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第一章
30. このまま、ここにいてもいいのですね
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私は思わず顔を上げた。目の前には、アンドレ様の綺麗な顔。その顔は怒りと憎しみに歪んでいるかと思ったが、至って普通で……いや、むしろ同情するように私を見ている。
「リョヴァン公爵のもとに帰れば、君の実家の財政は保証されるだろう」
その言葉に俯く。
(そうですよね……アンドレ様は私に何の感情もないのだから、私がいなくなったところで、痛くも痒くもない)
その事実を反芻すると、さらに胸が痛くなってくる。私はアンドレ様の特別になれると思ってしまったのに、結局関係は何の進展もなかったのだ。ただの『白い結婚』だ。
「だが……」
そう言って、アンドレ様は顔の前で手を組んだ。そして、それを眺めながら呟く。
「俺も相応の立場にある。
君の実家が困っているようであれば、いくらでも援助は出来る……」
「いけません!! 」
思わず声を荒げ、そして口を噤んで下を向く。大声を出したことがない私が声を張り上げるものだから、アンドレ様も驚いて私を見た。アンドレ様のほうを見ないようにしているのに、その視線を強く感じる。
「なぜ、いけないのか? 」
取り乱している私とは違い、アンドレ様は驚くほど穏やかに聞く。だから私は、震えながら答えていた。
「実家は、アンドレ様と結婚する際に、国から多額の資金をいただいています。
それに私は……アンドレ様からお金をいただくために結婚したのではありません」
そんな綺麗事を言いながらも、お金目当ての結婚であったことを思い返す。家計を救うために、私はパトリック様との縁談を受け入れ、アンドレ様とも結婚することになったのだ。
ぐっと黙る私に、アンドレ様は再び静かに告げた。
「俺が君の実家の支援を表明しても……君は、リョヴァン公爵のもとへ戻りたいか? 」
その瞬間、私は思いっきり首を横に振っていた。
「私は、パトリック様の元になんて、戻りたくありません!!
私はアンドレ様といたいのです!! 」
その声が大きく響き渡り、思わず口元を押さえる。
(私としたことが、否定するのに必死で、つい取り乱してしまいました)
私はアンドレ様と一緒にいたい。だが、アンドレ様は妻とは名ばかりの、貧乏犯罪者を手元には置いておきたくないかもしれない。常識的に考えればそのはずなのに……
「それなら決まりだ」
アンドレ様は少し明るい声で告げた。思わずアンドレ様を見上げると、その切れ長の瞳を少し細め、優しげに私を見下ろす。こんな時なのに、きゅんと胸が甘い音を立てる。
「君はこのまま俺のもとにいてもらおう。
明日、リョヴァン公爵には断っておこう」
その言葉に涙が溢れそうになる。
「い、いいのですか!? 」
口元を押さえて必死に泣くまいとする私の頭を、アンドレ様の大きな手がそっと撫でた。
「もちろんだ。
俺は、このまま君に側にいて欲しい」
(……え?
それってまさか……)
浮かれそうになって、そんなことはないと言い聞かせる。私は紛れもなくアンドレ様に惚れているが、アンドレ様が私を好きなはずなんてないのだろう。結婚式の日に、きっぱりそう言われたのだから。
それでも嬉しすぎる私は、
「ありがとうございます!! 」
何度も何度も礼を言った。
こうして、私の実家のこと、婚約破棄のことは、アンドレ様の知るところとなった。アンドレ様に嫌われて当然の事実なのに、アンドレ様は私を責めることもしなかった。ただ、こうして隣にいることを認めてくださっている。
「さあ、リア。久しぶりにともに食事でもしよう」
疲れていた様子のアンドレ様は、何だか今は元気にさえ見える。いや、私の心が元気になっただけなのかもしれないが。
私は笑みを浮かべ頷く。するとアンドレ様が立ち上がり、私に手を差し出す。その手を握り、立ち上がる。
アンドレ様に触れるだけで、胸が熱くときめく。隣になるだけで、頬がにやけてしまう。私はますますアンドレ様に溺れていく。はじめは全力で拒絶されていたが、今は少しずつ距離が近付いているのが分かる。こうやって、少しずつ本当の家族になっているのだと思った。
「リョヴァン公爵のもとに帰れば、君の実家の財政は保証されるだろう」
その言葉に俯く。
(そうですよね……アンドレ様は私に何の感情もないのだから、私がいなくなったところで、痛くも痒くもない)
その事実を反芻すると、さらに胸が痛くなってくる。私はアンドレ様の特別になれると思ってしまったのに、結局関係は何の進展もなかったのだ。ただの『白い結婚』だ。
「だが……」
そう言って、アンドレ様は顔の前で手を組んだ。そして、それを眺めながら呟く。
「俺も相応の立場にある。
君の実家が困っているようであれば、いくらでも援助は出来る……」
「いけません!! 」
思わず声を荒げ、そして口を噤んで下を向く。大声を出したことがない私が声を張り上げるものだから、アンドレ様も驚いて私を見た。アンドレ様のほうを見ないようにしているのに、その視線を強く感じる。
「なぜ、いけないのか? 」
取り乱している私とは違い、アンドレ様は驚くほど穏やかに聞く。だから私は、震えながら答えていた。
「実家は、アンドレ様と結婚する際に、国から多額の資金をいただいています。
それに私は……アンドレ様からお金をいただくために結婚したのではありません」
そんな綺麗事を言いながらも、お金目当ての結婚であったことを思い返す。家計を救うために、私はパトリック様との縁談を受け入れ、アンドレ様とも結婚することになったのだ。
ぐっと黙る私に、アンドレ様は再び静かに告げた。
「俺が君の実家の支援を表明しても……君は、リョヴァン公爵のもとへ戻りたいか? 」
その瞬間、私は思いっきり首を横に振っていた。
「私は、パトリック様の元になんて、戻りたくありません!!
私はアンドレ様といたいのです!! 」
その声が大きく響き渡り、思わず口元を押さえる。
(私としたことが、否定するのに必死で、つい取り乱してしまいました)
私はアンドレ様と一緒にいたい。だが、アンドレ様は妻とは名ばかりの、貧乏犯罪者を手元には置いておきたくないかもしれない。常識的に考えればそのはずなのに……
「それなら決まりだ」
アンドレ様は少し明るい声で告げた。思わずアンドレ様を見上げると、その切れ長の瞳を少し細め、優しげに私を見下ろす。こんな時なのに、きゅんと胸が甘い音を立てる。
「君はこのまま俺のもとにいてもらおう。
明日、リョヴァン公爵には断っておこう」
その言葉に涙が溢れそうになる。
「い、いいのですか!? 」
口元を押さえて必死に泣くまいとする私の頭を、アンドレ様の大きな手がそっと撫でた。
「もちろんだ。
俺は、このまま君に側にいて欲しい」
(……え?
それってまさか……)
浮かれそうになって、そんなことはないと言い聞かせる。私は紛れもなくアンドレ様に惚れているが、アンドレ様が私を好きなはずなんてないのだろう。結婚式の日に、きっぱりそう言われたのだから。
それでも嬉しすぎる私は、
「ありがとうございます!! 」
何度も何度も礼を言った。
こうして、私の実家のこと、婚約破棄のことは、アンドレ様の知るところとなった。アンドレ様に嫌われて当然の事実なのに、アンドレ様は私を責めることもしなかった。ただ、こうして隣にいることを認めてくださっている。
「さあ、リア。久しぶりにともに食事でもしよう」
疲れていた様子のアンドレ様は、何だか今は元気にさえ見える。いや、私の心が元気になっただけなのかもしれないが。
私は笑みを浮かべ頷く。するとアンドレ様が立ち上がり、私に手を差し出す。その手を握り、立ち上がる。
アンドレ様に触れるだけで、胸が熱くときめく。隣になるだけで、頬がにやけてしまう。私はますますアンドレ様に溺れていく。はじめは全力で拒絶されていたが、今は少しずつ距離が近付いているのが分かる。こうやって、少しずつ本当の家族になっているのだと思った。
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