つまらない女と言われたため、婚約者をぶん殴りました〜婚約破棄して武闘家になろうと思います〜

湊一桜

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彼は本当は、武術大会に出て欲しくない

第37話

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 ラファエラの姿が見えなくなると、

「何もされなかったか? 」

フリードが私に聞く。私が強いことを知っていても、フリードはこうやって私を心配してくれる。ちゃんと女性として扱っていてくれるのだと嬉しくなる。

「うん、何もないよ」

 そう言った後に、付け足した。

「ラファエラがいるなんてびっくりしたわ」

「そうだな」

 フリードは低く告げ、私の肩に手を回してゆっくりと歩き始める。私は知らないうちに、フリードに身を寄せていた。

「俺もあの女の目的を知らない。だが、昨日は別の男と一緒にいたと報告を受けている」

「……え? 」

 思わずフリードを見上げた。すると、フリードは複雑な顔で私を見下ろした。いつもの無表情ではなく、私に同情するようにも見える。

「仮にもメリッサの家族だから、お前に言うか迷った。だが、夫婦に隠し事はいけない。本当のことを告げておく」

 低い声で静かにフリードが話す。私は嫌な胸騒ぎがする。

「あの女は、いろんな男に体を売っているようだ。そして、武術大会に関して何らかの働きかけをしているようだ」

 その言葉に、

「……え!? 」

思わず聞き返してしまった。

 ラファエラが、プライドが高く負けず嫌いであることは分かっていた。ただ、淑女としての誇りもあり、男に体を売るなんてことはしないと思っていた。……それなのに、だ。一体、ラファエラは何を企んでいるのだろう。

「本当は武術大会に出て欲しくない。だが、お前はどうしても出たいのだろう?
 だから……負けてもいい。細心の注意をしてくれ」

 フリードの声は微かに震えていた。フリードがこんなにも感情を露わにして話すのは珍しい。それほど、私のことを心配してくれているのだろう。

 私はそっとフリードに身を寄せる。そしてその頑強な体を感じながら、静かに告げた。

「絶対に、死なないから!」

 それは、自分自身に対する決意表明でもある。ここで武術大会の出場を辞退するという選択肢もある。だが、それこそがラファエラの狙いかもしれない。ラファエラの狙いがはっきりしない限り、下手に動くのはよくない。ラファエラはとんでもないことを考えているかもしれないから……

「救護係にハイデマリーもいるし」

 ラファエラが救護係をするのなら、ハイデマリーがいてくれることは大きなメリットだ。ラファエラとハイデマリーの能力の差は大きすぎる。私はこの恵まれた状況を最大限に活用して、きっと最善の結果を出してみせる。

「メリッサ」

 フリードは、私だけが知るその甘い声で私を呼ぶ。武術大会の前なのに、フリードに縋りたいと思ってしまう。私がフリードに気持ちを伝えるのは、武術大会が終わってからだという約束なのに。

「愛してる」

 フリードは低く甘くそう告げて、そっと唇を重ねる。強くて冷たいと思われているフリードからは考えられないほどの、優しくて甘いキスが降り注ぐ。私たちは人目もはばからず、長いキスを交わす。そして、名残惜しそうに唇が離れると、目の前には口元をきゅっと結んだフリードの顔。
 今やフリードは私には心を許し、感情をはっきりと出している。そんなフリードの様子が嬉しく、すぐにでも抱きつきたい。だけど、今は駄目だ。武術大会が終わってから、フリードに思いっきり甘えるんだ。

「頑張るね」

 そう告げると、フリードは泣き出しそうな顔のまま、私の頭をそっと撫でた。




◆◆◆◆◆



 武術大会は、この街にあるとても大きな闘技場で行われる。日本にある、国立武道館、いや、イタリアのコロッセオとでもいうところだろうか。周りをぐるっと観客席が囲み、中央にだだっ広いグラウンドがある。そこにハイデマリーと並びながら、あまりの人の多さに驚いた。

「あんた、マジで勝てるの? 」

 ハイデマリーは辺りをきょろきょろしながらぼやく。というのも、相当数の女性参加者もいるが、女性は皆私よりも強く見える。それに加えてアダムをはじめとする筋肉隆々の男たち。さすがの私も、自分が場違いかもしれないと思い始めた。柔道の試合は同じくらいの体格の相手と戦うが、この武術大会は無差別級だ。

「と、とりあえず頑張るわ」

 ハイデマリーに答えていた。

 遠くにアダムを見つけた。人一倍大きいアダムは、遠くにいてもとても目立つ。そしてその横には得意顔のラファエラがいて、私は反射的にラファエラに見つからないようにハイデマリーの陰に隠れた。

 そんな中、開会式が行われ、闘技場が沸いた。私は、前世の柔道の全日本選手権を思い出していた。当時優勝候補ではなかった無名の私は、相手を次々に投げ飛ばし勝ち上がった。優勝目の前にして人生の幕を閉じたが、今世ではそんな目には遭わない。あの時みたいに、客席を沸かせるのだ!


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