花野井一家の幸せ。

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睡蓮の場合8

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「そもそも結婚なんて…いや、婚約自体無理だったんだよ。その婚約者、私の顔を見るたび毒を吐いてたから。仮面をつけてこいって言われたよ。触れようものならすごい勢いで怒鳴ってくるんだ。仮にも王子にそんなことして許されるんだから…周りも仕方ないと思ってたんだろう。実際悲劇の婚約者として扱われてるからね。」


「ひどい!ひどいよそんなの…!私の大切な人にそんなことするなんて…!」



悔しくて涙がにじんできた。
私だったらそんなこと言わないのに、私だったら周りに注意するのに…



「私だったら…私の方が…ヴィンセントのこと大切に思ってるのに。私の方がヴィンセントのことが好きなのに…。」



そんな自己中な考えばかり浮かぶ。
私だったらなんて、傲慢な考え方だ。
醜かったら第一印象は多少なりとも悪くなるだろう。
見た目から入るのが人間だ。
でも、だからって最初から差別的な態度なんてとらない。
自分がされて嫌なことはしちゃだめ、と常日頃からお母さんに言われているからその考えが染み付いてるからだ。



「好き…。」


「言ったね、好きって。」


「うん。また先越されたね。」


「青春ね…!甘酸っぱいのね!」



さっきのシリアスな雰囲気はどこへやら…3人とも来やすい感じでヴィンセントに話しかけていたが、ぐるぐると考えていた私は気づいてなかった。
もちろん、好きということを口に出していたことも。



「今まではね、仕方ないんだなって思ってた。でもそれはスイと出会う前のこと。今は幸せになりたいって思ってるよ。その幸せのとなりにはスイ…君がいてくれたら嬉しい。」



そう言って、優しく抱き締め返してくれたヴィンセント。
その顔を覗きこむと、さっきの悲痛そうな感じはなく、優しい雰囲気に包まれて笑っていた。



「君が好きだよ、スイ。出会って間もないのにこんな気持ちになるなんておかしいのかもしれない。でも初めてなんだ、こんなに誰かを愛しく思うのは。誰かに隣にいてほしいなんて思えなくなってたのに…スイ、君に隣にいてほしいんだ。君を愛してるよ。だからこれからの人生、共に生きたい。」



「は、はいぃぃ…。」



初めてされる情熱的な告白に顔が真っ赤になったのが自分でもわかった。
ヴィンセントの目を見たら、好き好きオーラがすごかった。
こんなにも、態度でも雰囲気でも好いてもらってるのが伝わるなんて初めてだ。
家族愛とは違う、異性として好きという態度に恥ずかしくなってしまう。
でも、恥ずかしがってばかりではだめだ。
ヴィンセントは言ってくれた。
私も自分の気持ちに素直になって、正直に伝えよう。



「私ね、実はちょっと男性が苦手だったの。父親がね、あまりいい人ではなくて…。皆がそうじゃないって思ってても先入観が抜けなくて…。でも、ヴィンセントだけは違った。初めてなの。警戒せずに話しかけれたの。初めて壁を作らずに話ができて、自分でも驚いた。ちゃんとした理由がある訳じゃない。でも確かに、ヴィンセントだけは大丈夫で、初めから好意をもって接してた。目を合わせずに会話してるからかと思ったけど、今日わかった。顔も見てないけど、雰囲気だけであなたに一目惚れしてたの。」



今度はヴィンセントが顔を真っ赤にする番だった。
真っ赤になりなが目を見開いてる。



「私もあなたと共に生きたい。愛してる。」



そう告げた瞬間、ヴィンセントはきつく、でも優しく抱き締めてくれた。
耳元で、もう絶対離してあげられないから、と言いながら。
私も耳元で、喜んで、と答えると、ふふっと嬉しそうな笑い声が聞こえた。



「キャー!いいわねいいわねー!青春ねー!甘酸っぱいのねー!いや、甘々なのねー!ときめくわー!」


「お母さん、どうどう。」


「落ち着いて。いいところだから。」



お母さんの言うところの、甘々な雰囲気は皆の存在で霧散した。
いや、霧散したのはわたしのとこだけだが。
ヴィンセントはまだ嬉しそうに抱き締めてくる。



「あー、えっと…とりあえず付き合うことになりました。」



ここで恥ずかしがっても、もう全部見られてるし、今さらかと開き直って言ってみた。



「必ず結婚します。幸せにします。」



ヴィンセントが付き合うを飛び越えて、結婚を断言した。
いや、嬉しいよ。
嬉しいけど、早くない?



「まぁまぁ!どうぞどうぞ!幸せにしてあげてください!」


「しっかりしてるようで天然が入ってますが、すいちゃんをお願いします。」


「完璧に見えて抜けてますが、すいちゃんをお願いします。」



お母さんは良いとして…我が姉妹は…言い方変えただけで同じこと言ってない?
まぁ…2人が嬉しそうに笑ってるからいっか。







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