魔力値1の私が大賢者(仮)を目指すまで

ひーにゃん

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第二章

56『枕とキャサリンの風邪』

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アンナリーナは今朝早くから、マチルダ用の枕を作っていた。
 いくら【洗浄】をかけているとしても、アンナリーナのお古の枕では問題だと思ったのだ。
 枕本体には、普通の綿と睡眠を誘う眠り草の綿毛を使い、リラックスするハーブを芯に眠り草の綿毛で包み、なおかつそれを普通の綿で包んだ。
 それを二重の袋に入れて、最後に外袋に入れて完成させていた。
 今、馬車で作っているのは枕カバーだ。
 刺繍用の色糸でかがりながら、細かく刺繍して、シックなわりにかわいらしく出来上がった。

「うふふ、いいでしょ?」

 隣に座るフランクに広げて見せる。
 フウセンカズラの図案は涼しげで、薄い水色の小さな花が刺されている。

「なあ、俺のは?」

「フランクに安眠枕を作ってもしょうがないでしょ?
 なぁに? 枕が欲しいの?」

 フランクがもじもじしている。
 ……彼が欲しいのは枕ではない。
 彼はアンナリーナが作ったものが欲しかったのだ。
 男心がわからない鈍感娘なアンナリーナだった。

 普通の枕の作り方などなんの秘密もない。
 生成りの綿の生地を取り出し、ものさしで測りながら線を書き込んでいく。
 シャキシャキと裁ちばさみで切っていくさまを見てキャサリンが息を呑んでいる。このハサミは【異世界買物】で購入した【匠の技】の逸品だ。
 その切れ味は、この世界のハサミと比べようもない。

 ベンチに布を広げて作業する姿は珍妙でしかないが、当の本人は気にならないようだ。
 まず直接綿を入れる内袋を縫う。
 筒型のそれの、片方は最初から閉じておく。
 次にプレート状に成型された綿をクルクルと固く丸めていく。
 固さ、大きさともにちょうど良くなったら内袋の中に押し込んでいく。
 外袋は一度外表に縫い、ひっくり返して今度は中表に縫う。
 両サイドは最後に紐で絞れるように三つ折りで処理し、紐の通し口を残した。その中に内袋に入った枕本体を入れて紐で縛ると出来上がり。
 マチルダに作ったクッション型と違って、チューブ型の枕は程よく固くて気持ち良いだろう。
 枕カバーは縁を千鳥がけでかがり、飾り文字で “ フランク ”と刺繍した。

「はい、出来たよ。
 枕を欲しがるなんて変なフランク」

 笑うアンナリーナには想像も出来ないだろう。
 惚れた女の手作りの品に感激して、涙する男の純情などを。


 昼食のための休憩から、今夜の野営地に向かう馬車の中、キャサリンの異常に気づいたのはやはりアンナリーナだった。

「キャサリンさん、さっきも食欲がなかったみたいだけど大丈夫?」

「ええ、ちょっと寒気がして」

「【洗浄】
 ちょっとごめんね?」

 マチルダの時と同じように下瞼を引っ張って見て、首に触れ、額にも触れる。

「熱があるね……
 薬を処方するからちょっと待っててね。
 ゲルトさん! 寝床を用意してあげて!」

 ベンチの蓋を跳ね上げ、中から取り出した背負い袋から薬箱を出す。
 いくつかの引き出しから干した薬草を選び出し、乳鉢の中に入れていく。
 乳棒でゆっくりと摺り始める様子に迷いはなかった。
 見た目は少女なアンナリーナが調薬しているさまは猛烈な違和感を感じる。
 だが今、目の前で行われている事を見つめているものたちは目を見開いていた。

 ゲルトが立ち上がり、手早く寝床を設えていく。
 マチルダが自分の荷物を持って移動したあとに毛皮を敷いて毛布を重ねている。

「キャサリンさん、妊娠してないよね?」

 突然の質問に面食らったようだが、キャサリンはかぶりを振って否定した。

「わかった。
 よく効くお薬作るからね。
 ちょっと旦那さん! 上着を緩めたり靴を脱がしてあげて!」

 少しだけ【ウォーター】の水を落とし練っていく。
 ペースト状になった薬玉にローヤルゼリーを足して丸薬にした。

「疲れからくるのと風邪っ気だね。
 これ飲んで寝たら明日には元気になるよ。夕食は食べれるようなら食べて。
 無理に食べなくていいから……起きたらなんか作ってあげる」

 そうは言っているが、キャサリンは多分朝まで起きない。
 眠り薬の分量を多い目にしてあるのだ。

 アンナリーナはバッグから毛布を数枚取り出し、薄手の方をたたんで枕に、もう一枚を身体にかけて席に戻った。
 彼女の頭の中は、変更になった今夜の夕食のメニューでいっぱいだ。
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