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彼は本当は、武術大会に出て欲しくない
第38話 (フリードside)
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「それにしても、フリード様が本気で惚れるなんてね……」
隣に座ったジルが闘技場を見下ろしながら呟く。そんなジルを無視しながら、俺はひたすらメリッサを心配した。
俺だって、こうもメリッサにハマるとは思ってもいなかった。女なんて所詮子孫を残すための道具だと思っていたのに、まんまとメリッサにやられてしまった。
思ったことを素直に言うところ。俗に言うおてんばなところ。正義感に溢れているところ。それなのに、照れて女の子らしいところや、周りの人を気遣う優しいところもある。
俺はこんなメリッサに、瞬く間に惚れた。そして自分でも驚くほど、メリッサに執着している。メリッサが大切なあまり武術大会にも出て欲しくなかったが、婚約破棄という言葉をチラつかされた。だから俺は、出場を許すしか無かった。
メリッサは、武術大会が終わったら、俺と本当の家族になると言っていた。婚約破棄をするつもりは、もうないのだろうか。かつて酷いことを言った俺を、受けて入れてくれたのだろうか。
メリッサのことを考えるたび、胸が痛くなる。メリッサが愛しくて愛しくて仕方がない。俺はいつの間にか、こんなにもメリッサしか見えなくなっていた。
「ジルには悪いことをした」
ぽつりとジルに告げる。ジルは気付かれないふりをしていたが、メリッサに惚れていたのだろう。メリッサもジルによく懐いていたため、ジルが落ちるのも時間の問題だと思っていた。だが、ジルも瞬く間にメリッサに落ちたのだ。
だが俺は、ジルにメリッサを譲るつもりはなかった。権力を最大限に振りかざし、メリッサを自分のものだと言い張った。
ジルは一瞬驚いたように俺を見る。そして、口角を上げて告げた。
「僕はもう、フリード様とメリッサが幸せになればそれでいいんです」
そう言って、ハイデマリーを見つめる。メリッサが闘技場の中央に出ていくなか、ハイデマリーは控え席で不安そうにメリッサを見守る。この聖女も、メリッサと関わってから随分変わった女性だ。そしてジルは、今やハイデマリーに惚れているのだろう。今やハイデマリーを狙う者も多く、ジルはまた苦戦を強いられるかもしれない。だが、ジルには幸せになってほしい。
俺は改めてメリッサを見た。長い髪を後ろで結び、簡素な平民のシャツにパンツを履いている。闘技場の中央にいるメリッサは、どこからどう見ても伯爵令嬢なんかに見えない。そして、強そうにも見えないだろう。人々はメリッサを見てどよめいている。
来賓席に座る俺には、観客が何と言っているのか分かるはずもない。だがきっと、メリッサの悪口を言っているのだろう。そう言っておられるのも今のうちだ。相手が女性である限り、メリッサは勝ち上がるだろう。ハンスベルク辺境伯領騎士と互角に戦うメリッサだ。あの力強い技は、どこから出てくるのか不思議なほどだ。
「賭けましょうか? メリッサがどこまでいけるか」
隣のジルが、笑いながら言う。
「僕は、八位入賞だと思います」
「そうか」
俺は静かに告げた。
「それなら、俺は優勝に賭ける」
ジルは驚いて俺を見た。さすがのジルも、メリッサが優勝するだなんて思ってもいないのだろう。確かに大男を相手に、優勝するのは難しいに違いない。だが、メリッサは優勝を狙っている。俺はメリッサの気持ちを後押しするのみだ。
「……本気ですか? 」
ジルの言葉に、俺は黙って頷く。
メリッサが子供を持つことを考えるのなら、この武術大会が最後の試合になるかもしれない。メリッサには精一杯頑張って欲しい。だが、当然不安もある。どうか怪我などしないようにと、俺は祈ることしか出来なかった。
俺の心配をよそに、メリッサはどんどん勝ち上がっていった。相手が女性である時は、メリッサは手加減しているのではないかと思うほど余裕だった。小柄のメリッサは、力こそ男には劣るものの、圧倒的に素早かった。瞬時に相手の死角に回り、相手を軽々と投げ飛ばす。それは何かの芸術を見ているようにさえ思えた。
メリッサのあの技は何だろう。俺たちは力任せに相手をねじ伏せるが、メリッサはむしろ脱力しているのかと感じさせる。そして、一瞬の隙をついて力をかけ、自分よりも遥か大きな敵を投げ飛ばすのだ。
メリッサの動きを見ていると、何らかの武術に精通しているように思える。つまり、かなりの経験者なのだ。騎士団の調査によると、ヤヌース伯爵領で、メリッサは虐げられて生きていた。時折ヒューゴと決闘をするだけだ。それだけで、あそこまでの熟練した動きが出来るようになるのだろうか。
考え込む俺の前で、相手がメリッサに掴み掛かろうとしていた。メリッサは瞬時にそれを交わし、相手の懐に飛び込む。そしてシャツを掴み、足をかけて倒そうとする。またメリッサが相手を突き飛ばすのだ。誰もがそう確信した時だった。
メリッサの軸足が大きくぐらついた。そしてバランスを崩したメリッサは、尻もちをつく。メリッサの勝ちを確信していた観客はざわついた。そして俺は、不自然な動きをするメリッサから目が離せなくなる。
メリッサは文字通り丸腰だった。尻もちをついたまま、足に力が入らないとでもいうかのように。次は必死に手を振り上げるが、手だって言うことを聞かないようだ。
……おかしい。メリッサは、体を操られているのだろうか。まるで、何かの術にかかっているようだ。
「ジル」
俺はジルに告げる。
「誰かが客席から、メリッサの自由を奪う術をかけていないだろうか」
「!? 」
ジルは慌てて辺りを見回すが、この広い闘技場でメリッサに術をかけている人を探すのは至難の業だ。だが、このままではメリッサが危ない。
隣に座ったジルが闘技場を見下ろしながら呟く。そんなジルを無視しながら、俺はひたすらメリッサを心配した。
俺だって、こうもメリッサにハマるとは思ってもいなかった。女なんて所詮子孫を残すための道具だと思っていたのに、まんまとメリッサにやられてしまった。
思ったことを素直に言うところ。俗に言うおてんばなところ。正義感に溢れているところ。それなのに、照れて女の子らしいところや、周りの人を気遣う優しいところもある。
俺はこんなメリッサに、瞬く間に惚れた。そして自分でも驚くほど、メリッサに執着している。メリッサが大切なあまり武術大会にも出て欲しくなかったが、婚約破棄という言葉をチラつかされた。だから俺は、出場を許すしか無かった。
メリッサは、武術大会が終わったら、俺と本当の家族になると言っていた。婚約破棄をするつもりは、もうないのだろうか。かつて酷いことを言った俺を、受けて入れてくれたのだろうか。
メリッサのことを考えるたび、胸が痛くなる。メリッサが愛しくて愛しくて仕方がない。俺はいつの間にか、こんなにもメリッサしか見えなくなっていた。
「ジルには悪いことをした」
ぽつりとジルに告げる。ジルは気付かれないふりをしていたが、メリッサに惚れていたのだろう。メリッサもジルによく懐いていたため、ジルが落ちるのも時間の問題だと思っていた。だが、ジルも瞬く間にメリッサに落ちたのだ。
だが俺は、ジルにメリッサを譲るつもりはなかった。権力を最大限に振りかざし、メリッサを自分のものだと言い張った。
ジルは一瞬驚いたように俺を見る。そして、口角を上げて告げた。
「僕はもう、フリード様とメリッサが幸せになればそれでいいんです」
そう言って、ハイデマリーを見つめる。メリッサが闘技場の中央に出ていくなか、ハイデマリーは控え席で不安そうにメリッサを見守る。この聖女も、メリッサと関わってから随分変わった女性だ。そしてジルは、今やハイデマリーに惚れているのだろう。今やハイデマリーを狙う者も多く、ジルはまた苦戦を強いられるかもしれない。だが、ジルには幸せになってほしい。
俺は改めてメリッサを見た。長い髪を後ろで結び、簡素な平民のシャツにパンツを履いている。闘技場の中央にいるメリッサは、どこからどう見ても伯爵令嬢なんかに見えない。そして、強そうにも見えないだろう。人々はメリッサを見てどよめいている。
来賓席に座る俺には、観客が何と言っているのか分かるはずもない。だがきっと、メリッサの悪口を言っているのだろう。そう言っておられるのも今のうちだ。相手が女性である限り、メリッサは勝ち上がるだろう。ハンスベルク辺境伯領騎士と互角に戦うメリッサだ。あの力強い技は、どこから出てくるのか不思議なほどだ。
「賭けましょうか? メリッサがどこまでいけるか」
隣のジルが、笑いながら言う。
「僕は、八位入賞だと思います」
「そうか」
俺は静かに告げた。
「それなら、俺は優勝に賭ける」
ジルは驚いて俺を見た。さすがのジルも、メリッサが優勝するだなんて思ってもいないのだろう。確かに大男を相手に、優勝するのは難しいに違いない。だが、メリッサは優勝を狙っている。俺はメリッサの気持ちを後押しするのみだ。
「……本気ですか? 」
ジルの言葉に、俺は黙って頷く。
メリッサが子供を持つことを考えるのなら、この武術大会が最後の試合になるかもしれない。メリッサには精一杯頑張って欲しい。だが、当然不安もある。どうか怪我などしないようにと、俺は祈ることしか出来なかった。
俺の心配をよそに、メリッサはどんどん勝ち上がっていった。相手が女性である時は、メリッサは手加減しているのではないかと思うほど余裕だった。小柄のメリッサは、力こそ男には劣るものの、圧倒的に素早かった。瞬時に相手の死角に回り、相手を軽々と投げ飛ばす。それは何かの芸術を見ているようにさえ思えた。
メリッサのあの技は何だろう。俺たちは力任せに相手をねじ伏せるが、メリッサはむしろ脱力しているのかと感じさせる。そして、一瞬の隙をついて力をかけ、自分よりも遥か大きな敵を投げ飛ばすのだ。
メリッサの動きを見ていると、何らかの武術に精通しているように思える。つまり、かなりの経験者なのだ。騎士団の調査によると、ヤヌース伯爵領で、メリッサは虐げられて生きていた。時折ヒューゴと決闘をするだけだ。それだけで、あそこまでの熟練した動きが出来るようになるのだろうか。
考え込む俺の前で、相手がメリッサに掴み掛かろうとしていた。メリッサは瞬時にそれを交わし、相手の懐に飛び込む。そしてシャツを掴み、足をかけて倒そうとする。またメリッサが相手を突き飛ばすのだ。誰もがそう確信した時だった。
メリッサの軸足が大きくぐらついた。そしてバランスを崩したメリッサは、尻もちをつく。メリッサの勝ちを確信していた観客はざわついた。そして俺は、不自然な動きをするメリッサから目が離せなくなる。
メリッサは文字通り丸腰だった。尻もちをついたまま、足に力が入らないとでもいうかのように。次は必死に手を振り上げるが、手だって言うことを聞かないようだ。
……おかしい。メリッサは、体を操られているのだろうか。まるで、何かの術にかかっているようだ。
「ジル」
俺はジルに告げる。
「誰かが客席から、メリッサの自由を奪う術をかけていないだろうか」
「!? 」
ジルは慌てて辺りを見回すが、この広い闘技場でメリッサに術をかけている人を探すのは至難の業だ。だが、このままではメリッサが危ない。
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