花野井一家の幸せ。

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ヴィンセントの場合7

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「なぁ、ヴィンセント。まだ諦めていないんだろう。だからその装飾品を渡さないんだろう。」



コンラッドは私の手首についているブレスレットを見ながら聞いてきた。
王族は皆持っている装飾品だ。



「婚約者が決まる前に言っていただろ。本当に愛する人が現れたら贈りたいと。」



自分の信頼する相手に渡す装飾品。
王族の伝統的な風習で、学園に入る前に作られるのだ。



「俺を一番信頼しているが、それは愛し愛される相手に贈りたい、そう言っていたじゃないか。サーシス伯爵令嬢に贈らないのは愛してないのはもちろんだろうが、現れるかもしれないと思っているんだろう。」



サーシス嬢には初日で贈ることはないと決めていたが、愛する人を見つけたいと思っていたのも事実だ。
でも、こんな醜いやつに好かれるなんて嫌だよな…と諦めかけていたのも本当だ。



「…こんな醜いやつを愛してくれる人なんていない。」


「いる。ヴィンセントはいいやつだ。内面を見てくれる人は現れる。」


「…そんな奇特なやつ、存在しない。」


「そう言うな。お前がそのブレスレットを持っている限り、俺も希望を持てる。王子にこんなことを思うのは不敬だとは思うが、俺と同じ容姿の人間が希望を捨てていないのは救われてるんだ。」



だから希望を捨てないで探してほしい、コンラッドは懇願するように言った。
そんなことを思っていたのか。
信頼しているのに渡せないことが少し心苦しかったが、そんな風に思ってくれているなんて。



「いるのかな…これを贈る相手を探してもいいのかな…。」


「いる。必ず。お前だって本当は嫌だろう?あんな令嬢。」


「当たり前でしょ。見た目がよかったとしてもお断りだよ。」



2人で顔を合わせて笑い合う。
そうだ、まだ希望は捨てない。
諦めてなんてやるもんか。
それのせいで時期国王になれなくても構わない。
愛する人もおらず、国に酷使されるなんてごめんだ。



「探すよ。何年かかっても。」


「あぁ。その意気だ。」


「だからコンラッドも探そうね。」


「…は?」



私はコンラッドも引き込んで探すことにした。
唯一の親友にだって幸せになってほしいのだ。
困惑する親友に向かって微笑みながら、未来に思いを馳せた。
久しぶりに晴れやかな気持ちになった。











「ということで、見つけてきたから。結婚することにもなったから。今の婚約者とは婚約解消するね。」


「おい待て、俺が休みの間になんでそんなに急展開になっているんだ。」


「珍しく長めの休みだったね。用事は片付いたの?」


「あぁ。それは片付いた。長い休みをとって悪かったな。」


「用事があったんだからいいんだよ。いつも働きすぎなくらいなんだから。」


「お前の護衛として当然のことしかしていない。」


「ふふ。ありがとう。」



実家の用事で少し長い間護衛を外れていたコンラッド。
伯爵家の次男である彼も、家族に関しては色々あるらしい。



「いや、そうではなくてだな。」


「わかってるよ。ちゃんと説明するから。」



珍しく慌てるコンラッドがおかしくて、ちょっとからかってしまう。
呆れるように見てくるコンラッドだが、それさえもおかしくて笑ってしまった。



「…そうか。見つけたんだな。…そうか…現れたんだな…よかった、よかったな…。」



説明を終えると、心底ほっとしたように呟くコンラッドに胸が締め付けられる。
スイに会う前は悲惨だったのを知っているから。
最近では、仕方ないと諦めかけていたし。



「ありがとう、コンラッド。これから忙しくなるけど、手伝ってくれる?」


「あぁ、もちろんだ。」



コンラッドは力強く頷いて喜んでくれた。



「まずは陛下に報告に行く。サーシス嬢の不貞の証拠も持って。」


「いつでも出せるようにまとめてある。」



いつか使うかもしれないと集めていた婚約者の不貞の証拠。
執事も近づきたがらない私のために、コンラッドは書類に関してもサポートしてくれている。
護衛をするほど強く、書類関係もさばけるのだからとても優秀なのだ。



「きっとコンラッドにも現れるよ。」



陛下の元へと向かいながらコンラッドに話しかけた。



「それは楽しみです。」



使用人の目がある廊下を歩いているので、敬語になったコンラッドがそう答える。
励ましのように感じているのが口調からわかる。
でも、励ましでも不確かな未来でもない。
確信しているんだ。
私にも現れた天使が、コンラッドにもあらわれることを。
誰かとかはわからないけど、きっと。
私とスイとコンラッドとコンラッドの愛する人、4人でお茶を飲んでいる姿が目に浮かぶ。
あぁ、きっとこれからの未来は明るい。









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