謎の美女から「わらわの頭を撫でよ」と命じられました

たこす

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謎の美女から「わらわの頭を撫でよ」と命じられました

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「おい、そこのゴミ」

 街中を歩いていると、突然見知らぬ美女から声をかけられた。

 ……いや、かけられたんだよね?

 セリフが強烈すぎて一瞬フリーズした。

「聞こえておるのか? うぬじゃ、うぬ」

 長身の美女は腕組みをしながらビルの外壁に背中を預け、僕を見ながら声をかけている。

「……僕のことでしょうか?」

 自分を指さしながら尋ねると、美女は「フン」と笑った。

「他に誰がおる」

 いや、いっぱいいますけど……。
 金曜日の夜の繁華街。
 僕を含めた多くのサラリーマンやOLたちが千鳥足でそこらじゅうを闊歩していますけど。

 しかし、謎の美女は僕を見つめながら「うぬに声をかけておるのじゃ」と言っていた。

「なんでしょうか」

 美女のもとに近づき聞いてみる。
 黒いマントにレオタード姿。
 さらさらの長い金髪は地毛?
 どこかで仮装大会でもやっていたのだろうか。

 美女は近付いた僕に「頭が高い」と言ってきた。

 頭が高いって……。

「す、すいません」

 謝りつつ頭を下げる。
 なんなの、この人。
 どこかの芸能人?

 美女は「まあいいだろう」とつぶやいてマントを翻した。

「うぬに命ずる。わらわの頭を撫(な)でよ」
「………」


 ……………は?


 聞き間違いだろうか、頭を撫でろと言ってきた。

「どうした、早くせい」

 美女はそう言って頭を差し出してくる。

 い、いや、ちょっと待って。
 なにこれ? 新手の詐欺?

 この女の人の頭に触ったとたん、おっかない人が出て来て
「わしの女に何すんじゃあッ!!」
 って言ってくるパターン?

「何をしておる、早く撫でぬか」
「あ、いや、その、なんていうか……」

 アレコレ考えてると、美女がイラついた口調で催促してきた。

「ゴミがいちいち考えるでない。わらわが撫でよと言ったら撫でよ」
「え、遠慮しときます……」

 よくわからないので「NO」と答えたら、美女は信じられないといった顔で僕を見た。

「な、なんだと……?」
「すいません、他の人を当たってください」
「まさか、わらわの命令が聞けぬと申すか?」
「命令が聞けないというか……触りたくないだけです……」

 だって怖いもん。
 絶対、いかついお兄さん出てくるもん。

 僕の返答に、美女はパチンと指を鳴らした。
 するとどこからともなく強面の男衆が3人現れた。

「てめえコラ! 魔王様の命令が聞けねえってのか!」
「人間の分際で魔王様に歯向かうたあ、いい度胸やのお、ワレ!」
「死ぬ覚悟は出来てるんだろうな、おお!?」

 ひ、ひええ……!!
 どのみち怖そうなお兄さん方が出てらっしゃった!
 ヤバい、殺される……!!

「どうだ、ゴミ。これでもまだわらわの頭を撫でぬと申すか」

 いや、もうこれ完全に脅迫じゃん!

「え、えーと……、撫でればいいんですか?」
「そうだ、頭をな。愛(め)でるように」
「愛(め)でるように……」

 美女の言葉を反芻(はんすう)しながら、恐る恐る手を差しのべる。

 だ、大丈夫だよね?
 手首切り落とされたりしないよね?

「………」

 いかついお兄さん方に見守られながら、僕はゆっくりと美女の頭に手をおいた。

「や、柔らけえ……」

 さらさらとした金色の髪が手のひらにしっとりと馴染む。
 力を込めただけで壊れそうなフワフワの頭。
 本当に人の頭か? と思えるような不思議な感触が手のひら一杯に広がった。


 瞬間、美女の顔が嬉しそうな恥ずかしそうな、なんとも言えないとろけるような顔に変わった。

「おお、魔王様が……!」
「魔王様が悦んでらっしゃる!」
「尊い……!」

 まわりで見ていたいかついお兄さん方も声をあげる。

 ………。

 ………え? 何がしたいの?

 マジで全然わからないんだけど。

「ハアハア、そうじゃ、そのまま撫で続けよ」

 なんかハアハア言い出した。
 こ、これ、大丈夫なの?

 とりあえず言われた通り、愛でるように撫で続けていく。

「撫でよ、もっと撫でよ……もっと、もっと……」

 と、美女の口調が徐々に変わっていった。

「撫でて……もっと撫でて……もっと、もっと……」

 そしてついに美女が抱き着いてきた。

「ダーリン、もっと撫でて!」
「う、わ! え!? なに!? どゆこと!?」

 これ、さっきまで人を「ゴミ」呼ばわりしていた女の人!?
 何がどうなってこうなってんの!?

「しゃあッ! 魔王様のデレモード突入!」
「うほう、何度見てもたまんねえ!」
「ツンツンした魔王様のデレモード、魔界最高の癒しだぜ!」

 いや、意味わかんねえ!
 何がどうなってんの、これ!?

「ダーリン。私ね、私ね、ずっと一人で頑張って魔界を治めてたんだよ? 大変だったんだよ?」

 いや、胸の中で泣くなよ!
 泣きたいのこっちだよ!

「くうう、わかってます、わかってますよ魔王様!」
「オレたちでは魔王様をいたわってやることができねえのが悔しいぜ!」
「魔王様、おいたわしやぁ!」

 おいたわしやぁ、じゃねえよ!
 バカか、こいつら。

「わかってくれる?」

 美女はうるんだ瞳で僕を見つめてきた。
 正直いって、めっちゃ可愛い。
 ちょっと何がどうなってるかわからないけど、めっちゃ可愛い。

「う、うん、まあ……」

 全然わかんないけど、わかるフリをしてみた。
 すると美女は「えへへー、嬉しい」と言って頬擦りしてきた。

 …………。

 ……おーい、おまわりさーん。

「おい、人間」

 その時、いかついお兄さんの一人が僕に言った。

「これより3年間、魔王様はデレモードになる。それまでの間、面倒を頼む」
「………は?」
「必要なものがあれば言え。すべて届ける。金も含めてな」
「あ、あの、言ってることが……」

 質問しようとする僕の顔を、美女は指でクイッと自分のほうに向けて「ダーリン、だいしゅき」とつぶやいた。

「ああ、魔王様……尊い……」
「いや、尊いじゃなくて!」
「では、さらばだ」

 そう言っていかついお兄さんは夜のネオンに包まれながら消えていった。

 き、聞きたいことが山ほどあったのに……。

 あとに残されたのは「ダーリン、だいしゅき」とつぶやきながら抱きつく謎の美女と僕だけだった。



 ちなみに、この女性は魔界を牛耳る魔王で、数百年に一度デレモードに突入して日頃のストレスを発散させているというのを知ったのは数日後である。

 まぢかあぁぁぁ……。
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