それでは明るくさようなら

金糸雀

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尋問されました

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『もしもーし、宮君。今大丈夫?』
『はい。レポート書いてるだけなので。』
『わ!ごめん!…あのさ。』
『はい。』
『これからお邪魔しても、いい?』
『部屋汚いですけど、どうぞ。』
『ありがと…ねぇ、ねぇ宮君。』
『はい。』
『…今日泊まってもいい?』


少し、小声で。ボクはその時初めてそう、宮君に聞いたんだ。
ボクには雪がいるから。どんなに宮君ちにお邪魔してたって、一度だって泊まったことも夜中までいたことはなかった。
でもその日はさ、ちょっと流石のボクでも無理でして。
雪の顔、見れないなぁって。
泣き顔、見せれないなぁって。
だから初めてボク、宮君におねだりして。
それからぎゅって目を閉じて返事を待ったんだ。




宮君。
宮君、ごめんだけど。
お願い。



祈るみたいなボクの耳に。




『汚いですけど。どうぞ。』



いつもの平坦な声で、宮君はどうぞ、って。
言って、くれて。その言葉が届いて。
ボク。ぎゅって閉じてた目を開けた。
口とか、多分への字とかになってたと思う。
なっさけない顔してボク、地面に向けてた顔を上げた。
電話越しだったとしても。
ボロボロ泣いていたのが伝わってしまわないように。
夕焼け色の空を見上げて。
明るく。への字から、口角を上げて。
殊更明るく、声を出した。


『ありがとう。宮君!』







「先輩っ。」

少しの距離もすっ飛ばし、宮君がボクの左肩を掴む。
「わっ!」
がしって。伸ばされた手が掴んでそのあまりの勢いに身体が揺れる。
「過去ですね。」
まさに一足飛び。片足で詰められた距離、ベッドに立ち上がった宮君がのしかかるみたいに上からボクを見下ろして。
「過去なんですね。」
確かめるかのように重ねて、ボクに、言う。


ボクがさっき叫んだ言葉だ。


見下ろしてくるその、真っ黒お目めが。ボクを真っ直ぐ、真っ直ぐ。
真摯に、見つめてくるからボク。

「過去だよ。」
もう一度はっきり、口にする。
宮君の目をボクからも真っ直ぐ見返して、きちんと言葉にする。
「だから、さよならしたんだよ。」




好きだった。
親友で、恋人で。ずっと一緒にいて。
ちょっと距離空いてまた一緒にいて。
最初の一撃が悪手すぎて結局最後まではしてこなかったけど。
いっぱい触って、いっぱい抱きしめて。
好きでした。
ホント。
だから。
たくさんありがとうって。
今までねありがとうって。


「いろいろたくさんありがと雪!ってさ。明るくさよならしたんだよ。」


ボク、だから宮君を見て笑った。
明るい声で。あの日と違った、自然と出てくる明るい声で笑った。


まぁ、浮気証拠をこれでもかとつきつけてやったけどね!!




「先輩。」
つきつけてやった瞬間を思い出してにこにこ笑ってしまうボクのことを、変わらず宮君は真っ直ぐに見てくる。
「はーい?」
「何処か違いましたか。」
その目が一度、瞬きして。
長いまつ毛がばさりと揺れた。
「ん?」
「自分も、あの不用ブツと同じことをしました。」
明るく返すボクと反対に、随分と硬い声で宮君が言う。
「同じこと?」
なんだっけ?って、首を傾げたボクに。瞬きしたあと少しだけ伏せた目で、見下ろしながら宮君が。
「先輩の意思を、蔑ろにしてせっ…。」
「ふわっ!?」
せっ、でやっとわかったボクは声を上げ宮君の口を塞ごうと手を伸ばすけど。
その手は掴まれた。
ボクの肩を掴んでない方の手で、やっぱりがしぃって掴まれた!


「先輩の抵抗封じ込めて、ちゅーして。」
「ちゅー!!宮君の口から、ちゅー!??」
待って。待って待って宮君。
違うよね?宮君がちゅーとか違うよね?!
キスとか言われても、普段の宮君からそもそもイロゴト的なことが遠すぎてなんか違うけどちゅーはもっとち、違くないですか?!
驚愕に目を見開き、掴まれた手が衝撃で震える!
「先輩。」
その震えをどう解釈したんだか。宮君は伏せた目を揺らして、一瞬だけ目線逸らして。
それからまた、がっつり目線あわせて。
「あんまり暴れるから担いでここに放り投げて服脱がして、先輩のパンツも下ろして。」
「パンツッ…!」
宮君の口からパンツ!!
いや、言うよ。ふつーにパンツは言う。言うだろう言うだろうけどだけどもさ!そのパンツが!ボクのパンツ!ってところがもうもうもう!!
居た堪れない…!!!


ボク、逃げ出したい。


肩と腕掴まれ。背中は、壁とヘッドボードで作り上げられ隅っこで逃げ場はない。
でも逃げたい身体はずるずる。頭、隅っこに押し付けながら上半身後ろに逸らしながらとにかく宮君から距離取ろうと足掻くけど。

宮君。
ボクと比例して一緒に身体前倒しになるから距離取れない。寧ろ近づいてるよね!!?
しかも手に力入ってるよね!!?
「触って舐めて扱いて、何回もイカせましたし。」
「イカ、イカせ、って宮君、ちょ、ちょっとお待ち」
「後ろの肛に指入れてぐちゃぐちゃにして。」
「ぐっっっ…!!」
ぐっちゃぐちゃ。ぐっちゃぐちゃ!!?
鸚鵡返ししかけてボクの口は、だけど戦慄くだけで言葉はない。
だってさ言えない。ボクにはそんな、ぐっちゃぐちゃなんて言えない無理。無理だし言うなよそんな卑猥なやつ!!
ボクぶんぶん首横に振って、これ以上言うなと宮君に向かって全力で意思表示。
そんなオノマトペ本気でいらん!!



でもそんな全力、宮君に伝わらないのは…うん。わかってました!



「ぐちゃぐちゃすごい音忘れました?それとも聞いてない?あぁ聞こえてなかったかな。先輩涙流してイキッぱなしでしたから。指だけじゃ硬くて舌で舐め回したから粘着質な音がずっとしてましたよ。舐めて唾液入れて先輩の出した精液で解してそれでも硬くて。先輩暫くあの不要ブツに挿れられてないのかと思ったらそれだけでイキそうで。耐えたんですよ?ぐちゃぐちゃに解れるまで、耐えて耐えて、泡立ってぐぽぐぽ鳴るからもう大丈夫かと思って。」




もうこれ以上開かないよ目尻切れちゃうよってくらい目を見開いてボク、信じられない顔して宮君見る。
長文。
かつてない長文が宮君の口からどんどこ流れてきて、内容がもうまともに聞いたら発狂しかねない恥ずかしい恥ずかし過ぎるアノ時のことだからもう右から左にスルーな勢いで流して、
ボクを見下ろす宮君を見る。
真っ黒お目め。





「捩じ込みました。けど。」
その黒さに、ひって、息飲む。
「先輩。」
近づく顔が、怖くて。
「襲ったことは変わらないのに。」
心臓止まりそうなのに、目が。離せない。
ボクを射抜くその目から。


「最後までした自分としなかった不要ブツ、何処が違いましたか?」




瞳孔、開いてない?

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