花野井一家の幸せ。

文字の大きさ
6 / 31

睡蓮の場合2

しおりを挟む
翌日、昼食から提供している食堂は今日も賑わっていた。



「スイレンちゃーん!決まったよー!」


「スズランちゃん!俺焼き肉定食!」


「ヒナギクちゃん、私焼き鮭定食おねがい!」


「「「畏まりましたー!」」」



男女関係なく人でごった返している食堂は、花野井一家が男女関係なく大人気だからだ。
美しさをはなにかけない性格は男性だけでなく、女性からも好感をもたれる…らしい。
お客さんからそう言われた。



「はぁー…今日も天使…。」


「目の保養…。」


「地上に舞い降りた女神…。」



感嘆の声がそこらじゅうから聞こえる。
もはや気にすることなく動き回る私たち。
気にしたら負けだ。
いくら私たちは普通だと言っても聞き入れてもらえないのだから。







「ふぅー…ようやく落ち着いたねー。」



夕食の時間もおわり、人がだいぶまばらになっていた。
すずちゃんが壁にもたれ掛かりなが話す。



「毎日大にぎわいだからねー。」


「それほどここを気に入ってくれてるなら嬉しいことでしょ?」


「まぁねー!」



三姉妹が仲良く話していると、お店の扉が開いた。



「いらっしゃい!こちらへどうぞ。」



すずちゃんがお客さんを席へ誘導する。
フードを被っていて定かではないが、きっと昨日の人だ。
今日は1人で来ているようだ。



「あの…昨日のウエイトレスさんはいますか?」


「え?」



すずちゃんがその言葉に固まった。
もちろん私もひなちゃんもだ。
フードを被っているのだとお客さんなんて他にいないので、きっと2人も昨日の人だとわかっているだろう。
そんな人が言ったのだ…昨日のウエイトレスさんと。
昨日初めて見たばかりの私と他の姉妹たちを見分けているのだ。
偶然当たることもあるが、大体間違えて名前を呼ばれるのに。
その偶然ももう一回聞くと間違えているが。
そんな常連さんも一緒に暮らしてるフランクさんやハンナさんだってまだ見分けがついていないのに、この人…一目でわかったの?
それとも偶然?



「あの、昨日の方ですよね?また来ていただけて嬉しいです。」



すずちゃんはフードの人を探るようにすっとぼけた。
これで普通に話をすれば偶然ということになる。



「はい。えっと、昨日のウエイトレスさんの姉妹ですか?2人いらっしゃった方のどちらかですよね?接客してもらった方はおられますか?」



私は呆然とその男性を見た。
確信を持っているのだ。
私じゃないと。
昨日と違う人間だと。
隅っこで待機していて見えなかったらしい私をまだ見つけてもないのに。
比べて見てもないのに。



「あ、はい。えっと昨日のウエイトレスですね?こちらです…。」



きっとすずちゃんも混乱しているだろう。
横にいるひなちゃんも。
だって初めて見たのだ。
私たちは三姉妹を的確に見分けている人を。
それも並ばずともパッと当てられるような人を。



「あ、こちらにいらっしゃたのですね。昨日ぶりです。お言葉に甘えてまた伺いました。」



嬉しそうな声で話しかけてくる男性。
横にいるひなちゃんは見てない。
完全に私の目を見て話している。



「あ、昨日はありがとうございます。今日も来ていただけて嬉しいです。」



混乱しながらも言葉を振り絞る。
それに嬉しそうに笑って応えている雰囲気が伝わる。



「今日は1人で来てしまいました。今日はあなたのおすすめをいただけますか?」



はい、と条件反射のように返事をした。
まだ頭は混乱している。







しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

黒騎士団の娼婦

イシュタル
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。 異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。 頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。 煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。 誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。 「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」 ※本作はAIとの共同制作作品です。 ※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。

美醜逆転の世界に間違って召喚されてしまいました!

エトカ
恋愛
続きを書くことを断念した供養ネタ作品です。 間違えて召喚されてしまった倉見舞は、美醜逆転の世界で最強の醜男(イケメン)を救うことができるのか……。よろしくお願いします。

私が美女??美醜逆転世界に転移した私

恋愛
私の名前は如月美夕。 27才入浴剤のメーカーの商品開発室に勤める会社員。 私は都内で独り暮らし。 風邪を拗らせ自宅で寝ていたら異世界転移したらしい。 転移した世界は美醜逆転?? こんな地味な丸顔が絶世の美女。 私の好みど真ん中のイケメンが、醜男らしい。 このお話は転生した女性が優秀な宰相補佐官(醜男/イケメン)に囲い込まれるお話です。 ※ゆるゆるな設定です ※ご都合主義 ※感想欄はほとんど公開してます。

【完結】男の美醜が逆転した世界で私は貴方に恋をした

梅干しおにぎり
恋愛
私の感覚は間違っていなかった。貴方の格好良さは私にしか分からない。 過去の作品の加筆修正版です。

今世は『私の理想』の容姿らしいけど‥到底認められないんです! 

文月
恋愛
 私の理想の容姿は「人形の様な整った顔」。  クールビューティーっていうの? 華やかで目を引くタイプじゃなくて、ちょっと近寄りがたい感じの正統派美人。  皆の人気者でいつも人に囲まれて‥ってのじゃなくて、「高嶺の花だ‥」って遠巻きに憧れられる‥そういうのに憧れる。  そりゃね、モテたいって願望はあるよ? 自分の(密かな)願望にまで嘘は言いません。だけど、チヤホヤ持ち上げられて「あの子、天狗になってない? 」とか陰口叩かれるのはヤなんだよ。「そんなんやっかみだろ」っていやあ、それまでだよ? 自分がホントに天狗になってないんなら。‥そういうことじゃなくて、どうせなら「お高く留まってるのよね」「綺麗な人は一般人とは違う‥って思ってんじゃない? 」って風に‥やっかまれたい。  ‥とこれは、密かな願望。  生まれ変わる度に自分の容姿に落胆していた『死んで、生まれ変わって‥前世の記憶が残る特殊なタイプの魂(限定10)』のハヅキは、次第に「ままならない転生」に見切りをつけて、「現実的に」「少しでも幸せになれる生き方を送る」に目標をシフトチェンジして頑張ってきた。本当の「密かな願望」に蓋をして‥。  そして、ラスト10回目。最後の転生。  生まれ落ちるハヅキの魂に神様は「今世は貴女の理想を叶えて上げる」と言った。歓喜して神様に祈りをささげたところで暗転。生まれ変わったハヅキは「前世の記憶が思い出される」3歳の誕生日に期待と祈りを込めて鏡を覗き込む。そこに映っていたのは‥  今まで散々見て来た、地味顔の自分だった。  は? 神様‥あんだけ期待させといて‥これはないんじゃない?!   落胆するハヅキは知らない。  この世界は、今までの世界と美醜の感覚が全然違う世界だということに‥  この世界で、ハヅキは「(この世界的に)理想的で、人形のように美しい」「絶世の美女」で「恐れ多くて容易に近づけない高嶺の花」の存在だということに‥。   神様が叶えたのは「ハヅキの理想の容姿」ではなく、「高嶺の花的存在になりたい」という願望だったのだ!   この話は、無自覚(この世界的に)美人・ハヅキが「最後の人生だし! 」ってぶっちゃけて(ハヅキ的に)理想の男性にアプローチしていくお話しです。

大丈夫のその先は…

水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。 新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。 バレないように、バレないように。 「大丈夫だよ」 すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m

私だけ価値観の違う世界~婚約破棄され、罰として醜男だと有名な辺境伯と結婚させられたけれど何も問題ないです~

キョウキョウ
恋愛
どうやら私は、周りの令嬢たちと容姿の好みが違っているみたい。 友人とのお茶会で発覚したけれど、あまり気にしなかった。 人と好みが違っていても、私には既に婚約相手が居るから。 その人と、どうやって一緒に生きて行くのかを考えるべきだと思っていた。 そんな私は、卒業パーティーで婚約者である王子から婚約破棄を言い渡された。 婚約を破棄する理由は、とある令嬢を私がイジメたという告発があったから。 もちろん、イジメなんてしていない。だけど、婚約相手は私の話など聞かなかった。 婚約を破棄された私は、醜男として有名な辺境伯と強制的に結婚させられることになった。 すぐに辺境へ送られてしまう。友人と離ればなれになるのは寂しいけれど、王子の命令には逆らえない。 新たにパートナーとなる人と会ってみたら、その男性は胸が高鳴るほど素敵でいい人だった。 人とは違う好みの私に、バッチリ合う相手だった。 これから私は、辺境伯と幸せな結婚生活を送ろうと思います。 ※カクヨムにも掲載中の作品です。

駄犬の話

毒島醜女
恋愛
駄犬がいた。 不幸な場所から拾って愛情を与えたのに裏切った畜生が。 もう思い出すことはない二匹の事を、令嬢は語る。 ※かわいそうな過去を持った不幸な人間がみんな善人というわけじゃないし、何でも許されるわけじゃねえぞという話。

処理中です...