花野井一家の幸せ。

睡蓮の場合１

睡蓮side


夕食時の賑わいもおわり、そろそろ閉店しようかというとき１人のお客さんが入ってきた。



「まだやっていますか？」


「んー、そろそろ終わりだけど仕方ない。お客さんで最後だよ。」


「ありがとうございます。私を含めて３人ですが大丈夫ですか？」


「大丈夫だ。」



フランクさんと話しているお客さんは３人ともフードをかぶっており、少し異様な雰囲気を出している。
１人の男性の後ろに２人の男性が付き従うかのように控えている。
腰に剣のようなもの携えており、現代日本で生きてきた身としては違和感がすごかった。



「私が注文とってくるから皆は先に上がってて。」



お母さんとすずちゃんとひなちゃんに声をかけて注文をとりにいく。
フランクさんとハンナさんの親切で、２階にある自宅の一室を貸してもらっている。
広めの部屋を４人で使わしてもらっていて、二組のベッドを２人ずつで使っている。
日本のものより少し大きめなベッドは２人で使っていても窮屈に感じない。
ふくよかな人が多いこの世界では標準の大きさなのだろう。



「わかった。あと頼むねすいちゃん。」


「お風呂の用意しとくね。」



３人は睡蓮に声をかけてから２階に挙がった。



「ご注文はお決まりですか？」


「ではこのからあげ定食をおね……え？」



最初に入ってきた男性はメニューを見ていた視線を上げると固まってしまった。
きっとフードの中では目を見開いているんだろうなと想像ができる。
この世界に来て何度も経験していることだ。
街にきたときも時が止まったかのように皆固まってしまったものだ。
その度に崇められ、人間だと説明するのは骨がおれた。
未だにちょっと信じてない人もいるみたいだが。



「あの、大丈夫ですか？からあげ定食３つでよろしいですか？」


「あ、えと、はい。え？天使？」


「ちゃんと人間です。では少々お待ちください。」



動揺しまくっている男性たちをおいて厨房に注文内容を伝えた。
人間だと信じてもらうには話すより動いてるところを見てもらった方が早い。
どんなに言葉で伝えても皆半信半疑なのだ。
ここに来てから学習した。
他のところはもう片付けてしまったので料理ができるまで暇ができたから、お客さんたちを観察する。
フードで顔は見えないが、こちらを凝視しているようだ。
部下らしき２人はふくよかなのがわかるが、先頭にいた男性は明らかに太っていない。
ここにきて初めて見た。
ふくよかでない人に厳しいこの世界ではきっと生きづらいだろう。
だからフードを被っているのだと思う。
でも、フランクさんもハンナさんも拒否することなく受け入れたのだからほんとに人がいいのだろう。


こちらもあちらも見ていたので目があった…気がするが、バッと逸らされた。
部下らしき２人はまだガン見だが。



「あの、こちらの食堂は初めてですか？」


「え、あ、あぁ。」



目があって無視というのもどうかと思うので、こちらから話しかけにいった。



「私もここで働き始めたばかりなんです。これからもこの食堂をよろしくお願いしますね。」


「え？…あの、いいのか？また来ても…。」


「もちろん。ここの料理は美味しいですからきっと気に入っていただけます。」



きっと細い見た目を蔑まれてきたのだろうことは想像できる。
それほどこの世界の美醜の差別はひどいのだ。
だから少しでも気楽に来られる場所になってほしいと思う。



「…ありがとう。」



そう言った男性は顔は見えないが、きっと笑っていると思えるほど雰囲気が柔らかくなった。
だから私も男性につられて自然と笑顔になった。



「からあげ定食できたよー！」


「あ、今お持ちしますね。」



フランクさんに声をかけられたので料理をとりにいく。
その後ろで男性が射ぬくほど鋭く、熱い視線を向けているなんて気づきもしなかった。