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ep0. 「真夏の夜の爪」 ㊽最低最悪で醜悪な事
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少年は言葉の意味が解らず、一瞬思考を止めた。
今、何て?何を言ったんだコイツは?
意味もわからないまま少年は息を止める。
「何それ?」
やっとのことで少年は言葉を絞り出して小さく呟く。
言葉の通りだよ、と佑ニーサンは静かに言った。
「僕は十四の時に由江を妊娠させた。多分、あの時に僕たちは一回死んだんじゃ無いかって思う」
だから、と言葉を続けかけた佑ニーサンはカウンターに突っ伏した。
酔いが相当回ってきたようだった。
「は?何だよ意味わかんねぇし」
少年が佑ニーサンの肩を乱暴に掴んで揺さぶる。
巫山戯てなんかない、とグラスを掴んだままの佑ニーサンが力のない声で返事をする。
それで…その時アンタはどうしたんだよ?と少年が震える声で問いただす。
「その子どもは…」
そこから先の言葉は出てこなかった。
怖かった。背中が一気に冷たくなる。
嫌な汗が身体に纏わりついた。
「どう……なった?」
突っ伏したままの佑ニーサンが少し笑っているようにも思えた。
「ねえ、ガックンはさ。中学生が自分たちだけで赤ん坊を育てられるって思う?」
少年は黙った。
今の自分の生活と照らし合わせても不可能なのは明白だった。
母親のネグレクトが表沙汰になれば児相に保護される可能性もある少年は必死にバイトして金を稼いでいた。
祖父から相続した母親名義の古い自宅。
母親宛に来る督促状。
その固定資産税、四期分四万八千円の支払いの為に少年は奔走していたのだ。
自分が母親に捨てられた現実を受け入れたくない一心だった。
母親は少しの間外泊しているだけでいずれ帰ってくる。
自分は捨てられてなんかいない。
この生活を維持させる事だけが唯一少年が縋れる現実逃避だった。
しかしそれが容易ではない事も少年自身が一番知っていた。
自分一人が生活していくこともままならなかった。
「出来ないよね。あの時の僕たちにはどうしようもなかった」
あれからずっと後悔してる、と佑ニーサンは乾いた声で言った。
どうしようもない深い絶望が伝わってくるかのようだった。
僕ねぇ、貯金が三百万ばかしあったんだよ、佑ニーサンは遠くに向かって話し始めた。
最早少年の存在が認識できていないようだった。
「でも大半が吹っ飛んじゃった。新居の敷金礼金に引越し費用、ベビー用品買ったり家具家電揃えたりとか出産費用の入院費の前払いとか、由江が働けない間の生活費補填とかでさ」
それも幸せなんだからいいんだけどね、と佑ニーサンは空のグラスを握ったまま明後日の方向に向かって話している。
「ガックンにそれだけのお金、用意できる?」
少年はまたしても黙りこんだ。
不可能な金額だった。
もしお下がりや中古品を駆使したとしても最低でもその三分の一は必然的にかかるようにも思えた。
どちらにせよ少年にとっては天文学的な数字である事には変わりはなかった。
ねえ、とカウンターに突っ伏していた佑ニーサンが徐ろに起き上がった。
佑ニーサンは少年の顔を真っ直ぐ見るとこう言った。
「今から僕は大人として、人間として最低最悪で醜悪な事をキミに言うんだけど」
しかも本当に最低なタイミングだとは我ながら思うよ、と。
何だよ、と少年は少し身構えた。これ以上最悪な話ってあンのかよ、と思わず舌打ちした。
「キミの可愛がってる子猫だけど、あの子返してもらうね」
グラスが地面に落ちる音がした。幸いにもゴムのマットの上に落下し割れてはいなかったが。
は!?少年は思わず声を荒げる。
「マサムネのことか?」
え?マサムネって名前にしたんだ、と佑ニーサンは意外そうに呟いた。
「あの子メスでしょ?」
メスだったっけ?猫に本格的に触れるのが初めての少年は猫の性別など特には考えたことは無かった。
「だったらどうだってンだよ!?メスとか関係ねぇだろ!?なんで取り上げられなきゃいけねぇんだよ!?」
少年は佑ニーサンの胸ぐらを掴む。
へへ、と佑ニーサンは少し笑って見せた。
だからそういうとこなんだってば、と小さく呟く。
「何がだよ?そう言うとこってどういう意味だよヤんのかコラ!?」
少年は掴んだ佑ニーサンの胸ぐらを更に力任せに強く揺さぶった。
「……ガックンて昔の僕にそっくりなんだよね」
今、何て?何を言ったんだコイツは?
意味もわからないまま少年は息を止める。
「何それ?」
やっとのことで少年は言葉を絞り出して小さく呟く。
言葉の通りだよ、と佑ニーサンは静かに言った。
「僕は十四の時に由江を妊娠させた。多分、あの時に僕たちは一回死んだんじゃ無いかって思う」
だから、と言葉を続けかけた佑ニーサンはカウンターに突っ伏した。
酔いが相当回ってきたようだった。
「は?何だよ意味わかんねぇし」
少年が佑ニーサンの肩を乱暴に掴んで揺さぶる。
巫山戯てなんかない、とグラスを掴んだままの佑ニーサンが力のない声で返事をする。
それで…その時アンタはどうしたんだよ?と少年が震える声で問いただす。
「その子どもは…」
そこから先の言葉は出てこなかった。
怖かった。背中が一気に冷たくなる。
嫌な汗が身体に纏わりついた。
「どう……なった?」
突っ伏したままの佑ニーサンが少し笑っているようにも思えた。
「ねえ、ガックンはさ。中学生が自分たちだけで赤ん坊を育てられるって思う?」
少年は黙った。
今の自分の生活と照らし合わせても不可能なのは明白だった。
母親のネグレクトが表沙汰になれば児相に保護される可能性もある少年は必死にバイトして金を稼いでいた。
祖父から相続した母親名義の古い自宅。
母親宛に来る督促状。
その固定資産税、四期分四万八千円の支払いの為に少年は奔走していたのだ。
自分が母親に捨てられた現実を受け入れたくない一心だった。
母親は少しの間外泊しているだけでいずれ帰ってくる。
自分は捨てられてなんかいない。
この生活を維持させる事だけが唯一少年が縋れる現実逃避だった。
しかしそれが容易ではない事も少年自身が一番知っていた。
自分一人が生活していくこともままならなかった。
「出来ないよね。あの時の僕たちにはどうしようもなかった」
あれからずっと後悔してる、と佑ニーサンは乾いた声で言った。
どうしようもない深い絶望が伝わってくるかのようだった。
僕ねぇ、貯金が三百万ばかしあったんだよ、佑ニーサンは遠くに向かって話し始めた。
最早少年の存在が認識できていないようだった。
「でも大半が吹っ飛んじゃった。新居の敷金礼金に引越し費用、ベビー用品買ったり家具家電揃えたりとか出産費用の入院費の前払いとか、由江が働けない間の生活費補填とかでさ」
それも幸せなんだからいいんだけどね、と佑ニーサンは空のグラスを握ったまま明後日の方向に向かって話している。
「ガックンにそれだけのお金、用意できる?」
少年はまたしても黙りこんだ。
不可能な金額だった。
もしお下がりや中古品を駆使したとしても最低でもその三分の一は必然的にかかるようにも思えた。
どちらにせよ少年にとっては天文学的な数字である事には変わりはなかった。
ねえ、とカウンターに突っ伏していた佑ニーサンが徐ろに起き上がった。
佑ニーサンは少年の顔を真っ直ぐ見るとこう言った。
「今から僕は大人として、人間として最低最悪で醜悪な事をキミに言うんだけど」
しかも本当に最低なタイミングだとは我ながら思うよ、と。
何だよ、と少年は少し身構えた。これ以上最悪な話ってあンのかよ、と思わず舌打ちした。
「キミの可愛がってる子猫だけど、あの子返してもらうね」
グラスが地面に落ちる音がした。幸いにもゴムのマットの上に落下し割れてはいなかったが。
は!?少年は思わず声を荒げる。
「マサムネのことか?」
え?マサムネって名前にしたんだ、と佑ニーサンは意外そうに呟いた。
「あの子メスでしょ?」
メスだったっけ?猫に本格的に触れるのが初めての少年は猫の性別など特には考えたことは無かった。
「だったらどうだってンだよ!?メスとか関係ねぇだろ!?なんで取り上げられなきゃいけねぇんだよ!?」
少年は佑ニーサンの胸ぐらを掴む。
へへ、と佑ニーサンは少し笑って見せた。
だからそういうとこなんだってば、と小さく呟く。
「何がだよ?そう言うとこってどういう意味だよヤんのかコラ!?」
少年は掴んだ佑ニーサンの胸ぐらを更に力任せに強く揺さぶった。
「……ガックンて昔の僕にそっくりなんだよね」
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