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いつになったら正気に戻るの!?
第21話
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ハンスベルク辺境伯領に近付くにつれて、辺りは一段と寒くなってきた。私はかじかむ手で手綱を握り、馬を走らせる。やがて、雪が降り始めた。そしてすぐに雪は積もり始め、辺り一面が真っ白になった。その白の世界の中を、私たちは駆け抜けた。
平原には雪が積もり、視界も悪い。ハンスベルク辺境伯領まではどのくらいかかるのだろうか。厚手のコートを着ているが、そのコートすら防寒の役割を果たさず、ただ体が震える。
先頭で方位磁針を見ながら進んでいたジルが、立ち止まって告げた。
「これ以上雪の中を走ると、凍死してしまうかもしれません。
ここからほど近いところに、ハンスベルク辺境伯領の小都市があります。
今日はそこで夜を明かしましょう」
その言葉を聞いてホッとしたのは言うまでもない。
フリードはちらりと私を見て告げた。
「そうだな」
こうして、私たちは強くなる雪の中、小都市の宿屋に泊まることになったのだ。
ハンスベルク辺境伯領の中心街は、自然に恵まれたのどかだが大きな街だった。華やかな王都とは違い、独特の寂しい雰囲気すらある。そんなハンスベルク辺境伯領の小都市だ。そこは、小都市とは言えないほどのこじんまりとした集落だった。
雪の降り積もった家々の間を、馬を引いて歩く。もう随分と暗くなり、家々の明かりが雪をぼーっと照らしている。雪が白いため、普段よりも辺りは明るく幻想的に見えた。だが、そんな景色に感動することも出来ないほど、寒さで体が震えている。そして私たちは、小さな街の中心部にある、この集落に一軒しかないという宿屋に辿り着いた。
宿屋からは明かりが見え、いい香りが漂ってくる。その香りを嗅いだら、酷くお腹が空いていることに気付いた。
ジルが扉を開け、カウンターにだるそうに座っていた中年の男性に告げる。
「突然の訪問、すまない。
我らは、ハンスベルク辺境伯と婚約者のメリッサ様、そしてその護衛だ。
今日我らを一泊させていただけぬか? 」
その瞬間、男性は目をまん丸にしてひっくり返った。まるでコントかと思うほどに、見事にひっくり返ったのだ。
そして再び起き上がった男性は、酷く怯えた顔をしている。
「も……申し訳ございません。
現在、一室しか空きがありませんでして……」
男性はフリードに怯えているのだろう。あからさまにフリードを見ないようにし、すがるように私を見るのだ。
こんな宿屋の男性に、同情してしまう私。フリードを見上げて告げた。
「私は廊下で寝ても大丈夫だよ」
その瞬間、フリードにすごい勢いで睨まれる。そして、彼は低い声で告げた。
「馬鹿なことを言うな。お前はそうやって、すぐ人を気遣う」
だが、私一人のために、フリードとジルをはじめとするみんなを、廊下で寝泊まりさせるのもいけないだろう。
「俺は以前、騎士だった。
領地の騎士は、三日間眠れない任務につくこともしばしばだ。たかが一日眠れないくらい、どうってこともない」
「でも……」
「でもじゃない。メリッサは色々疲れているだろう。今日は暖かい部屋でゆっくり休め」
そう言って、否応なく宿屋に放り込まれてしまった。案内係の従業員について歩きながらも、心の中は申し訳ない気持ちでいっぱいだった。結局、フリードたちは食堂で一夜を過ごさせてもらうらしい。凍死の心配がなくなったとはいえ、ゆっくり休むことも出来ないだろう。
なんだかんだ言って、フリードは優しい。私に気持ちがないとはいえ、こうやって私のことを大切にしてくれる。ヤヌース伯爵一家とは違うということを、改めて感じさせられた。
案内された部屋は小さいが、暖房がよく効いていてほっとした。暖かい部屋で、震えていた体も少しずつ温まり始める。
「ご夫人、外はとても寒かったと思います。すぐに温かいスープでもお持ちしますね」
案内係の心遣いが嬉しかった。
「ありがとうございます」
彼女に笑顔で告げる。
「雪の日で宿も忙しいのに、急に大勢で押しかけてしまって申し訳ございません。
騎士たちも、食堂に泊まらせていただくようで……」
思わず告げると、案内係は驚いたように私を見る。
「そんな……こちらこそ、部屋を用意出来ず申し訳ございませんでした。
閣下は噂で聞くような冷たい人ではないのですね。閣下に泊まっていただけるよう、ひと部屋お客様の宿泊をキャンセルしようかとも思ったのです。
ですが、閣下はこの雪の中、お客様を外に放り出してはいけないと……」
その話を聞き、思わず微笑んでしまった。フリードは無骨で無感情だが、悪い人ではない。いや、内心は優しい。だからと言って好きなわけではないが、今は嫌いでもない。ただ、「つまらない女」と言われたことがいまだに心にしこりとして残っており、婚約破棄に前向きであることには変わりないが。
フリードのことを考えると、無性にフリードに会いたくなってしまう。虐げられて生きてきた私は、ハンスベルク辺境伯領で人の温かさに触れた。そして今日、フリードは虐げられてきた私に幻滅することもなく、優しく庇ってくれた。まだまだダメージは消えないが、フリードのおかげで随分楽になったのも事実。またフリードに抱きしめて欲しいなんて思ってしまう私も、頭が狂っているのだろう。
スープを飲み、温かいシャワーを浴びてベッドに入ってもなかなか寝付けない私は、とうとう部屋を抜け出して階段を降りていた。そしてまだ明かりが漏れる食堂の扉を開いたのだ。
平原には雪が積もり、視界も悪い。ハンスベルク辺境伯領まではどのくらいかかるのだろうか。厚手のコートを着ているが、そのコートすら防寒の役割を果たさず、ただ体が震える。
先頭で方位磁針を見ながら進んでいたジルが、立ち止まって告げた。
「これ以上雪の中を走ると、凍死してしまうかもしれません。
ここからほど近いところに、ハンスベルク辺境伯領の小都市があります。
今日はそこで夜を明かしましょう」
その言葉を聞いてホッとしたのは言うまでもない。
フリードはちらりと私を見て告げた。
「そうだな」
こうして、私たちは強くなる雪の中、小都市の宿屋に泊まることになったのだ。
ハンスベルク辺境伯領の中心街は、自然に恵まれたのどかだが大きな街だった。華やかな王都とは違い、独特の寂しい雰囲気すらある。そんなハンスベルク辺境伯領の小都市だ。そこは、小都市とは言えないほどのこじんまりとした集落だった。
雪の降り積もった家々の間を、馬を引いて歩く。もう随分と暗くなり、家々の明かりが雪をぼーっと照らしている。雪が白いため、普段よりも辺りは明るく幻想的に見えた。だが、そんな景色に感動することも出来ないほど、寒さで体が震えている。そして私たちは、小さな街の中心部にある、この集落に一軒しかないという宿屋に辿り着いた。
宿屋からは明かりが見え、いい香りが漂ってくる。その香りを嗅いだら、酷くお腹が空いていることに気付いた。
ジルが扉を開け、カウンターにだるそうに座っていた中年の男性に告げる。
「突然の訪問、すまない。
我らは、ハンスベルク辺境伯と婚約者のメリッサ様、そしてその護衛だ。
今日我らを一泊させていただけぬか? 」
その瞬間、男性は目をまん丸にしてひっくり返った。まるでコントかと思うほどに、見事にひっくり返ったのだ。
そして再び起き上がった男性は、酷く怯えた顔をしている。
「も……申し訳ございません。
現在、一室しか空きがありませんでして……」
男性はフリードに怯えているのだろう。あからさまにフリードを見ないようにし、すがるように私を見るのだ。
こんな宿屋の男性に、同情してしまう私。フリードを見上げて告げた。
「私は廊下で寝ても大丈夫だよ」
その瞬間、フリードにすごい勢いで睨まれる。そして、彼は低い声で告げた。
「馬鹿なことを言うな。お前はそうやって、すぐ人を気遣う」
だが、私一人のために、フリードとジルをはじめとするみんなを、廊下で寝泊まりさせるのもいけないだろう。
「俺は以前、騎士だった。
領地の騎士は、三日間眠れない任務につくこともしばしばだ。たかが一日眠れないくらい、どうってこともない」
「でも……」
「でもじゃない。メリッサは色々疲れているだろう。今日は暖かい部屋でゆっくり休め」
そう言って、否応なく宿屋に放り込まれてしまった。案内係の従業員について歩きながらも、心の中は申し訳ない気持ちでいっぱいだった。結局、フリードたちは食堂で一夜を過ごさせてもらうらしい。凍死の心配がなくなったとはいえ、ゆっくり休むことも出来ないだろう。
なんだかんだ言って、フリードは優しい。私に気持ちがないとはいえ、こうやって私のことを大切にしてくれる。ヤヌース伯爵一家とは違うということを、改めて感じさせられた。
案内された部屋は小さいが、暖房がよく効いていてほっとした。暖かい部屋で、震えていた体も少しずつ温まり始める。
「ご夫人、外はとても寒かったと思います。すぐに温かいスープでもお持ちしますね」
案内係の心遣いが嬉しかった。
「ありがとうございます」
彼女に笑顔で告げる。
「雪の日で宿も忙しいのに、急に大勢で押しかけてしまって申し訳ございません。
騎士たちも、食堂に泊まらせていただくようで……」
思わず告げると、案内係は驚いたように私を見る。
「そんな……こちらこそ、部屋を用意出来ず申し訳ございませんでした。
閣下は噂で聞くような冷たい人ではないのですね。閣下に泊まっていただけるよう、ひと部屋お客様の宿泊をキャンセルしようかとも思ったのです。
ですが、閣下はこの雪の中、お客様を外に放り出してはいけないと……」
その話を聞き、思わず微笑んでしまった。フリードは無骨で無感情だが、悪い人ではない。いや、内心は優しい。だからと言って好きなわけではないが、今は嫌いでもない。ただ、「つまらない女」と言われたことがいまだに心にしこりとして残っており、婚約破棄に前向きであることには変わりないが。
フリードのことを考えると、無性にフリードに会いたくなってしまう。虐げられて生きてきた私は、ハンスベルク辺境伯領で人の温かさに触れた。そして今日、フリードは虐げられてきた私に幻滅することもなく、優しく庇ってくれた。まだまだダメージは消えないが、フリードのおかげで随分楽になったのも事実。またフリードに抱きしめて欲しいなんて思ってしまう私も、頭が狂っているのだろう。
スープを飲み、温かいシャワーを浴びてベッドに入ってもなかなか寝付けない私は、とうとう部屋を抜け出して階段を降りていた。そしてまだ明かりが漏れる食堂の扉を開いたのだ。
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