追放された貧乏令嬢ですが、特技を生かして幸せになります。〜前世のスキル《ピアノ》は冷酷将軍様の心にも響くようです〜

湊一桜

文字の大きさ
30 / 58
第一章

30. このまま、ここにいてもいいのですね

しおりを挟む
 私は思わず顔を上げた。目の前には、アンドレ様の綺麗な顔。その顔は怒りと憎しみに歪んでいるかと思ったが、至って普通で……いや、むしろ同情するように私を見ている。

「リョヴァン公爵のもとに帰れば、君の実家の財政は保証されるだろう」

 その言葉に俯く。

 (そうですよね……アンドレ様は私に何の感情もないのだから、私がいなくなったところで、痛くも痒くもない)

 その事実を反芻すると、さらに胸が痛くなってくる。私はアンドレ様の特別になれると思ってしまったのに、結局関係は何の進展もなかったのだ。ただの『白い結婚』だ。

「だが……」

 そう言って、アンドレ様は顔の前で手を組んだ。そして、それを眺めながら呟く。

「俺も相応の立場にある。
 君の実家が困っているようであれば、いくらでも援助は出来る……」

「いけません!! 」

 思わず声を荒げ、そして口を噤んで下を向く。大声を出したことがない私が声を張り上げるものだから、アンドレ様も驚いて私を見た。アンドレ様のほうを見ないようにしているのに、その視線を強く感じる。

「なぜ、いけないのか? 」

 取り乱している私とは違い、アンドレ様は驚くほど穏やかに聞く。だから私は、震えながら答えていた。

「実家は、アンドレ様と結婚する際に、国から多額の資金をいただいています。
 それに私は……アンドレ様からお金をいただくために結婚したのではありません」

 そんな綺麗事を言いながらも、お金目当ての結婚であったことを思い返す。家計を救うために、私はパトリック様との縁談を受け入れ、アンドレ様とも結婚することになったのだ。

 ぐっと黙る私に、アンドレ様は再び静かに告げた。

「俺が君の実家の支援を表明しても……君は、リョヴァン公爵のもとへ戻りたいか? 」

 その瞬間、私は思いっきり首を横に振っていた。

「私は、パトリック様の元になんて、戻りたくありません!! 
 私はアンドレ様といたいのです!! 」

 その声が大きく響き渡り、思わず口元を押さえる。

 (私としたことが、否定するのに必死で、つい取り乱してしまいました)

 私はアンドレ様と一緒にいたい。だが、アンドレ様は妻とは名ばかりの、貧乏犯罪者を手元には置いておきたくないかもしれない。常識的に考えればそのはずなのに……

「それなら決まりだ」

 アンドレ様は少し明るい声で告げた。思わずアンドレ様を見上げると、その切れ長の瞳を少し細め、優しげに私を見下ろす。こんな時なのに、きゅんと胸が甘い音を立てる。

「君はこのまま俺のもとにいてもらおう。
 明日、リョヴァン公爵には断っておこう」

 その言葉に涙が溢れそうになる。

「い、いいのですか!? 」

 口元を押さえて必死に泣くまいとする私の頭を、アンドレ様の大きな手がそっと撫でた。

「もちろんだ。
 俺は、このまま君に側にいて欲しい」

 (……え?
 それってまさか……)

 浮かれそうになって、そんなことはないと言い聞かせる。私は紛れもなくアンドレ様に惚れているが、アンドレ様が私を好きなはずなんてないのだろう。結婚式の日に、きっぱりそう言われたのだから。
 それでも嬉しすぎる私は、

「ありがとうございます!! 」

何度も何度も礼を言った。




 こうして、私の実家のこと、婚約破棄のことは、アンドレ様の知るところとなった。アンドレ様に嫌われて当然の事実なのに、アンドレ様は私を責めることもしなかった。ただ、こうして隣にいることを認めてくださっている。

「さあ、リア。久しぶりにともに食事でもしよう」

 疲れていた様子のアンドレ様は、何だか今は元気にさえ見える。いや、私の心が元気になっただけなのかもしれないが。

 私は笑みを浮かべ頷く。するとアンドレ様が立ち上がり、私に手を差し出す。その手を握り、立ち上がる。
 アンドレ様に触れるだけで、胸が熱くときめく。隣になるだけで、頬がにやけてしまう。私はますますアンドレ様に溺れていく。はじめは全力で拒絶されていたが、今は少しずつ距離が近付いているのが分かる。こうやって、少しずつ本当の家族になっているのだと思った。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

『嫌われ令嬢ですが、最終的に溺愛される予定です』

由香
恋愛
貴族令嬢エマは、自分が周囲から嫌われていると信じて疑わなかった。 婚約者である侯爵令息レオンからも距離を取られ、冷たい視線を向けられている――そう思っていたのに。 ある日、思いがけず聞いてしまった彼の本音。 「君を嫌ったことなど、一度もない」 それは誤解とすれ違いが重なっただけの、両片思いだった。 勘違いから始まる、甘くて優しい溺愛恋物語。

異世界へ誤召喚されちゃいました 女神の加護でほのぼのスローライフ送ります

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

悪役令息の継母に転生したからには、息子を悪役になんてさせません!

水都(みなと)
ファンタジー
伯爵夫人であるロゼッタ・シルヴァリーは夫の死後、ここが前世で読んでいたラノベの世界だと気づく。 ロゼッタはラノベで悪役令息だったリゼルの継母だ。金と地位が目当てで結婚したロゼッタは、夫の連れ子であるリゼルに無関心だった。 しかし、前世ではリゼルは推しキャラ。リゼルが断罪されると思い出したロゼッタは、リゼルが悪役令息にならないよう母として奮闘していく。 ★ファンタジー小説大賞エントリー中です。 ※完結しました!

不貞の子を身籠ったと夫に追い出されました。生まれた子供は『精霊のいとし子』のようです。

桧山 紗綺
恋愛
【完結】嫁いで5年。子供を身籠ったら追い出されました。不貞なんてしていないと言っても聞く耳をもちません。生まれた子は間違いなく夫の子です。夫の子……ですが。 私、離婚された方が良いのではないでしょうか。 戻ってきた実家で子供たちと幸せに暮らしていきます。 『精霊のいとし子』と呼ばれる存在を授かった主人公の、可愛い子供たちとの暮らしと新しい恋とか愛とかのお話です。 ※※番外編も完結しました。番外編は色々な視点で書いてます。 時系列も結構バラバラに本編の間の話や本編後の色々な出来事を書きました。 一通り主人公の周りの視点で書けたかな、と。 番外編の方が本編よりも長いです。 気がついたら10万文字を超えていました。 随分と長くなりましたが、お付き合いくださってありがとうございました!

婚約者は冷酷宰相様。地味令嬢の私が政略結婚で嫁いだら、なぜか激甘溺愛が待っていました

春夜夢
恋愛
私はずっと「誰にも注目されない地味令嬢」だった。 名門とはいえ没落しかけの伯爵家の次女。 姉は美貌と才覚に恵まれ、私はただの飾り物のような存在。 ――そんな私に突然、王宮から「婚約命令」が下った。 相手は、王の右腕にして恐れられる冷酷宰相・ルシアス=ディエンツ公爵。 40を目前にしながら独身を貫き、感情を一切表に出さない男。 (……なぜ私が?) けれど、その婚約は国を揺るがす「ある計画」の始まりだった。

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

婚約破棄された幼い公爵令嬢、目覚めたら絶世の美女でした

鍛高譚
恋愛
『幼すぎる』と婚約破棄された公爵令嬢ですが、意識不明から目覚めたら絶世の美女になっていました 幼すぎる、頼りない――そんな理由で婚約者に見限られた公爵令嬢シルフィーネ。 心ない言葉に傷ついた彼女は、事故に遭い意識不明となってしまう。 しかし一年後、彼女は奇跡的に目を覚ます。 そして目覚めた彼女は――かつての面影を残しつつも、見る者すべてを惹きつける絶世の美女へと変貌を遂げていた! 周囲の反応は一変。婚約破棄を後悔する元婚約者、熱視線を送る他家の令息たち、さらには王太子からの突然の縁談まで舞い込み――? 「もう、誰にも傷つけられたくない。私は私の幸せを手に入れるの」 これは、冷たく突き放された少女が美しく咲き誇り、誇りと自由を手に入れる、ざまぁ&逆転恋愛劇。

処理中です...