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ep0. 5
ep0. 5 「真夏と昼の夢」( 殺すかもしれない)
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少年がふと我に返って目を開けるとそこには誰も居なかった。
マコトは何も言わずに少年の目の前から姿を消していた。
別れの言葉も口づけもない、あっけない幕引きだった。
書き置きすら無かった。
少年は頭を掻き、窓の外を見た。
マコトの置いたモバイルバッテリーは無くなっていたが、室内は昨晩と同じ深い青色のような気がした。
深海のような静かな空間。
夏の早朝。夜明け前。
裸だと流石に肌寒かった。
脱ぎ散らかした服を拾って着る。
少年は昨晩灰皿に突っ込んだ吸い殻を再度口に咥えると火を付けた。
煙を燻らせると天井を見た。
俺がどんなに拒否しても世界は勝手に廻ってく。
あいつの居ない世界。
勝手に夜は明ける。
俺たちの意思はまるで無視して世界はこれからも廻っていくんだろうな。
こんな世界要らねぇよ。
メンソールの香りが鼻に抜ける。
咥えた煙草が煙を燻らせる。
昨晩の熱量と狂気が嘘のように室内は静まりかえっていた。
少年はソファカバーに何気なく視線を落とす。
薄く広がる血痕。
この部屋に唯一残されたマコトの痕跡だった。
体液や汗、潤滑剤と混じり合った血液。
少年はその痕跡を愛おしそうにそっと指で撫でた。
心臓が締め付けられたように苦しくなった。
概史に見つかる前に持って帰って洗濯しないとな。
少年はカバーを剥がそうとしてふと別の血痕に気が付いた。
小さく鮮やかな血痕が細かく点在している。
どこから出血したものなのか。
少し考えながら少年はその背中に痛みを覚えた。
壁に立て掛けられた端が割れた姿見にシャツを捲った背中を映す。
昨晩、マコトが付けた痕跡。
予想より深い傷。
俺がマコトの身体に痕跡を残したようにマコトもまた俺の身体に痕跡を残していったのか。
昨晩は脳味噌ごとブッ壊れてイッていたので痛みには気付かなかった。
二人、同じように血を流して同じように痛みを感じたのだろうか。
痛み。
今の少年の心は痛みしか感じられなかった。
無理矢理に貫通されて出血してるのは俺の方じゃないのか。
心に空いた大きすぎる風穴。
少年は煙草の煙を吸い込んだ。
昨晩、うとうととしていた中で聞いたマコトの言葉を思い出す。
俺はいつかアイツを殺してしまうかもしれない。
俺はアイツの願いなら何だって叶えてやりたいんだ。
例えそれがどんな願いであったとしても。
もしもアイツが泣きながら電話で「僕を殺して」って言ったなら。
俺はジャックナイフをポケットに入れてヒッチハイクでも何でもしてアイツに会いに行く。
きっと俺はアイツを抱いてその後に殺すだろう。
少年は煙を吐き出して灰皿に煙草を押し付けた。
駄目だったんだな。俺たちは。
一緒に居ちゃ駄目だったんだ。
何でこんな事してしまったんだろう。
互いに不可逆的な傷を負っただけの行為。
身体の痛みより心の傷の方が深刻だった。
テーブルの上には薄いピンクの箱とまだ開封していない蝶の模様の個包装のパッケージが散らばっている。
少年はそのままそれをゴミ箱に捨てた。
きっともう使わない。
或いは大人になるまでは。
アイツはどうだろう?
いつの日かアイツも他の誰かに恋をするだろう。
その男に抱かれて隣で眠るんだろう。
お互いに知らない誰かと結婚するんだろうな。
二人とも昨夜のことは忘れて生きていくんだろう。
大人になったらお互いに思い出を笑い飛ばせるようになるんだろうか?
少年は床に涙を落とした。
だけどその日までが長すぎる。
少年は泣いている自分自身に気付いた。
そうか。
そうだったんだな。
少年は一人呟いた。
「殺されたいのは俺の方だったのか」
マコトは何も言わずに少年の目の前から姿を消していた。
別れの言葉も口づけもない、あっけない幕引きだった。
書き置きすら無かった。
少年は頭を掻き、窓の外を見た。
マコトの置いたモバイルバッテリーは無くなっていたが、室内は昨晩と同じ深い青色のような気がした。
深海のような静かな空間。
夏の早朝。夜明け前。
裸だと流石に肌寒かった。
脱ぎ散らかした服を拾って着る。
少年は昨晩灰皿に突っ込んだ吸い殻を再度口に咥えると火を付けた。
煙を燻らせると天井を見た。
俺がどんなに拒否しても世界は勝手に廻ってく。
あいつの居ない世界。
勝手に夜は明ける。
俺たちの意思はまるで無視して世界はこれからも廻っていくんだろうな。
こんな世界要らねぇよ。
メンソールの香りが鼻に抜ける。
咥えた煙草が煙を燻らせる。
昨晩の熱量と狂気が嘘のように室内は静まりかえっていた。
少年はソファカバーに何気なく視線を落とす。
薄く広がる血痕。
この部屋に唯一残されたマコトの痕跡だった。
体液や汗、潤滑剤と混じり合った血液。
少年はその痕跡を愛おしそうにそっと指で撫でた。
心臓が締め付けられたように苦しくなった。
概史に見つかる前に持って帰って洗濯しないとな。
少年はカバーを剥がそうとしてふと別の血痕に気が付いた。
小さく鮮やかな血痕が細かく点在している。
どこから出血したものなのか。
少し考えながら少年はその背中に痛みを覚えた。
壁に立て掛けられた端が割れた姿見にシャツを捲った背中を映す。
昨晩、マコトが付けた痕跡。
予想より深い傷。
俺がマコトの身体に痕跡を残したようにマコトもまた俺の身体に痕跡を残していったのか。
昨晩は脳味噌ごとブッ壊れてイッていたので痛みには気付かなかった。
二人、同じように血を流して同じように痛みを感じたのだろうか。
痛み。
今の少年の心は痛みしか感じられなかった。
無理矢理に貫通されて出血してるのは俺の方じゃないのか。
心に空いた大きすぎる風穴。
少年は煙草の煙を吸い込んだ。
昨晩、うとうととしていた中で聞いたマコトの言葉を思い出す。
俺はいつかアイツを殺してしまうかもしれない。
俺はアイツの願いなら何だって叶えてやりたいんだ。
例えそれがどんな願いであったとしても。
もしもアイツが泣きながら電話で「僕を殺して」って言ったなら。
俺はジャックナイフをポケットに入れてヒッチハイクでも何でもしてアイツに会いに行く。
きっと俺はアイツを抱いてその後に殺すだろう。
少年は煙を吐き出して灰皿に煙草を押し付けた。
駄目だったんだな。俺たちは。
一緒に居ちゃ駄目だったんだ。
何でこんな事してしまったんだろう。
互いに不可逆的な傷を負っただけの行為。
身体の痛みより心の傷の方が深刻だった。
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少年はそのままそれをゴミ箱に捨てた。
きっともう使わない。
或いは大人になるまでは。
アイツはどうだろう?
いつの日かアイツも他の誰かに恋をするだろう。
その男に抱かれて隣で眠るんだろう。
お互いに知らない誰かと結婚するんだろうな。
二人とも昨夜のことは忘れて生きていくんだろう。
大人になったらお互いに思い出を笑い飛ばせるようになるんだろうか?
少年は床に涙を落とした。
だけどその日までが長すぎる。
少年は泣いている自分自身に気付いた。
そうか。
そうだったんだな。
少年は一人呟いた。
「殺されたいのは俺の方だったのか」
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