つまらない女と言われたため、婚約者をぶん殴りました〜婚約破棄して武闘家になろうと思います〜

湊一桜

文字の大きさ
23 / 47
いつになったら正気に戻るの!?

第23話

しおりを挟む
 翌朝。カーテンの隙間から差し込む、眩しい光で目を覚ました。カーテン越しにうっすら見える外が白く、やたら眩しく見える。もう雪は止んだのだろうか。身を起こそうとすると、何かが私の体に絡みついており、身動き出来ないことに気付いた。胸元を見ると、血管の浮き出た大きな手が、ぎゅっと私を抱きしめている。

「!? 」

 思わず息を飲み振り返ると、そこには目を閉じたフリードの綺麗な寝顔があった。寝ている顔まで美しいだなんて、罪な男だ。

 フリードに抱きしめられていることを知り、体がぼっと熱くなる。心臓の音だって聞こえそうだ。服を着ているし、やましいことは何もないが……フリードは、一晩中私を抱きしめていてくれたのだ。その事実にどきんとした。

 今まで虐げられて生きてきた私だ。こうも優しく大切にされると、対応に困る。気を取り直して、ここは一発殴っておくべきだろうか。昔のことを思い出して、すっかり元気も無くなっていたことに気付く。

 こんな私を抱きしめたまま、後ろから首筋にちゅっとキスをするフリード。不意にキスされるものだから、私は声にならない叫び声を上げた。私の令嬢らしからぬ叫び声に、窓ガラスががたがたと揺れる。

 振り返ると、余裕な顔のフリードがいて、その青色の瞳でじっと私を見つめる。そして、口角を上げて告げた。

「おはよう、メリッサ」

「お……おはよう……」

 パニックを起こしつつも挨拶だけしてしまった私。こんないちゃいちゃ生活、無理なんですけど!

 フリードが手の力を緩めた隙に、ばっとベッドから飛び降りる。そして笑顔でフリードに告げた。

「フリードのおかげで眠れたよ。ありがとう!」

 フリードは微かに笑い、身を起こす。そして髪を掻き上げなから、口角を上げて告げた。

「これから毎晩、一緒に寝ようか」

「だからそういうの、無理だって」
 
 私はカーテンは窓に歩み寄り、カーテンを開ける。外はすっかり雪が止んで、太陽が一面の雪景色を照らしていた。

「さあ、帰って武術の訓練しなきゃ。
 私はまた平常運転に戻るからね」

「あぁ」

 フリードは満足そうに頷いた。そして、ベッドから降りて立ち上がる。そんなフリードを見て、私は満面の笑みで笑っていた。
 もちろん、フリードを心から信じたわけではない。だが、フリードの言葉に救われた。フリードは、私のことを大切にしてくれるのだと分かって。ただ、フリードとの距離が近くなればなるほど、裏切られた時のダメージが大きい。そんな悪いことまで考えてしまうのだった。




 上着を羽織って食堂に降りると、ジルをはじめとする護衛の騎士たちがいた。皆元気そうだが、少し疲れた表情をしている。そんな騎士たちに、

「昨夜は、私だけ部屋を使ってしまい、すみません」

頭を下げた。こんな私を、騎士たちは半ば驚いた顔で見る。そして騎士たちの気持ちを代弁するように、ジルは言った。

「それは当然だよ。女性をこんなところに泊められないよ。
 そんなことに対して、お礼を言われるとは思ってなかった」

 騎士たちにとっては当然かもしれない。だが、私にとっては、こんな待遇は申し訳ない気持ちでいっぱいになる。

「そういうお高く止まらないところがウケるんだろうね」

 ジルの言葉に騎士たちが笑う。話についていけない私は、ぽかーんとジルを見ていた。
 そんな私の隣に、いつの間にかフリードが立っている。そして、騎士たちに向かって告げる。

「皆、ここまで旅に付き合ってくれたことに感謝する。
 街まであと少しだ」

 そして、私の背中に手を回し、急に甘い声で告げる。

「メリッサも、慣れない雪道、風邪を引かないように気をつけろ」

 フリードはそのまま私の頬にちゅっとキスをする。私は顔を真っ赤にして、フリードの唇が触れた部分を押さえていた。
 昨夜から、フリードがさらに迫ってくるようになった。このキャラ変には戸惑うばかりだ。フリードはさらに頭が狂ったのだろうか。

 ジルは頬を染め、フリードと私を見ている。そして、口元を押さえてこぼした。

「まさか……フリード様とメリッサって……昨夜……」

「いや、ないから!! 」

 私は真っ赤な顔のまま、必死で答えていた。

「本当に、何もないんだから!! 」

 昨夜は本当に、何もなかった。だが、このままずるずる流されて、いつかは許してしまうのだろうか。まだ、フリードのことを完全に信じているわけではない。そして、婚約破棄だって諦めたつもりではないのだが。




 宿屋でさっと朝食を済ませ、荷物をまとめて外に出る。宿屋の扉を開けた瞬間、冷たい空気が一斉に私を襲った。あまりの寒さで身震いしてしまう。だが、目の前に現れた一面の銀世界に心を奪われた。

 私は、ヤヌース伯爵の娘として生まれてからは、一度も雪を見たことがない。もちろん前世で見たことはあるのだが、この世界の雪は前世のものよりもずっと綺麗だった。前世の雪は排気ガスで汚れ、所々軽くくすんでいた。それなのに、この世界の雪は汚れがなく真っ白なのだ。

「わぁ、綺麗!」

 思わず声に出してしまった私の肩を、フリードがそっと抱き寄せる。

「館に帰ったら、約束通り雪遊びするぞ」

 フリードはまた私の頬にキスをし、私は顔が真っ赤になってしまうのだった。

 
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

『嫌われ令嬢ですが、最終的に溺愛される予定です』

由香
恋愛
貴族令嬢エマは、自分が周囲から嫌われていると信じて疑わなかった。 婚約者である侯爵令息レオンからも距離を取られ、冷たい視線を向けられている――そう思っていたのに。 ある日、思いがけず聞いてしまった彼の本音。 「君を嫌ったことなど、一度もない」 それは誤解とすれ違いが重なっただけの、両片思いだった。 勘違いから始まる、甘くて優しい溺愛恋物語。

王太子妃専属侍女の結婚事情

蒼あかり
恋愛
伯爵家の令嬢シンシアは、ラドフォード王国 王太子妃の専属侍女だ。 未だ婚約者のいない彼女のために、王太子と王太子妃の命で見合いをすることに。 相手は王太子の側近セドリック。 ところが、幼い見た目とは裏腹に令嬢らしからぬはっきりとした物言いのキツイ性格のシンシアは、それが元でお見合いをこじらせてしまうことに。 そんな二人の行く末は......。 ☆恋愛色は薄めです。 ☆完結、予約投稿済み。 新年一作目は頑張ってハッピーエンドにしてみました。 ふたりの喧嘩のような言い合いを楽しんでいただければと思います。 そこまで激しくはないですが、そういうのが苦手な方はご遠慮ください。 よろしくお願いいたします。

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

「地味で無能」と捨てられた令嬢は、冷酷な【年上イケオジ公爵】に嫁ぎました〜今更私の価値に気づいた元王太子が後悔で顔面蒼白になっても今更遅い

腐ったバナナ
恋愛
伯爵令嬢クラウディアは、婚約者のアルバート王太子と妹リリアンに「地味で無能」と断罪され、公衆の面前で婚約破棄される。 お飾りの厄介払いとして押し付けられた嫁ぎ先は、「氷壁公爵」と恐れられる年上の冷酷な辺境伯アレクシス・グレイヴナー公爵だった。 当初は冷徹だった公爵は、クラウディアの才能と、過去の傷を癒やす温もりに触れ、その愛を「二度と失わない」と固く誓う。 彼の愛は、包容力と同時に、狂気的な独占欲を伴った「大人の愛」へと昇華していく。

家族から邪魔者扱いされた私が契約婚した宰相閣下、実は完璧すぎるスパダリでした。仕事も家事も甘やかしも全部こなしてきます

さら
恋愛
家族から「邪魔者」扱いされ、行き場を失った伯爵令嬢レイナ。 望まぬ結婚から逃げ出したはずの彼女が出会ったのは――冷徹無比と恐れられる宰相閣下アルベルト。 「契約でいい。君を妻として迎える」 そう告げられ始まった仮初めの結婚生活。 けれど、彼は噂とはまるで違っていた。 政務を完璧にこなし、家事も器用に手伝い、そして――妻をとことん甘やかす完璧なスパダリだったのだ。 「君はもう“邪魔者”ではない。私の誇りだ」 契約から始まった関係は、やがて真実の絆へ。 陰謀や噂に立ち向かいながら、互いを支え合う二人は、次第に心から惹かれ合っていく。 これは、冷徹宰相×追放令嬢の“契約婚”からはじまる、甘々すぎる愛の物語。 指輪に誓う未来は――永遠の「夫婦」。

【完結】記憶にありませんが、責任は取りましょう

楽歩
恋愛
階段から落ちて三日後、アイラは目を覚ました。そして、自分の人生から十年分の記憶が消えていることを知らされる。 目の前で知らない男が号泣し、知らない子どもが「お母様!」としがみついてくる。 「状況を確認いたします。あなたは伯爵、こちらは私たちの息子。なお、私たちはまだ正式な夫婦ではない、という理解でよろしいですね?」 さらに残されていたのは鍵付き箱いっぱいの十年分の日記帳。中身は、乙女ゲームに転生したと信じ、攻略対象を順位付けして暴走していた“過去のアイラ”の黒歴史だった。 アイラは一冊の日記を最後の一行まで読み終えると、無言で日記を暖炉へ投げ入れる。 「これは、焼却処分が妥当ですわね」 だいぶ騒がしい人生の再スタートが今、始まる。

離婚寸前で人生をやり直したら、冷徹だったはずの夫が私を溺愛し始めています

腐ったバナナ
恋愛
侯爵夫人セシルは、冷徹な夫アークライトとの愛のない契約結婚に疲れ果て、離婚を決意した矢先に孤独な死を迎えた。 「もしやり直せるなら、二度と愛のない人生は選ばない」 そう願って目覚めると、そこは結婚直前の18歳の自分だった! 今世こそ平穏な人生を歩もうとするセシルだったが、なぜか夫の「感情の色」が見えるようになった。 冷徹だと思っていた夫の無表情の下に、深い孤独と不器用で一途な愛が隠されていたことを知る。 彼の愛をすべて誤解していたと気づいたセシルは、今度こそ彼の愛を掴むと決意。積極的に寄り添い、感情をぶつけると――

【完結】余命三年ですが、怖いと評判の宰相様と契約結婚します

佐倉えび
恋愛
断罪→偽装結婚(離婚)→契約結婚 不遇の人生を繰り返してきた令嬢の物語。 私はきっとまた、二十歳を越えられないーー  一周目、王立学園にて、第二王子ヴィヴィアン殿下の婚約者である公爵令嬢マイナに罪を被せたという、身に覚えのない罪で断罪され、修道院へ。  二周目、学園卒業後、夜会で助けてくれた公爵令息レイと結婚するも「あなたを愛することはない」と初夜を拒否された偽装結婚だった。後に離婚。  三周目、学園への入学は回避。しかし評判の悪い王太子の妾にされる。その後、下賜されることになったが、手渡された契約書を見て、契約結婚だと理解する。そうして、怖いと評判の宰相との結婚生活が始まったのだが――? *ムーンライトノベルズにも掲載

処理中です...