花野井一家の幸せ。

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ヴィンセントの場合6

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それからの日々は予想通り地獄だった。
過ごしづらいとかいう次元じゃない。
月2回の交流は毎回嫌味を言われ、機嫌が悪いと怒鳴られた。
仮面をつけろと毎回言われては、コンラッドに注意を受けていた。
そうなると必ず言い返してくるので、強制的に交流会を終了させることができたのは幸運だったが。



「はぁー…本当に毎回時間の無駄ですわ。気分も悪くなるし最悪です。」


「ハハ。ソウデスネ。」


「こんなのと婚約なんて、本当に悲劇ですわ。」


「ソウデスネ。」



今日は交流会の日である。
一切感情のこもってない受け答えをしても、気にならないサーシス嬢は深いため息をつく。
注意しても言動がなおらないので、コンラッドにも放っておくように言ってある。
会話するだけ無駄だ。



「それで?今日は何を持ってきてくださったのかしら?」


「……あぁ。これを。」



そう言って渡したのはネックレス。
醜い私と顔を合わせるのは精神的に負担なので、せめて綺麗なものがほしいと要求されるようになったのだ。
最初は花束を渡したが、宝石やドレスがいいと言うので変えた。
こんな…貢ぐみたいなまねをするのは嫌なのだが、精神的にと言われると断れなかった。
母上を思い出してしまったからだ。
子どもの頃にいなかったことにされてから、気まぐれにふらっと現れては、可哀想と言って去っていくようになった。
とっくの昔に受け入れた事実のはずなのに、母上に他人のように接してこられると、何故か心がざわついた。
だから、母上のようになるのは…と思ってしまうのだ。



「あら、今回もダイヤモンドですのね。他の宝石がよかったですけれど、まぁいいですわ。」


「ソレハヨカッタデス。」



少し大きめのダイヤを小さなダイヤが囲っているデザインのネックレス。
質が悪くて値段は安めなのだが、気づいていないようだ。
今までのもそうしてお金をおさえていた。
慰めになるなら与えるが、散財させるつもりはないからだ。



「これまでにも色々頂きましたけど、サファイアはくださらないのね。今度はサファイアがいいわ。」


「…考えておきますね。」



私の返答など気にならないのか、ネックレスを眺めながら要求だけしてきた。
金髪碧眼の私。
その色たちだけはどうしても渡したくなかったのだ。
あちらが私を嫌っているように、私だっていい感情は抱いていない。
そんな相手に自分と同じ色を纏ってほしくなかった。
仲のいい恋人同士は、男性の方が自身の色と同じ宝石やドレスなどを贈るらしい。
それを聞いてから抵抗ができたのだ。
考えるとは言ったが、次回だってそれからだって渡す気はない。



「ドレスもそろそろ新調したいですわね。」

「大きなエメラルドのついたネックレスがほしいですわ。」

「ルビーのついたイヤリングが可愛かったのでほしいです。」

「ドレスは新調して、以前のと入れ替えるので1着だけでは足りないですわ。」



そのあとも黙っていても、どんどんでてくる要求。
散財させないように安いものを渡していたが、量が多いと意味がなくなる。
これのすべては叶えられないなと思いながら話を聞いていると、小さな虫がサーシス嬢に近づくのが見えた。
危なくはないだろうが、騒がれても面倒だと少し身を乗り出して払おうとした。



「サーシス嬢、小さな虫が「キャーーー!!!!!!いやーーー!!!!!」…は?」



サーシス嬢の肩の近くに飛んでいた虫をゆっくり払おうとした瞬間、耳をつんざくような甲高い叫び声が響き渡った。



「触らないで!!!化け物!!!穢らわしい!!!」



そう叫ぶとすぐに立ち上がり、走っているのかと思うほどのスピードで立ち去ったサーシス嬢。
呆然と立ち尽くす私とコンラッド。
周りの使用人たちもさすがに驚いていた。



「……………サーシス嬢はお帰りだ。片付けておいて。」



少ししてから周りの使用人たちにそう告げる。
日頃から周りの反応を他人事のように聞いて流していたおかげか、誰よりも早く平常心を取り戻せた。
片付けは任せて、コンラッドと自室に戻る。 
部屋に入ると、いつものように使用人たちは下がらせた。
もちろん護衛もコンラッドを残して自室から出した。



「はは。すごい反応だったな。耳が壊れるかと思った。」


「無礼にも程がある。」



笑いながらコンラッド言うと、コンラッドは眉間に皺をよせて答えた。



「あそこまでくると逆に気にならないよ。あんな反応をしておいて宝石はきちんと持って帰ったのは面白かったし。」



冗談っぽく言ったが、コンラッドは納得してない様子だ。
忠誠心の強いやつだからな。
あのとき選んだことで、私に対して絶対的な忠誠心を捧げている。
だからこそコンラッドだけは信頼しているのだ。







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