つまらない女と言われたため、婚約者をぶん殴りました〜婚約破棄して武闘家になろうと思います〜

湊一桜

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彼は本当は、武術大会に出て欲しくない

第40話

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 フリードは真っ赤な顔のまま、目をごしごしと擦る。必死に泣いていることを隠しているのだろう。こんな感情剥き出しのフリードに、私の心はぐいぐい揺さぶられる。そして、普段は無表情のフリードが、こんなにも気持ちを抑えられないのだ。そう考えた瞬間、私の気持ちは決まった。

「棄権する!」

 私はフリードに告げた。
 そもそも、武術大会に出ようとしたのも、武闘家になるつもりだったからだ。それに、フリードやジルが優勝したという事実に対抗しようとしたからだ。私は今や婚約破棄をするつもりはないし、フリードと幸せになりたいと思っている。このまま武術大会に出続けて、フリードとの未来を台無しにしたくはない。
 悔しいけど、武術大会は諦めよう。命が危なくなったら棄権しようと、ずっと思っていたのだ。

 フリードは驚いて私を見る。そして、ホッとしたような、それでいて悲しげな表情を浮かべる。そしてまたぎゅっと私を抱きしめるのだ。
 こうやって、フリードに抱きしめられると幸せだと思う。もっと、ずっとこうしていたいと思う。そして、私が死んだりなんてしたら、フリードはきっとすごく悲しむのだろう。私は、フリードを悲しませたくない。



 扉の向こうからは、人々の足音や話し声がひっきりなしに聞こえてきた。そして誰かが扉の前に立ち止まったのだろうか。ひときわ大きな話し声が聞こえてきた。

「あなたの魔術、効果絶大だったわ。明日の試合でもお願いね」

 その声を聞いた瞬間、体が震えた。私はその声を知っている。いつもその声で罵られ、馬鹿にされ続けてきた。私はこの声から解放され、自由に暮らせると思っていたのに……

「ですが、ラファエラ様。貴女のお姉様が勝ってしまいました。
 相手が僕とお姉様の間にいる間は、僕の魔術が相手に当たってしまうので……」

 私はフリードと顔を見合わせていた。そして次の瞬間、がちゃりと扉が開かれる。私たちは慌てて空箱の隅に身を隠す。それと同時に、私たちが立っていたところに彼女が現れた。
 ピンク色のフリフリのドレスを着たラファエラは、黒いローブを着た男性と腕を組んでいる。無精髭の生えた冴えない男性に、ラファエラは告げる。

「いいわ。どうせ明日も妨害してくれるんでしょう? 
 お姉様なんて、死んでしまえばいいわ」

 その甲高くて甘い声が、部屋に響いた。

「アダムが優勝すれば、殿下は救護係の私を宮廷に迎えてくれると言ったわ。そして私は、殿下と結婚するの。
 隣国の王子と結婚となると、お父様も喜んでくれるわ」

 ……は? ラファエラは何を言っているのだろう。
 隣国の王子と……結婚!? 

 ぽかーんとする私の前で、ラファエラは得意げに話す。

「王子と結婚したら、悪魔辺境伯と結婚予定のお姉様もぎゃふんと言うでしょう? 」

 ラファエラは、この場に来てもまだ私を陥れることを考えているのだろうか。とても愚かだ。私はラファエラが誰と結婚しようが気にしない。私のなかで最高の男がフリードなのだから。

「私は、悪魔辺境伯にも恨みがあるわ。私が隣国の王子と結婚したら、ハンスベルク辺境伯領に攻め入ってあげるの。そして、ハンスベルクの地を私のものにするわ」

 ラファエラは頭が悪いのだろうか。なんて馬鹿なことを考えているのだろうか。

「あなたも、私の計画が上手くいったら、宮廷で魔術師として雇ってあげるわね」

 ラファエラはそう言い残して扉から出て行った。無精髭の魔術師は、ラファエラの消えた扉をずっと見ている。そして、私は嫌な胸騒ぎが止まらない。ラファエラの計画は壮大すぎて、実行は困難だろう。だが、もし本当にアダムが優勝してしまったら……ラファエラが上手く隣国王子の懐に入ることが出来たら……そんなこと、考えたくもない。


 呆然と立ち尽くす私の隣で、

「今の話、本当か? 」

フリードは空箱の陰から出る。突然現れたハンスベルク辺境伯を見て、ローブの男は青ざめて飛び上がった。そして、

「も……申し訳ありません!!」

地面に這いつくばって許しを請う。
 フリードは私に背中を向けているため、どんな顔をしているのか分からない。だがきっと、鬼のような顔をしているのだろう。突き刺すような冷たい声で、彼に告げる。

「魔術を使うのは大会規則違反だということは、知っているな? 」

「は、はいっ!」

「規則違反を犯したものは、それ相応の罰を受ける。……知っているな? 」

 罰と聞いて、男は震え上がって小さくなる。フリードは男の胸ぐらを掴み、ドンっと地面に押し付ける。その背中からは、メラメラと怒りの炎が見えるほどだった。

「お前は我が妻となるメリッサを、不当に攻撃した。それだけで死を持って償うことに値する。加えて、大会規則違反だ。
 ……罪を少しでも軽くしたいなら、知っていることを洗いざらい話せ」

 男はフリードに地面に押さえつけられたままガクガクと震えていた。男を哀れに思うとともに、私に術をかけたことに対する怒りも覚える。

「も、申し訳ありません」

 男は震える声で謝る。そして男はフリードに押さえつけられたまま、か細い声で話し始めた。
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