悔で顔面蒼白になっても今更遅い
腐ったバナナ
恋愛
伯爵令嬢クラウディアは、婚約者のアルバート王太子と妹リリアンに「地味で無能」と断罪され、公衆の面前で婚約破棄される。
お飾りの厄介払いとして押し付けられた嫁ぎ先は、「氷壁公爵」と恐れられる年上の冷酷な辺境伯アレクシス・グレイヴナー公爵だった。
当初は冷徹だった公爵は、クラウディアの才能と、過去の傷を癒やす温もりに触れ、その愛を「二度と失わない」と固く誓う。
彼の愛は、包容力と同時に、狂気的な独占欲を伴った「大人の愛」へと昇華していく。
家族から邪魔者扱いされた私が契約婚した宰相閣下、実は完璧すぎるスパダリでした。仕事も家事も甘やかしも全部こなしてきます
さら
恋愛
家族から「邪魔者」扱いされ、行き場を失った伯爵令嬢レイナ。
望まぬ結婚から逃げ出したはずの彼女が出会ったのは――冷徹無比と恐れられる宰相閣下アルベルト。
「契約でいい。君を妻として迎える」
そう告げられ始まった仮初めの結婚生活。
けれど、彼は噂とはまるで違っていた。
政務を完璧にこなし、家事も器用に手伝い、そして――妻をとことん甘やかす完璧なスパダリだったのだ。
「君はもう“邪魔者”ではない。私の誇りだ」
契約から始まった関係は、やがて真実の絆へ。
陰謀や噂に立ち向かいながら、互いを支え合う二人は、次第に心から惹かれ合っていく。
これは、冷徹宰相×追放令嬢の“契約婚”からはじまる、甘々すぎる愛の物語。
指輪に誓う未来は――永遠の「夫婦」。
【完結】記憶にありませんが、責任は取りましょう
楽歩
恋愛
階段から落ちて三日後、アイラは目を覚ました。そして、自分の人生から十年分の記憶が消えていることを知らされる。
目の前で知らない男が号泣し、知らない子どもが「お母様!」としがみついてくる。
「状況を確認いたします。あなたは伯爵、こちらは私たちの息子。なお、私たちはまだ正式な夫婦ではない、という理解でよろしいですね?」
さらに残されていたのは鍵付き箱いっぱいの十年分の日記帳。中身は、乙女ゲームに転生したと信じ、攻略対象を順位付けして暴走していた“過去のアイラ”の黒歴史だった。
アイラは一冊の日記を最後の一行まで読み終えると、無言で日記を暖炉へ投げ入れる。
「これは、焼却処分が妥当ですわね」
だいぶ騒がしい人生の再スタートが今、始まる。
離婚寸前で人生をやり直したら、冷徹だったはずの夫が私を溺愛し始めています
腐ったバナナ
恋愛
侯爵夫人セシルは、冷徹な夫アークライトとの愛のない契約結婚に疲れ果て、離婚を決意した矢先に孤独な死を迎えた。
「もしやり直せるなら、二度と愛のない人生は選ばない」
そう願って目覚めると、そこは結婚直前の18歳の自分だった!
今世こそ平穏な人生を歩もうとするセシルだったが、なぜか夫の「感情の色」が見えるようになった。
冷徹だと思っていた夫の無表情の下に、深い孤独と不器用で一途な愛が隠されていたことを知る。
彼の愛をすべて誤解していたと気づいたセシルは、今度こそ彼の愛を掴むと決意。積極的に寄り添い、感情をぶつけると――
ヒロイン不在だから悪役令嬢からお飾りの王妃になるのを決めたのに、誓いの場で登場とか聞いてないのですが!?
あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
ヒロインがいない。
もう一度言おう。ヒロインがいない!!
乙女ゲーム《夢見と夜明け前の乙女》のヒロインのキャロル・ガードナーがいないのだ。その結果、王太子ブルーノ・フロレンス・フォード・ゴルウィンとの婚約は継続され、今日私は彼の婚約者から妻になるはずが……。まさかの式の最中に突撃。
※ざまぁ展開あり
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる