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彼は本当は、武術大会に出て欲しくない
第39話
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どうしよう……体が動かない!!
今回も勝てると思っていた。だが、私の体はまるで見えない手で押さえられているように、動かすことは出来なくなっていた。そして技をかけようとした相手が目の前にいて、得意げな顔で私を攻撃する。受け身の体勢を取れないものだから、私はまともに攻撃を受けた。顔に、体に衝撃が走る。そして、口の中が切れたのだろうか。血の味がする。
私よりも大柄なその女性は私を持ち上げ、プロレスのようにバックドロップをしようと後ろにそり返った。その一瞬、私の体が自由になる。体を押さえつけている力が緩み、手足が動くことが分かった。
私は体を捻って急所が地面にぶつかるのを避ける。上半身は無事だが、左足に鋭い痛みが走った。それと同時に、何かが折れるような音がする。骨折してしまったのだろうか。
私の上から相手が身を離した瞬間、また体が地面に押さえつけられる。どうやら、相手が特定の方向にいる場合だけ、私は自由に動けるようになるらしい。誰かが一方向から術でもかけているのだろうか。そしてその術の死角になった場合のみ、動けるのだろうか。私の頭の中に、ラファエラの顔が浮かんだ。
まさか……
再び体を動かせない私を前に、相手は勝ち誇った顔をしていた。勝利を確信しているらしい。このままでは、私は本当に負けてしまう。勝つ唯一の方法は……術の死角になった一瞬の隙を狙うしかない。
相手は立てない私を前に、再び攻撃の構えを取った。そして私は、彼女が「その位置」に来るのをじっと待つ。
そして、相手が「その位置」に来た瞬間、私はありったけの力を込めて彼女に飛びかかった。火事場の馬鹿力とは、まさしくこういう時に発揮されるのだろう。私の渾身の突きを受けた相手は、その場にばたっと倒れたのだ。
「勝負あり!」
レフェリーの声が響き渡り、双方の救護係が駆け寄る。私はようやく痛みを感じ始めた左足を引きずりながら、相手へと歩み寄る。
嫌な胸騒ぎがする。何らかの術を受けていた私は、力を加減するような余裕はなかった。そして文字通り渾身の突きを放ったのだ。倒れている相手は、ぴくりとも動かない。これはもしかして……
考えれば考えるほど、恐ろしくなる。私はまさか、人を殺してしまったのだろうか。かつての私と同じく、当たりどころが悪く、この女性は死んでしまうのだろうか。
私は、人を殺すことなんて望んでいない。誰かの人生を終わらせることなんて、したくもない。
「大丈夫ですか!? 」
ドキドキする胸を押さえ、相手の救護係に話しかける。相手の救護係は無能なラファエラとは違い、治癒の術を持ち合わせているようだ。私が突いた胸元を押さえ、黙って力を送る。
「ちょっと、メリッサ!? 」
背後から、戸惑ったようなハイデマリーの声が聞こえる。
「あんたこそ大丈夫!? 」
その言葉で初めて自分の足を見た。私の足は、通常では考えられない方向にぐにゃりと曲がっているのだ。それを見て、思わず叫びそうになった。そして、急激に足に痛みが襲いかかる。
「大丈夫よ」
ハイデマリーはそう告げ、私の足を持ち上げる。その瞬間にまた痛みが走り、私は闘技場の中心で絶叫していた。
だが……ハイデマリーは有能な聖女だった。その実力は折り紙付きだ。いつの間にか足からは痛みが退き、元通りの動くようになっている。
「ハイデマリー、ありがとう!!」
ハイデマリーに抱きつくとともに、少しずつ安堵が押し寄せてくる。なんとか勝てた。それだけでなく、怪我も治してもらうことが出来た。でも、あの術は何だったのだろう。明らかに私は狙われ、負けるところだった。……ラファエラが誰かに術をかけさせたのだろうか。
救護係のおかげで、目の前に倒れている女性も目を開いた。それを見て、泣きそうになってしまったのは言うまでもない。
死ななくて、本当に良かった……
こうして私はなんとか勝ち上がり、明日の後半戦へと挑むことになった。純粋に技術では勝てるとしても、今日みたいに何らかの術で妨害されると困る。犯人が捕まらない限り、明日も妨害されるのだろう。私は、どうなってしまうのだろう。
◆◆◆◆◆
試合を終えて闘技場を出ようとすると、待ち構えていたフリードに捕まった。フリードは私を見つけた瞬間いつもの無表情で歩み寄り、ぎゅっと抱きしめる。
「ふ、フリード!! ハイデマリーがいるのに!」
私はどぎまぎしながらフリードを振り解こうとする。だが、強靭なフリードは私を解放してくれない。私がもがくたび、ぎゅうぎゅうと壊れそうになるほど私を抱きしめるのだ。
「死ぬかと思った……」
フリードは弱々しい声で告げる。そして顔を私の肩に乗せる。
「どうしてお前が狙われるんだ……」
フリードも気付いていたんだ。
「誰があんなことをしたんだ。魔術を使うことは、大会規則で禁じられているのに……」
私はフリードを悲しませるために、武術大会に出たわけではない。それに、不正行為を受けるために出たわけでもない。
フリードの後ろにはジルがいて、
「メリッサ、よく頑張ったね」
フリードに抱きしめられる私に言う。
「ハイデマリーも、メリッサを助けてくれて、ありがとう。
僕たちは先に帰ろうか」
ジルはそう告げて、ハイデマリーの手を引いて消えてしまった。壊れそうなフリードに対する最大限の配慮だろう。
ジルとハイデマリーが消えた私たちは、人気のない廊下に取り残されている。外からは人々の騒がしい声も聞こえるが、それよりも自分の鼓動がさらに大きく聞こえた。フリードに抱きしめられてドキドキするのと、自分がとんでもない罠にかかっているのではないかとドキドキするのと……
「フリード……」
私は、私にもたれかかるフリードの頭をくしゃっと撫でる。
「私、大丈夫だから」
「大丈夫じゃないだろ!! 」
そう言って顔を上げたフリードの顔は真っ赤だった。感情剥き出しでくしゃっとなった瞳には、少し涙が浮かんでいる。
泣くの!? ……フリードって、泣くの!?
私はどぎまぎして、フリードをぽかんと見つめていた。
今回も勝てると思っていた。だが、私の体はまるで見えない手で押さえられているように、動かすことは出来なくなっていた。そして技をかけようとした相手が目の前にいて、得意げな顔で私を攻撃する。受け身の体勢を取れないものだから、私はまともに攻撃を受けた。顔に、体に衝撃が走る。そして、口の中が切れたのだろうか。血の味がする。
私よりも大柄なその女性は私を持ち上げ、プロレスのようにバックドロップをしようと後ろにそり返った。その一瞬、私の体が自由になる。体を押さえつけている力が緩み、手足が動くことが分かった。
私は体を捻って急所が地面にぶつかるのを避ける。上半身は無事だが、左足に鋭い痛みが走った。それと同時に、何かが折れるような音がする。骨折してしまったのだろうか。
私の上から相手が身を離した瞬間、また体が地面に押さえつけられる。どうやら、相手が特定の方向にいる場合だけ、私は自由に動けるようになるらしい。誰かが一方向から術でもかけているのだろうか。そしてその術の死角になった場合のみ、動けるのだろうか。私の頭の中に、ラファエラの顔が浮かんだ。
まさか……
再び体を動かせない私を前に、相手は勝ち誇った顔をしていた。勝利を確信しているらしい。このままでは、私は本当に負けてしまう。勝つ唯一の方法は……術の死角になった一瞬の隙を狙うしかない。
相手は立てない私を前に、再び攻撃の構えを取った。そして私は、彼女が「その位置」に来るのをじっと待つ。
そして、相手が「その位置」に来た瞬間、私はありったけの力を込めて彼女に飛びかかった。火事場の馬鹿力とは、まさしくこういう時に発揮されるのだろう。私の渾身の突きを受けた相手は、その場にばたっと倒れたのだ。
「勝負あり!」
レフェリーの声が響き渡り、双方の救護係が駆け寄る。私はようやく痛みを感じ始めた左足を引きずりながら、相手へと歩み寄る。
嫌な胸騒ぎがする。何らかの術を受けていた私は、力を加減するような余裕はなかった。そして文字通り渾身の突きを放ったのだ。倒れている相手は、ぴくりとも動かない。これはもしかして……
考えれば考えるほど、恐ろしくなる。私はまさか、人を殺してしまったのだろうか。かつての私と同じく、当たりどころが悪く、この女性は死んでしまうのだろうか。
私は、人を殺すことなんて望んでいない。誰かの人生を終わらせることなんて、したくもない。
「大丈夫ですか!? 」
ドキドキする胸を押さえ、相手の救護係に話しかける。相手の救護係は無能なラファエラとは違い、治癒の術を持ち合わせているようだ。私が突いた胸元を押さえ、黙って力を送る。
「ちょっと、メリッサ!? 」
背後から、戸惑ったようなハイデマリーの声が聞こえる。
「あんたこそ大丈夫!? 」
その言葉で初めて自分の足を見た。私の足は、通常では考えられない方向にぐにゃりと曲がっているのだ。それを見て、思わず叫びそうになった。そして、急激に足に痛みが襲いかかる。
「大丈夫よ」
ハイデマリーはそう告げ、私の足を持ち上げる。その瞬間にまた痛みが走り、私は闘技場の中心で絶叫していた。
だが……ハイデマリーは有能な聖女だった。その実力は折り紙付きだ。いつの間にか足からは痛みが退き、元通りの動くようになっている。
「ハイデマリー、ありがとう!!」
ハイデマリーに抱きつくとともに、少しずつ安堵が押し寄せてくる。なんとか勝てた。それだけでなく、怪我も治してもらうことが出来た。でも、あの術は何だったのだろう。明らかに私は狙われ、負けるところだった。……ラファエラが誰かに術をかけさせたのだろうか。
救護係のおかげで、目の前に倒れている女性も目を開いた。それを見て、泣きそうになってしまったのは言うまでもない。
死ななくて、本当に良かった……
こうして私はなんとか勝ち上がり、明日の後半戦へと挑むことになった。純粋に技術では勝てるとしても、今日みたいに何らかの術で妨害されると困る。犯人が捕まらない限り、明日も妨害されるのだろう。私は、どうなってしまうのだろう。
◆◆◆◆◆
試合を終えて闘技場を出ようとすると、待ち構えていたフリードに捕まった。フリードは私を見つけた瞬間いつもの無表情で歩み寄り、ぎゅっと抱きしめる。
「ふ、フリード!! ハイデマリーがいるのに!」
私はどぎまぎしながらフリードを振り解こうとする。だが、強靭なフリードは私を解放してくれない。私がもがくたび、ぎゅうぎゅうと壊れそうになるほど私を抱きしめるのだ。
「死ぬかと思った……」
フリードは弱々しい声で告げる。そして顔を私の肩に乗せる。
「どうしてお前が狙われるんだ……」
フリードも気付いていたんだ。
「誰があんなことをしたんだ。魔術を使うことは、大会規則で禁じられているのに……」
私はフリードを悲しませるために、武術大会に出たわけではない。それに、不正行為を受けるために出たわけでもない。
フリードの後ろにはジルがいて、
「メリッサ、よく頑張ったね」
フリードに抱きしめられる私に言う。
「ハイデマリーも、メリッサを助けてくれて、ありがとう。
僕たちは先に帰ろうか」
ジルはそう告げて、ハイデマリーの手を引いて消えてしまった。壊れそうなフリードに対する最大限の配慮だろう。
ジルとハイデマリーが消えた私たちは、人気のない廊下に取り残されている。外からは人々の騒がしい声も聞こえるが、それよりも自分の鼓動がさらに大きく聞こえた。フリードに抱きしめられてドキドキするのと、自分がとんでもない罠にかかっているのではないかとドキドキするのと……
「フリード……」
私は、私にもたれかかるフリードの頭をくしゃっと撫でる。
「私、大丈夫だから」
「大丈夫じゃないだろ!! 」
そう言って顔を上げたフリードの顔は真っ赤だった。感情剥き出しでくしゃっとなった瞳には、少し涙が浮かんでいる。
泣くの!? ……フリードって、泣くの!?
私はどぎまぎして、フリードをぽかんと見つめていた。
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