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ep0. 「真夏の夜の爪」 ㉚少年少女と消された子ども
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「ちょっと先輩、人の彼女にちょっかい出すのいい加減やめてもらえません?」
冗談めかして言ってはいるがガチギレ気味である事は声のトーンから察せられた。
おいおい何だよ、とプラ製のストローを咥えた少年が後からやって来る。
撫子とマコトが座り込んで何か話していたのは少年もなんとなく分かっていた。
「……まあまあ、色んなヤツから話聞きてぇ時とかあンだろ?」
いいじゃねぇかたまには、と少年が概史を宥めた。
納得がいかない概史は電動式のシャボン玉銃をマコトに向けて発射する。
途端に視界はシャボン玉で覆われた。
わ、わ、やめろよ、とマコトは顔を手で覆う。
風に攫われたシャボン玉は空高く舞って上空で消えていく。
真夏の太陽に照らされたシャボン玉がキラキラと宝石のように光を放つ。
マコトは概史に何も言えず、ただ黙ってシャボン玉の軌跡を目で追った。
少年も同じようにシャボン玉の行方を目で追う。
不意に調子外れの音程で撫子が鼻歌を歌い始めたのが聞こえた。
しゃぼん玉とんだ
屋根までとんだ
屋根までとんで
こわれて消えた
しゃぼん玉きえた
飛ばずに消えた
うまれてすぐに
こわれて消えた
風風吹くな
しゃぼん玉とばそ
概史がシャボン玉銃を発射する手を緩めずにボソリと呟く。
「まとめサイトで読んだんスけど、これって生まれてすぐ死んだ子どもの歌なんスね」
概史はネットで得た豆知識的な意味で何気なく発言しただけだった。
しかし撫子の鼻歌は止まり、少年はピタリと動きを止めた。
そっか、とだけ小さく呟いた少年はストローをシャボン玉液に漬け、ゆっくりと吹いた。
大きなシャボン玉は空に吸い込まれ上昇の途中で不意に弾けて消えた。
「俺と同じだな」
そう、とだけ呟いた撫子が頷いた。
私達もね、と。
どういう意味?とマコトは少年を見上げて尋ねる。
「……消えずに残ってるってだけだろ」
少年はもう一度シャボン玉を吹いた。
今度は小さいものを沢山。
小さなシャボン玉群は風に乗って散らばる。
望まれずに生まれたってことだろ、俺ら、と少年はシャボン玉を目で追いながら小さく呟いた。
たまたま死ななかっただけだろ、そこに意味なンて無ぇよ、と。
少年の母は蒸発し父親も不明である。
概史には兄が居るが両親とは死別している。
撫子には祖父と叔母が居るが両親は他界している。
少年の言葉の端に僅かな怒りの感情があるようにマコトには思えた。
無表情でシャボン玉を作り続ける三人を直視出来なくなったマコトはパーカーのフードを深く被った。
こんな時に空気の読めるコミュ力のある人はなんて言うんだろう。
なんて言うべきなの?正解なんて誰も知らない。
正しさが何かなんて誰にジャッジ出来るの?
マコトには何も解らなかった。
マコトは居た堪れなくなってパーカーのフードを更に深く被る。
「おいほらマコト、ボサッとしてねぇでお前もシャボン玉飛ばせよ」
マコトの様子に気付いた少年がマコトの頭をぺチリと叩く。
少年は手にしていたストローとシャボン玉液のボトルをマコトに手渡す。
えっ、ああそうだね、とマコトはボトルとストローを受け取る。
ショッキングピンクのプラ製のボトルのキャップを開け、黄緑色のストローを液に浸し口に咥えた所であれ、これさっきまでガックンがシャボン玉吹いてなかった?とマコトは気付いた。
これ間接……と脳裏にワードが思い浮かぶと同時に呼吸のタイミングを間違って思い切りシャボン液を吸い込む。ゲホゲホと咳き込んだマコトの口に苦い石鹸水の味がいっぱいに広がる。
え?マジで苦いんですけどちょっとなにこれ、と混乱するマコトを尻目に少年と概史がゲラゲラと笑った。
「先輩ー!マジでウケるんスけど?赤ちゃん?赤ちゃんなんでスか?」
「おいおいおい、なんで吸ってンの?下手くそなのお前?」
飲ンでどうすンだよ、と少年がマコトの手からヒョイとストローとボトルを奪う。
「見てなって。こうやンだよ」
マコトは少年を見上げる。
逆光でシルエットになった少年が得意げにシャボン玉を量産している。
ストローから出現したシャボン玉が辺り一面に広がっては消えていく。
マコトは自分の心臓の調子がおかしくなったのを自覚した。
さっき撫子の言った事は本当だったんだとマコトは思い知らされた。
冗談めかして言ってはいるがガチギレ気味である事は声のトーンから察せられた。
おいおい何だよ、とプラ製のストローを咥えた少年が後からやって来る。
撫子とマコトが座り込んで何か話していたのは少年もなんとなく分かっていた。
「……まあまあ、色んなヤツから話聞きてぇ時とかあンだろ?」
いいじゃねぇかたまには、と少年が概史を宥めた。
納得がいかない概史は電動式のシャボン玉銃をマコトに向けて発射する。
途端に視界はシャボン玉で覆われた。
わ、わ、やめろよ、とマコトは顔を手で覆う。
風に攫われたシャボン玉は空高く舞って上空で消えていく。
真夏の太陽に照らされたシャボン玉がキラキラと宝石のように光を放つ。
マコトは概史に何も言えず、ただ黙ってシャボン玉の軌跡を目で追った。
少年も同じようにシャボン玉の行方を目で追う。
不意に調子外れの音程で撫子が鼻歌を歌い始めたのが聞こえた。
しゃぼん玉とんだ
屋根までとんだ
屋根までとんで
こわれて消えた
しゃぼん玉きえた
飛ばずに消えた
うまれてすぐに
こわれて消えた
風風吹くな
しゃぼん玉とばそ
概史がシャボン玉銃を発射する手を緩めずにボソリと呟く。
「まとめサイトで読んだんスけど、これって生まれてすぐ死んだ子どもの歌なんスね」
概史はネットで得た豆知識的な意味で何気なく発言しただけだった。
しかし撫子の鼻歌は止まり、少年はピタリと動きを止めた。
そっか、とだけ小さく呟いた少年はストローをシャボン玉液に漬け、ゆっくりと吹いた。
大きなシャボン玉は空に吸い込まれ上昇の途中で不意に弾けて消えた。
「俺と同じだな」
そう、とだけ呟いた撫子が頷いた。
私達もね、と。
どういう意味?とマコトは少年を見上げて尋ねる。
「……消えずに残ってるってだけだろ」
少年はもう一度シャボン玉を吹いた。
今度は小さいものを沢山。
小さなシャボン玉群は風に乗って散らばる。
望まれずに生まれたってことだろ、俺ら、と少年はシャボン玉を目で追いながら小さく呟いた。
たまたま死ななかっただけだろ、そこに意味なンて無ぇよ、と。
少年の母は蒸発し父親も不明である。
概史には兄が居るが両親とは死別している。
撫子には祖父と叔母が居るが両親は他界している。
少年の言葉の端に僅かな怒りの感情があるようにマコトには思えた。
無表情でシャボン玉を作り続ける三人を直視出来なくなったマコトはパーカーのフードを深く被った。
こんな時に空気の読めるコミュ力のある人はなんて言うんだろう。
なんて言うべきなの?正解なんて誰も知らない。
正しさが何かなんて誰にジャッジ出来るの?
マコトには何も解らなかった。
マコトは居た堪れなくなってパーカーのフードを更に深く被る。
「おいほらマコト、ボサッとしてねぇでお前もシャボン玉飛ばせよ」
マコトの様子に気付いた少年がマコトの頭をぺチリと叩く。
少年は手にしていたストローとシャボン玉液のボトルをマコトに手渡す。
えっ、ああそうだね、とマコトはボトルとストローを受け取る。
ショッキングピンクのプラ製のボトルのキャップを開け、黄緑色のストローを液に浸し口に咥えた所であれ、これさっきまでガックンがシャボン玉吹いてなかった?とマコトは気付いた。
これ間接……と脳裏にワードが思い浮かぶと同時に呼吸のタイミングを間違って思い切りシャボン液を吸い込む。ゲホゲホと咳き込んだマコトの口に苦い石鹸水の味がいっぱいに広がる。
え?マジで苦いんですけどちょっとなにこれ、と混乱するマコトを尻目に少年と概史がゲラゲラと笑った。
「先輩ー!マジでウケるんスけど?赤ちゃん?赤ちゃんなんでスか?」
「おいおいおい、なんで吸ってンの?下手くそなのお前?」
飲ンでどうすンだよ、と少年がマコトの手からヒョイとストローとボトルを奪う。
「見てなって。こうやンだよ」
マコトは少年を見上げる。
逆光でシルエットになった少年が得意げにシャボン玉を量産している。
ストローから出現したシャボン玉が辺り一面に広がっては消えていく。
マコトは自分の心臓の調子がおかしくなったのを自覚した。
さっき撫子の言った事は本当だったんだとマコトは思い知らされた。
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