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先生、もし現代人が異世界に召喚されたら戻ってこられると思いますか?
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「先生、もし現代人が異世界に召喚されたら戻ってこられると思いますか?」
僕は、目の前にいる担任の先生にこう尋ねた。
この唐突な質問に、先生は動じることなくオシャレなインテリメガネをクイッと持ち上げて答えてくれた。
「うむ、それは難しい質問だな。まず、誰がなんの目的で召喚したかによるな」
そう言われて、僕はいろいろと思考を巡らせながらとりあえずな理由を口にする。
「え、と。異世界の魔法使いが、自分たちでは勝てない相手、わかりやすく言うと魔王を倒してもらうために召喚しました」
「ほう?」と先生は不敵に笑った(ように見えた)。
「魔王とは、大きく出たな。それで、その魔法使いはどの程度の実力者なのだ? 異世界の住人を呼べるというのならば、それなりの腕前なのか?」
その言葉に僕は考える。
言われてみれば、どうなのだろう。
現代人を召喚できるというのであれば、そこそこ実力はあるに違いない。
しかし、現代人を呼ぶということは、それなりに自分の力が足りないと認識していることに他ならない。
だとすれば、答えは「否」だろう。
「いえ、そんなに強くありません」
僕の答えに、先生はピクリと眉を動かす。
「なに? たいした実力もないのに異世界の人間を召喚できるのか? ならば、その世界は召喚者だらけになってしまうではないか」
あ、そっか。
先生の言い分ももっともなので、僕はただちに訂正した。
「そうですね。間違えました。その魔法使いは世界一の実力者です。召喚魔法も1回使っただけで魔力が回復するのにものすごい時間を要します」
「ふむ」と腕を組みながら先生がうなずく。
「それならば今度は別の問題点が浮き彫りになるな。世界一の魔法使いでもかなわない相手に、どうして現代人が勝てると思っているのだ?」
「それは、現代人が異世界に行くととても強くなるからです」
「どこがどう強くなるのだ? 具体的に述べろ」
具体的に、ですか?
「え、と。パワーもスピードも体力も、人間のありとあらゆる面が超人的に強くなります」
「なぜだ?」
いや、なぜと聞かれても……。
「わかりません。だいたいそういう設定なんです」
「だいたいそういう設定?」
だんだん先生の顔が強張っていく。
僕はこの質問をしたことを早くも後悔しはじめた。
「わかった。仮に百歩譲ってそうなるとしよう。それで? 召喚された現代人は異種格闘技の世界チャンピオンとか、そういった類の人間か?」
「いえ、ケンカもしたこともない普通の高校生です」
「普通の高校生? おかしくはないか? たとえ現代人が強くなるとはいっても、召喚すべきなのは世界チャンプだろう。なぜ戦いの素人を召喚する」
そんなに「なぜなぜ」聞かれても……。
「わかりません。そのほうが召喚しやすいからではないでしょうか」
案の定、先生は笑う。
「ふん、召喚しやすいからだと? なにをバカなことを。人によって召喚しやすいしにくいがあるとでもいうのか」
「いや、よくわかりませんけど……」
「それにだ。どうして召喚された現代人が縁もゆかりもない異世界を命をかけて救わねばならんのだ」
その疑問はもっともで、僕は一番ありえそうな理由を口にした。
「召喚されたからには、その世界を救わないと元の世界に戻してくれないからではないでしょうか」
「元には戻してくれない? それは向こうの言い分か?」
「え、ええ、たぶん」
「ならばそれは脅迫というやつではないのか?」
「き、脅迫? まあ極論すればそうですけど……」
「極論でなくとも脅迫だろう。世界を救わねば、一生帰さないと言っているのと一緒だ」
あ、なるほど。
言われてみれば確かにその通りだ。
さすがは先生。
僕は納得した。
「つまり、現代人が異世界に召喚された場合、脅迫されているということですね」
「その設定で通すなら、そうなるな」
「そして、ケンカをしたこともない素人だけど、世界一の魔法使いでも勝てない相手を倒さなければいけないと」
「そういうことだな」
「それってかなりシビアな要求ですよね」
「シビアというより、不可能な要求だろう。普通に考えたらまず無理だ」
「なるほど。だとすれば現代人が異世界に召喚されたら戻ってはこられない、となりますね」
「そうだな。結論が出たな」
先生は得意げにインテリメガネをクイッとあげる。
その、光を反射したレンズを眺めながら僕は「はあ」とため息をついた。
僕らのすぐ傍らには、地べたにひれ伏した魔法使いがいる。
彼はさっきから再三、「世界を救いたもう」を連呼していた。
そして同時に僕と先生を“魔王を倒す勇者”として祀り上げている。
僕は先生の答えを聞いて思った。
僕らは二度と召喚されたこの異世界から帰ることはできないのだ、と。
僕は、目の前にいる担任の先生にこう尋ねた。
この唐突な質問に、先生は動じることなくオシャレなインテリメガネをクイッと持ち上げて答えてくれた。
「うむ、それは難しい質問だな。まず、誰がなんの目的で召喚したかによるな」
そう言われて、僕はいろいろと思考を巡らせながらとりあえずな理由を口にする。
「え、と。異世界の魔法使いが、自分たちでは勝てない相手、わかりやすく言うと魔王を倒してもらうために召喚しました」
「ほう?」と先生は不敵に笑った(ように見えた)。
「魔王とは、大きく出たな。それで、その魔法使いはどの程度の実力者なのだ? 異世界の住人を呼べるというのならば、それなりの腕前なのか?」
その言葉に僕は考える。
言われてみれば、どうなのだろう。
現代人を召喚できるというのであれば、そこそこ実力はあるに違いない。
しかし、現代人を呼ぶということは、それなりに自分の力が足りないと認識していることに他ならない。
だとすれば、答えは「否」だろう。
「いえ、そんなに強くありません」
僕の答えに、先生はピクリと眉を動かす。
「なに? たいした実力もないのに異世界の人間を召喚できるのか? ならば、その世界は召喚者だらけになってしまうではないか」
あ、そっか。
先生の言い分ももっともなので、僕はただちに訂正した。
「そうですね。間違えました。その魔法使いは世界一の実力者です。召喚魔法も1回使っただけで魔力が回復するのにものすごい時間を要します」
「ふむ」と腕を組みながら先生がうなずく。
「それならば今度は別の問題点が浮き彫りになるな。世界一の魔法使いでもかなわない相手に、どうして現代人が勝てると思っているのだ?」
「それは、現代人が異世界に行くととても強くなるからです」
「どこがどう強くなるのだ? 具体的に述べろ」
具体的に、ですか?
「え、と。パワーもスピードも体力も、人間のありとあらゆる面が超人的に強くなります」
「なぜだ?」
いや、なぜと聞かれても……。
「わかりません。だいたいそういう設定なんです」
「だいたいそういう設定?」
だんだん先生の顔が強張っていく。
僕はこの質問をしたことを早くも後悔しはじめた。
「わかった。仮に百歩譲ってそうなるとしよう。それで? 召喚された現代人は異種格闘技の世界チャンピオンとか、そういった類の人間か?」
「いえ、ケンカもしたこともない普通の高校生です」
「普通の高校生? おかしくはないか? たとえ現代人が強くなるとはいっても、召喚すべきなのは世界チャンプだろう。なぜ戦いの素人を召喚する」
そんなに「なぜなぜ」聞かれても……。
「わかりません。そのほうが召喚しやすいからではないでしょうか」
案の定、先生は笑う。
「ふん、召喚しやすいからだと? なにをバカなことを。人によって召喚しやすいしにくいがあるとでもいうのか」
「いや、よくわかりませんけど……」
「それにだ。どうして召喚された現代人が縁もゆかりもない異世界を命をかけて救わねばならんのだ」
その疑問はもっともで、僕は一番ありえそうな理由を口にした。
「召喚されたからには、その世界を救わないと元の世界に戻してくれないからではないでしょうか」
「元には戻してくれない? それは向こうの言い分か?」
「え、ええ、たぶん」
「ならばそれは脅迫というやつではないのか?」
「き、脅迫? まあ極論すればそうですけど……」
「極論でなくとも脅迫だろう。世界を救わねば、一生帰さないと言っているのと一緒だ」
あ、なるほど。
言われてみれば確かにその通りだ。
さすがは先生。
僕は納得した。
「つまり、現代人が異世界に召喚された場合、脅迫されているということですね」
「その設定で通すなら、そうなるな」
「そして、ケンカをしたこともない素人だけど、世界一の魔法使いでも勝てない相手を倒さなければいけないと」
「そういうことだな」
「それってかなりシビアな要求ですよね」
「シビアというより、不可能な要求だろう。普通に考えたらまず無理だ」
「なるほど。だとすれば現代人が異世界に召喚されたら戻ってはこられない、となりますね」
「そうだな。結論が出たな」
先生は得意げにインテリメガネをクイッとあげる。
その、光を反射したレンズを眺めながら僕は「はあ」とため息をついた。
僕らのすぐ傍らには、地べたにひれ伏した魔法使いがいる。
彼はさっきから再三、「世界を救いたもう」を連呼していた。
そして同時に僕と先生を“魔王を倒す勇者”として祀り上げている。
僕は先生の答えを聞いて思った。
僕らは二度と召喚されたこの異世界から帰ることはできないのだ、と。
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