[200万PV達成]それを捨てるなんてとんでもない!〜童貞を捨てる度に過去に戻されてしまう件〜おまけに相手の記憶も都合よく消えてる!?

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ep6

ep6『さよなら小泉先生』 手術台の上のこうもり傘と乳母車

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小泉は──────今でも夫に恋をしている。

なんとなくだがそんな気がした。

光を失ったような……虚な瞳。

だけど、その表情には何処か────────不思議な意思のようなものが感じられた。

「……素敵なご主人なんですね」

俺はそう相槌を打つので精一杯だった。

ええ、と小泉は青白い顔で微笑んだ。

「このドレスも────バッグも傘も……全部主人からのプレゼントなんです」

俺は小泉の着ているロング丈のワンピースを見た。

三千回くらい洗濯してクタクタになって今にも擦り切れそうな─────かつての色を失い、限りなく白に近いズタボロの布切れ。

それはまるで処刑前の罪人のような姿だと思った。

「主人はいつもこう言ってくれるんです。『どれもお前に似合ってるぜ』って─────」

黒のこうもり傘は所々破れている。そこらのゴミ捨て場から拾って来たかのような劣化具合だ。

あちこち骨が折れていて、古びたデザインすらもなんだか不可解な不気味さを放っていた。

「……あ、このベビーカーだけは祖母からの出産祝いなんです。私の結婚をものすごく喜んでくれて」

乳母車の錆びて軋んだ音はまるで嘆きの声のように聞こえる。

乳母車が階段から落っこちる古いマフィア映画ってあるだろ?まるであれに出てくる感じなんだ。

半世紀くらい前のレトロでヴィンテージ、アンティーク品と言えば聞こえはいいが───────とんでもない骨董品なんだ。

スエカ婆ちゃんの家の物置か何処かから勝手に持ち出して来たんだろうか。

あの婆ちゃんが小泉の出産祝いにこんなボロボロの物を寄越すとは到底考えられなかった。

だってそうだろ?スエカ婆ちゃんなら、小泉が出産したと聞きつけたら10万くら包んで渡してきそうじゃないか。

「……ところで、お子さんは一人なんですか?」

話題を変えようとしたものの、気が動転していた俺はとんでもない質問をしてしまう。

子どもの人数に関する話題はタブーじゃないか?

もしも小泉が“現実”を思い出してしまったら───────

しまった、と思った俺は小泉の顔を見た。

焦点の合っていない目で小泉は微笑み、ゆっくりとこう言った。

「そろそろ二人目が欲しいねって主人とも話してるんです」

痩せ細って棒のようになった手で愛おしそうにその腹を撫でる小泉を見た瞬間、俺の中の何かが弾けた。

別れ際にシンジが言った最後の言葉。

『鏡花姉さんの身体には避妊リングが入れられています』

事実を知った五月さんが内緒で鏡花姉さんを病院に連れて行ったんです、というシンジの声が俺の脳内で掻き混ぜられるように響く。

避妊リング。

聞き慣れない単語を耳にした俺は、道中でフリーWi-Fiのあるコンビニに立ち寄ってネットで調べた。

どうやら、女性の子宮の中に入れると着床を防げるという器具の事らしかった。(※1)(※2)

五月さんが小泉の元を訪れたとき─────小泉は5人目の子を妊娠していたらしい。

もう育てられる心身の状態ではない。そう判断した五月さんは──────────

小泉に子どもを堕ろさせ、避妊リングを入れる施術を受けさせた。

その日、小泉は─────どんな心境で手術台の上に居たのだろう。

恐らく、当の小泉本人はそれを理解して無いんだろうが───────

二度と妊娠することのない、空っぽの子宮。








下腹部を愛おしそうに撫でる小泉を目にした俺は、悟られないように静かに泣いた。












※1
避妊リング(ミレーナ)は取り外すことも出来る。(取り外せば妊娠も可能になる)
又、使用期間は五年とされている。(その後は除去又は交換が必要)
尚、定期検診や事前の検査も必須なので詳細は医師に相談を。

※2
希望すれば中絶手術時に避妊リングを装着することも出来る。
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