花野井一家の幸せ。

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コンラッドの場合2

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俺が生まれたのは今から20年前。
伯爵家の次男として誕生した俺は、その瞬間から嫌悪されていた。
父も母も会いに来ず、兄は嘲笑いにやって来る。
使用人も嫌そうな顔で世話をし、用がなければ近寄りもしなかった。
そんな環境下で育ったせいか、周りから避けられるのは慣れていた。
むしろそれが普通だと思っていたので、ひねくれることもなく成長したと思う。



「お前は本当に醜いな!人間じゃないんじゃないか?」


見目のいい兄は、ご丁寧に毎日悪口を言いに来た。
むしろ、全く会いに来ない両親よりも身近に感じていた。
近寄れば叩かれるが。
そんな中、初めて両親が俺に会いにきた。



「お前ももう10歳だ。家を継ぐことはないから、稼げる方法を探しなさい。」


「早めに探して出ていきなさいね。」



それだけ告げてすぐに出ていった。
今考えれば10歳の子どもに何を言っているんだと思うが、嫌われているのがわかっていた俺は、隠れて剣術の練習をしていたので困らなかった。
いずれ追い出されるだろうと思っていたので、騎士団に入ろうと決めていたのだ。
強くなって、誰かを守れるようになりたいと考えて。



そうして騎士団の入隊試験を受け、無事に合格した俺は、史上最年少の騎士団員となった。
すぐに家を出て寮で生活し始めたが、醜いからと他の騎士とは仲良くなれなかった。



特に気にすることもなく過ごすこと5年…15歳になったときに転機は訪れた。
第一王子が学園に入学するにあたって、専属護衛騎士団を作ることになったのだ。
騎士団に入るには、選別のための試合をし、そこで勝たなければならない。
第二王子のときは生まれた瞬間に決まったらしく、選別試合には参加できなかったが、今回は参加できる。
意気揚々と試合に挑んだが、周りのやる気がないのかあっさり勝ち残ってしまった。
どうも、醜い王子にはつきたくないと皆手を抜いていたようだ。
あぁ、その王子も俺と同じなんだなと思ったら、何故か呼吸がしやすくなったように感じた。
そのときに、実は今までの悪口や扱いに傷ついていたことに気づいてしまった。
本当は大切にされたかったのだと。
本当は愛されたかったのだと。
それに気づいたら、何かが心からなくなったように感じたが、気づかないふりをした。
第一王子との顔合わせの日に側にいる専属護衛に選ばれ、そこからはずっと一緒だった。
お互いに呼び捨てで呼び、同じ苦しみを共有した。
唯一の親友だと言われたとき、ヴィンセントの護衛になれてよかったと心から思った。



「コンラッドといると呼吸がしやすくなるよ。」



日々の蔑む視線に晒されながら、過ごしている俺たちは、お互いだけが理解者だった。



「俺もだ。」



傷の舐めあいなのはわかっているが、この状況を打破することなどできなかった。
どんなに努力しようが認められない、醜いというだけで差別される世界ではどうすることもできないんだろうなと諦めかけていた。



そんなときにヴィンセントの婚約話が出たのだ。
相手はこれまでのように最悪で、こんなのと結婚しなければならなくなるヴィンセントに同情した。
会うたびに暴言を吐き、宝石などをねだるこいつのほうが醜いように思った。
ヴィンセントの腕にブレスレットがつけられている限りは大丈夫だと思っていたが、日々死んだような瞳になる目に不安になった。



「大丈夫か?ヴィンセント。」


「…あぁ、大丈夫だよ。」



全く大丈夫じゃなさそうな声色のヴィンセントに、つい言ってしまった。
愛し愛される相手を探そうと。
あんな婚約者は嫌だろうと。
諦めないでくれと訴える俺を、ヴィンセントは驚いたように見ていた。



それからヴィンセントは少し元気をだし、何故か俺も探すことなったが。








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