346 / 1,153
ep5.
ep5. 『死と処女(おとめ)』 スカートと胸ポケットの中
しおりを挟む
少しの間沈黙が続き、躊躇ってはいたが思い切って俺は疑問を水森に投げかけてみる。
「……なあ、前にさ、授業中に上野からなんか投げられて泣いてなかったか?」
あれって何があったんか気になってたんだけど、と俺はなるべく慎重に訊ねた。
「ああ……あれね」
水森はスカートのポケットに手を入れると生徒手帳を取り出した。
手帳の中から折り畳まれた紙片が出てくる。
水森は無言で俺に手渡してきた。
紙片を広げてみるとそこにはサインペンで書かれた『水森っちハピバ♡』というカラフルな文字が踊っていた。
ハピバ?
誕生日って事なのか?
「え?これって……?」
「学校ですぐ泣く子って小学校の時から居たでしょ?あたし、ああいうのってすごく苦手だったの」
本当だったら授業中に泣くなんてしたく無かったんだけど、涙が止まらなくて……と水森は少し恥ずかしそうにして笑った。
水森は制服の胸のポケットに手を突っ込み、何かを外す動作をすると手のひらを俺に見せた。
そこにあったのは、キラキラした小さな缶バッジだった。
缶バッジに描かれたキャラクターには見覚えがあった。
「あれ?コイツってプリアリの主人公だっけ?」
ドレスに身を包んだお姫様。
缶バッジの下部には有名回転寿司チェーン店のロゴが入っている。
もしかしてアレか?
食い終わった皿を入れたらガチャが回せるヤツの景品?
回転寿司店でコラボでもやってたのか?
水森は頷いた。
「そう。あの日、上野さんからこれを投げられて……」
急すぎてびっくりしたけど嬉しくて、と水森は再び缶バッジの安全ピンを外し、胸ポケットの内側に付けた。
さっき水森が屈んだときに胸ポケットの中に一瞬見えたもの……この缶バッジだったのか。
「お父さんに見つかったら取り上げられるかも、って思ったら怖くて……だから、胸ポケットの内側なら落としたり失くしたりしないかなって」
「そっか」
缶バッジって小泉がバカみたいに同じ絵柄の物をジャラジャラとカバンに付けまくってるのよく見てるからさ、てっきりそういう使い方をするものだと思ってたんだが─────
「上野さんとは小4の時にクラスが一緒だっただけで、その後特に親しい訳じゃ無かったんだけど……誕生日を覚えててくれてたんだって思ったら嬉しくて─────」
水森は胸ポケットを大切そうにそっと手のひらで撫でた。
なんだよ上野。メッチャいい奴じゃねぇか。
しかし同時にふと疑問も浮かんだ。
景品の缶バッジ貰って泣くか?
回転寿司のガチャだろ?
なんでそんなに感情が高まっちまった?
そんなに嬉しかったのか?
「上野からこういうの貰ってつい泣いちまうって事は……もしかして夢野からは何もリアクションが無かったってことなのか?」
水森はハッとしたように俺の顔を見る。
「……そう。どうしてそう思ったの?」
図星か。
夢野は最近唯ちゃんが冷たいだのと言っていたが、結局水森の誕生日には何も無かったってのはどういう事なんだろうか。
夢野自身は水森に対してそこまでの関心は無かったって事なのか?
水森は静かに首を振った。
「くぅちゃんは……あたしの誕生日を『知らない』だけなんだと思う」
「『知らない』?」
最近の女子ってそういうモンなのか?
よくわかんねぇな、女子って。
「でもさ、もしかして水森は夢野の誕生日とか知ってたりするのか?」
水森は小さく頷き、こう言った。
「くぅちゃんの誕生日にはプレゼントしたんだけどね─────」
多分ああいうのってくぅちゃんからしたら要らない物だったのかも、と水森は少し寂しそうな表情を見せた。
「よくわかんねぇんだけどさ、水森は夢野の誕生日を知ってるけど、夢野は水森の誕生日を知らないって事か?」
水森は少し俯き、こう答えた。
「ねえ、佐藤君は“プロフィール帳”ってわかる?」
唐突な質問だったが、聞いたことのある単語ではあった。
「小学校の時とかさ、よく女子が交換してた奴だろ?誕生日だの血液型だの好きなものだの書いたりするヤツ?」
俺には回って来たことは一回も無かったが、周囲の男子の中には書いてるヤツも居たのでなんとなくイメージは出来た。
「子供っぽいとは思うんだけど……くぅちゃんとあたし、こういうのいまだに好きで交換とかしてて」
そうか。プロフィール帳か。
「くぅちゃんに書いてもらったプロフィール帳を見て、あたしはくぅちゃんの誕生日を知ったけど……」
くぅちゃんはあたしの誕生日には特に関心が無かったんでしょうね、とだけ言うと水森はまた少し黙った。
一方通行のバースデイプレゼント。
それは水森にとっては大きな意味を持つものだったということはなんとなく想像できた。
「……なあ、前にさ、授業中に上野からなんか投げられて泣いてなかったか?」
あれって何があったんか気になってたんだけど、と俺はなるべく慎重に訊ねた。
「ああ……あれね」
水森はスカートのポケットに手を入れると生徒手帳を取り出した。
手帳の中から折り畳まれた紙片が出てくる。
水森は無言で俺に手渡してきた。
紙片を広げてみるとそこにはサインペンで書かれた『水森っちハピバ♡』というカラフルな文字が踊っていた。
ハピバ?
誕生日って事なのか?
「え?これって……?」
「学校ですぐ泣く子って小学校の時から居たでしょ?あたし、ああいうのってすごく苦手だったの」
本当だったら授業中に泣くなんてしたく無かったんだけど、涙が止まらなくて……と水森は少し恥ずかしそうにして笑った。
水森は制服の胸のポケットに手を突っ込み、何かを外す動作をすると手のひらを俺に見せた。
そこにあったのは、キラキラした小さな缶バッジだった。
缶バッジに描かれたキャラクターには見覚えがあった。
「あれ?コイツってプリアリの主人公だっけ?」
ドレスに身を包んだお姫様。
缶バッジの下部には有名回転寿司チェーン店のロゴが入っている。
もしかしてアレか?
食い終わった皿を入れたらガチャが回せるヤツの景品?
回転寿司店でコラボでもやってたのか?
水森は頷いた。
「そう。あの日、上野さんからこれを投げられて……」
急すぎてびっくりしたけど嬉しくて、と水森は再び缶バッジの安全ピンを外し、胸ポケットの内側に付けた。
さっき水森が屈んだときに胸ポケットの中に一瞬見えたもの……この缶バッジだったのか。
「お父さんに見つかったら取り上げられるかも、って思ったら怖くて……だから、胸ポケットの内側なら落としたり失くしたりしないかなって」
「そっか」
缶バッジって小泉がバカみたいに同じ絵柄の物をジャラジャラとカバンに付けまくってるのよく見てるからさ、てっきりそういう使い方をするものだと思ってたんだが─────
「上野さんとは小4の時にクラスが一緒だっただけで、その後特に親しい訳じゃ無かったんだけど……誕生日を覚えててくれてたんだって思ったら嬉しくて─────」
水森は胸ポケットを大切そうにそっと手のひらで撫でた。
なんだよ上野。メッチャいい奴じゃねぇか。
しかし同時にふと疑問も浮かんだ。
景品の缶バッジ貰って泣くか?
回転寿司のガチャだろ?
なんでそんなに感情が高まっちまった?
そんなに嬉しかったのか?
「上野からこういうの貰ってつい泣いちまうって事は……もしかして夢野からは何もリアクションが無かったってことなのか?」
水森はハッとしたように俺の顔を見る。
「……そう。どうしてそう思ったの?」
図星か。
夢野は最近唯ちゃんが冷たいだのと言っていたが、結局水森の誕生日には何も無かったってのはどういう事なんだろうか。
夢野自身は水森に対してそこまでの関心は無かったって事なのか?
水森は静かに首を振った。
「くぅちゃんは……あたしの誕生日を『知らない』だけなんだと思う」
「『知らない』?」
最近の女子ってそういうモンなのか?
よくわかんねぇな、女子って。
「でもさ、もしかして水森は夢野の誕生日とか知ってたりするのか?」
水森は小さく頷き、こう言った。
「くぅちゃんの誕生日にはプレゼントしたんだけどね─────」
多分ああいうのってくぅちゃんからしたら要らない物だったのかも、と水森は少し寂しそうな表情を見せた。
「よくわかんねぇんだけどさ、水森は夢野の誕生日を知ってるけど、夢野は水森の誕生日を知らないって事か?」
水森は少し俯き、こう答えた。
「ねえ、佐藤君は“プロフィール帳”ってわかる?」
唐突な質問だったが、聞いたことのある単語ではあった。
「小学校の時とかさ、よく女子が交換してた奴だろ?誕生日だの血液型だの好きなものだの書いたりするヤツ?」
俺には回って来たことは一回も無かったが、周囲の男子の中には書いてるヤツも居たのでなんとなくイメージは出来た。
「子供っぽいとは思うんだけど……くぅちゃんとあたし、こういうのいまだに好きで交換とかしてて」
そうか。プロフィール帳か。
「くぅちゃんに書いてもらったプロフィール帳を見て、あたしはくぅちゃんの誕生日を知ったけど……」
くぅちゃんはあたしの誕生日には特に関心が無かったんでしょうね、とだけ言うと水森はまた少し黙った。
一方通行のバースデイプレゼント。
それは水森にとっては大きな意味を持つものだったということはなんとなく想像できた。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話
釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。
文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。
そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。
工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。
むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。
“特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。
工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。
兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。
工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。
スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。
二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。
零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。
かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。
ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる