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第四章 近づく
第二十二話 朝
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夜空がこちらの世界にやって来てから二週間。やはり、変わらずに穏やかな日々を送っていた。あと半月で、自分は殺される。それでも、夜空にとっては、寂しかった子ども時代を取り戻していくようなあたたかく、やわらかな生活だった。同時に、それとはまた違った感情も、夜空の中に生まれていた。
15日目のその日の朝、少し早く目を覚ました。隣で穏やかな表情でヴァートは眠っていた。ヴァートの魔法の壁越しであるから、触れることは出来ない。けれども綺麗な寝顔をしているというのははっきりと分かった。こうして、穏やかなヴァートの表情を眺めていると同時に、胸が高鳴った。
ヴァートに対して、夜空は、どこかあたたかさや優しさ、とは別の想いを抱き始めているのに気が付いていた。どこか恋にも似た甘やかな感覚を。もちろん、それが叶わないということはわかっているけれど。
ヴァートが自身に対して優しさを見せてくれるのは、彼の性格もあると思う。そして「お前だから」とも言ってくれる。けれども、それは、「愛」とはまた違うものではあると思う。
夜空がどれだけ想いを寄せたところで、「贄」であることは変わらない。あと半月もすれば殺されてしまう。
だから、この想いは心の奥に秘めておこうと思った。
望みが叶わなかったことは何度もあった。叶わないことの方が多かった。だから、今回だってきっと叶わない。
どこか、諦めにも似ていたし、ちゃんと、納得している。叶うはずはないと、わかっている。
それでも、ヴァートに対する想いは膨らんでいくばかりだった。
二人で朝食を作って、食べる。今日のメニューは温かなスープとパン。卵を焼いたオムレツのようなもの。今日はそれにベーコンのようなものも焼いてある。ヴァートとは、何度も食事をしてきた。最初は無言と緊張で満たされていた食卓だったけれども、少しずつ会話も増えてきた。読んだ本の話や、魔法界の食材や食事の話。お互い、踏み込まれたくない部分に踏み込まないように、という慎重さはあったけれど、それでも、ヴァートと会話をするのは楽しかった。
「……美味しい」
夜空の焼いたパンを口にして、ヴァートははっきりと言った。ヴァートの言葉に、思わず夜空の表情が緩む。
「嬉しいです。ありがとうございます……!」
ヴァートも、「美味しい」と口に出すことが多くなった。最初は「美味しいと思う」だったのに、今では「美味しい」が返ってきていた。夜空が作ったものをほとんど、「美味しい」と言ってくれていた。
ヴァートは皿の上にパンを置く。そして、少し俯きながらぽつりぽつりと話し始める。
「……私は、食事の時間があまり好きではなかった」
「え……?」
「……いつも一人で、冷えた食事ばかりだった。たまに温かい食事を出されることもあったが、その時も、私への罵詈雑言ばかりを聞かされていたから」
「……」
夜空も、一人で寂しく食事をした経験がある。だから、ヴァートの気持ちはわかってしまった。同時に、彼は自身よりももっとつらい思いをした、とも。
「……食事をしても、楽しい、とは思えなかったし、温かな食事を、手順通りに作っても、あまり、美味しいものだ、とは感じられなかった」
ヴァートが最初の頃に「美味しいと思う」と言っていたのは、そういうことだったのかもしれない。
「……でも、こうして、二人で食事をしていて、久しぶりに、美味しいと思えたんだ」
その言葉に、夜空の表情も緩んだ。誰かと一緒に食べている、から美味しいのかもしれない。それは、夜空ではなくてもよかったのかもしれない。けれども、どこか、夜空だから、と言っているように思えた。
「ありがとう、ございます。俺も、久しぶりに、一緒に誰かと食事が出来て、嬉しいです。俺も、一人で、食べていたことが、多かったので……」
「……そうか」
ヴァートの表情も、ふわりと柔らかなものになる。
こうして、一緒の時間を過ごしているのが、楽しいし幸せだ。殺されるために、魔法界の世界に来た、というのに。夜空は温かな気持ちを抱きながら、ヴァートの作ったスープを飲んだ。優しく、あたたかな野菜の風味が口いっぱいに広がった。
15日目のその日の朝、少し早く目を覚ました。隣で穏やかな表情でヴァートは眠っていた。ヴァートの魔法の壁越しであるから、触れることは出来ない。けれども綺麗な寝顔をしているというのははっきりと分かった。こうして、穏やかなヴァートの表情を眺めていると同時に、胸が高鳴った。
ヴァートに対して、夜空は、どこかあたたかさや優しさ、とは別の想いを抱き始めているのに気が付いていた。どこか恋にも似た甘やかな感覚を。もちろん、それが叶わないということはわかっているけれど。
ヴァートが自身に対して優しさを見せてくれるのは、彼の性格もあると思う。そして「お前だから」とも言ってくれる。けれども、それは、「愛」とはまた違うものではあると思う。
夜空がどれだけ想いを寄せたところで、「贄」であることは変わらない。あと半月もすれば殺されてしまう。
だから、この想いは心の奥に秘めておこうと思った。
望みが叶わなかったことは何度もあった。叶わないことの方が多かった。だから、今回だってきっと叶わない。
どこか、諦めにも似ていたし、ちゃんと、納得している。叶うはずはないと、わかっている。
それでも、ヴァートに対する想いは膨らんでいくばかりだった。
二人で朝食を作って、食べる。今日のメニューは温かなスープとパン。卵を焼いたオムレツのようなもの。今日はそれにベーコンのようなものも焼いてある。ヴァートとは、何度も食事をしてきた。最初は無言と緊張で満たされていた食卓だったけれども、少しずつ会話も増えてきた。読んだ本の話や、魔法界の食材や食事の話。お互い、踏み込まれたくない部分に踏み込まないように、という慎重さはあったけれど、それでも、ヴァートと会話をするのは楽しかった。
「……美味しい」
夜空の焼いたパンを口にして、ヴァートははっきりと言った。ヴァートの言葉に、思わず夜空の表情が緩む。
「嬉しいです。ありがとうございます……!」
ヴァートも、「美味しい」と口に出すことが多くなった。最初は「美味しいと思う」だったのに、今では「美味しい」が返ってきていた。夜空が作ったものをほとんど、「美味しい」と言ってくれていた。
ヴァートは皿の上にパンを置く。そして、少し俯きながらぽつりぽつりと話し始める。
「……私は、食事の時間があまり好きではなかった」
「え……?」
「……いつも一人で、冷えた食事ばかりだった。たまに温かい食事を出されることもあったが、その時も、私への罵詈雑言ばかりを聞かされていたから」
「……」
夜空も、一人で寂しく食事をした経験がある。だから、ヴァートの気持ちはわかってしまった。同時に、彼は自身よりももっとつらい思いをした、とも。
「……食事をしても、楽しい、とは思えなかったし、温かな食事を、手順通りに作っても、あまり、美味しいものだ、とは感じられなかった」
ヴァートが最初の頃に「美味しいと思う」と言っていたのは、そういうことだったのかもしれない。
「……でも、こうして、二人で食事をしていて、久しぶりに、美味しいと思えたんだ」
その言葉に、夜空の表情も緩んだ。誰かと一緒に食べている、から美味しいのかもしれない。それは、夜空ではなくてもよかったのかもしれない。けれども、どこか、夜空だから、と言っているように思えた。
「ありがとう、ございます。俺も、久しぶりに、一緒に誰かと食事が出来て、嬉しいです。俺も、一人で、食べていたことが、多かったので……」
「……そうか」
ヴァートの表情も、ふわりと柔らかなものになる。
こうして、一緒の時間を過ごしているのが、楽しいし幸せだ。殺されるために、魔法界の世界に来た、というのに。夜空は温かな気持ちを抱きながら、ヴァートの作ったスープを飲んだ。優しく、あたたかな野菜の風味が口いっぱいに広がった。
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