つまらない女と言われたため、婚約者をぶん殴りました〜婚約破棄して武闘家になろうと思います〜

湊一桜

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彼は本当は、武術大会に出て欲しくない

第35話

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 武術大会も近くなってきた。私は日々武術の練習にと明け暮れている。こんな私を見て、フリードは

「すごいな」

と驚くようになった。

「メリッサはそんなに武術が好きなのか。
 お前から武術を取ったら、生きる気がなくなるのだろう」

 まさしくその通りだ。私は自分の価値を武術でしか見出せない。そして、その武術を続けさせてくれるフリードに感謝の気持ちでいっぱいだ。
 そして、フリードは魔物討伐にも積極的に私を連れて行ってくれるようになった。もちろん、私はフリードのそばを離れることを許されないのだが。だが、こうやって私を信じてくれるフリードだから、私も無茶な行動はやめようと思うようになってきた。こうやって、お互い少しずつ信じ合えるようになり、本当の夫婦に近付いているのだろう。
 最近の私の頭の中には、もはや、婚約破棄という言葉は思い浮かばない。

 

 夜。フリードと寝室を共にし始めた私は、フリードとベッドに入る。もちろん深い関係にはなっておらず、その日に起こった出来事を話して、くっついて眠るだけだ。それだけでも幸せを感じ、フリードとずっと一緒にいたいと思う私は、相当フリードに毒されているのだろう。

「メリッサがハンスベルクの騎士と当たる確率は低そうだな」

 フリードが、最近発表された武術大会のトーナメント表を見ながら呟く。

「お前を負かした奴がいれば、俺が半殺しにしてしまいそうだ」

 その言葉は冗談ではないらしい。フリードはにこりともせずに言うのだから。だから慌てて告げる。

「武術大会なんだから、相手に悪意はないのよ」

「分かっている。……だが」

 フリードはそう言って、ぎゅっと私を抱きしめる。フリードの大きな体は、小柄な私をすっぽり包み込んでしまう。そして、私はフリードに包まれると安心して身を委ねてしまう。フリードの温かい体温が、寒い夜にはとても心地よい。

「メリッサには、傷一つ負って欲しくない。それが俺の本心だ」

「うん……」

「だから、負けてもいい。……死ぬな」

「死ぬはずないじゃない!」

 なんて言いながらも、前世のことを思い出してしまった。私は人が死ぬはずもない柔道の大会で、死んだ。人と戦う以上、死ぬ可能性だってあるのだ。

「俺を置いていくな」

 フリードの低い声は、寂しげで消えてしまいそうだった。いつもの強くて無骨なフリードからは、考えられないほど。だから慌ててフリードを見ようとするが、後ろからぎゅうっと抱きしめられて身動き一つ取れない。

 フリードは、両親や兄弟もこの世にいない。家族に虐げられてきた私はフリードを羨ましくも思ったが、フリードには私の知らない悲しみがあるのだろう。はやく結婚をして子供を作ろうと思ったのも、世継ぎのためだけではないのかもしれない。
 だからこそ、無理はしてはいけないと思っている。負けるより一番避けたいのは、死ぬことだ。

「武術大会が終わったら……家族になろうね」

 私はフリードに告げる。フリードは何も言わず、ただぎゅっと私を抱きしめる。

「男の子が出来たら、うんと強い子にしたい。女の子でも、やっぱり強い子にしたい」

「そうだな」

 フリードは私を抱きしめたまま、頬にちゅっとキスをする。それだけで私はドキドキが止まらないのに、これ以上関係が進展したらどうなるのだろうか。

「子供が出来たら、もうお前に逃げられることもないだろう」

 もう、逃げる気なんてないのだが。だが、恥ずかしくてそんなこと、言えるはずもない。私は黙って、私に回されているその強い大きな手を掴む。

「メリッサ」

 普段のフリードからは考えられないほどの、甘くて優しい声が私の名を呼ぶ。そんな声で呼ばないで欲しい。胸がきゅーっと甘い音を立てて、私が私でなくなってしまいそう。

「愛してる」

 切なげな声で囁かれる。少し掠れた低い声。なんだか色気があって、体がぞわっとする。そして、そんなことを言われるとますます離れられなくなってしまう。フリードが大好きだと思ってしまう。
 あんなに嫌いだったのに、いつの間にかこんなにも大好きになっている。そして、フリードの言葉が心地よく幸せに感じる。

「メリッサ……」

 フリードらしくない、甘い声で再び名前を呼ばれる。

「お前は俺のこと、どう思っているのか? 」

 これは何かの拷問なのだろうか。フリードを好きだと言うと、私の中の女の部分がまた顔を出してしまう。もっとフリードから離れられなくなってしまう。

 ぐっと黙る私の耳に、フリードは優しくキスをする。それで私は、頭が真っ白になってしまう。これ以上やられたら駄目だ。このまま寝技に持ち込まれてしまう……

「ぶ、武術大会が終わったら言うわね」

 愚かな私は完全に逃げの姿勢だ。こんな私の髪をそっと撫で、フリードは静かに告げた。

「それでは、俺はそれまでお預けを喰らうのか」

 むしろ、武術大会が終わったら、私たちはどうなってしまうのだろうか。

「楽しみにしている。お前が俺のことを愛してるって言ってくれる日を」

 フリードは私を優しく抱きしめ、髪に顔を埋める。私はフリードに包まれたまま、ゆっくりと眠りの世界へ落ちていった。
 フリードが嫌いだったのが嘘のようだ。そして、フリードが私に興味がなかったのも嘘のようだ。人を信頼するのは怖い。だが、確実に私はフリードを信じ始めているのだった。
 

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