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第二章
83『それぞれの旅立ち』
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眠るフランクの、まだ少し幼さの残る横顔に近づき頬にキスをして【位置特定】の魔法をかける。
そのあとアイテムバッグの【所有者、使用者限定】の登録をしようとしていて視界がひっくり返った。
「きゃっ!?」
寝ぼけたフランクがアンナリーナを寝床に引っ張り込んだのだ。
懐に抱き込むようにして、安心したのか動かなくなった。
軽いいびきをかきながら、その手は無意識にだろう、アンナリーナの背中をさすっている。
『ナビ、日の出の3刻前に起こして。
このまま、ちょっとだけ仮眠するわ』
『はい、お任せ下さい。主人様』
フランクの優しい手つきに、自然と眠りに引き込まれていった。
ナビのモーニングコールで目覚めた早朝。そっとフランクの手を外し、寝床から抜け出そうとしたアンナリーナの腹に、今度は意思を持った手が回ってきて捕まってしまった。
「リーナ、もう少し……」
「朝食の用意をするからフランクも支度して?」
渋々起き上がったフランクに向き合うように座ったアンナリーナが真剣な顔をして言う。
「これからこのアイテムバッグに、フランクの【使用者、所有者権限】を付与します」
アンナリーナが手にしているのは、フランクなら手のひらに収まりそうな革製品だ。
フランクの手を取りアイテムバッグに触れさせ、自分も手を置く。
魔力が決して高くないフランクにもわかるほどの魔力が流れ込んできて、同時にふたりの周りを取り巻いている。
その時、アンナリーナの口が動き、聞こえない声で呪文が呟かれた。
ぶわりと膨れ上がった魔力がアイテムバッグに吸い込まれていく。
「はい、終わったよ。
見てくれがかわいくて、収容量も大したことないけど……受け取って」
「こんな高価なもの……ありがとう。
本当にありがとう」
フランクが嬉しそうに笑って口蓋に手をかける。
「取り出す時はその品を思い浮かべて、しまう時はそれを口に触れさせれば入るから。
とりあえず手当たり次第放り込んだから……全品取り出し」
ぶあっと広がったあらゆる品。
アンナリーナが手当たり次第と言ったのはあながち嘘ではない。
「確かめながらしまっていって。
だいたいこのテントくらいの収納量があるから問題ないね?」
「リーナ。本当にいいのか?」
「これはフランクの為に私が作ったの。でも、ザルバさんたち以外には見せない方がいいね」
ふたりは手を繋ぎ、出立までの短い時間を忙しく過ごした。
「気をつけて」
「ああ、リーナも」
固く抱き合うふたりはまるで夫婦のようだ。
再び春の再開を誓い、馬車の出発を見送ったあと、アンナリーナはマチルダを誘った。
「マリアさんのところに行く前に、少し時間があれば付き合って欲しいの。昨夜、ザルバさんたちに渡したニンニクと黄身の丸薬の作り方を教えますから、マチルダさんとマリアさん、2人とも毎日一粒ずつ飲んでください」
ニンニクはともかく玉子は高価だ。
だからアンナリーナは鳥を飼うことを薦めた。
「特にマリアさんは毎日一個ずつでいいから食べるようにしたらかなり違うと思うの」
このあと2人はテントの中で、蒸したニンニクを潰し、卵黄を混ぜながら炒っていった。
大して特別な技術は要らず、ただ手間がかかるだけだ。
それと大切なのは新鮮な玉子。
余った白身で作るクッキーのレシピも教え、2人でマリアの元に行く。
今日の診察が最後の予定であり、アンナリーナは数日中にここを立つつもりでいた。
フランクたちも出発し、マリアの体調も回復した。
あとは引き渡すポーションの作成だがこれも大方終わっている。
診察の時にはマリアに【位置特定】の魔法をかけ、これでもうほとんどの仕事が終わっていた。
「今夜作った中級ポーションを引き渡したら、明日にでも出発しようと思うの」
これから先は彼らの仕事だ。
アンナリーナに出来るのはここまで。
薬剤やポーションを提供するだけだ。
「そうですね。
ここから少し離れた場所でツリーハウスを出してゆっくりしましょう、主人様。そろそろまた体調を崩す頃ですよ」
「そうね、ナビ。
2~3日ゴロゴロして、それから次の国に行こうか」
マリアやジャマー、マチルダとの別れを惜しみながら、アンナリーナは山賊たちの元を後にした。
もちろん街道には近づかない。
今、あそこは未だ嘗てなかったほど通行者が増えている。
なるべくこの国ではもう、トラブルを避けたいアンナリーナだった。
そのあとアイテムバッグの【所有者、使用者限定】の登録をしようとしていて視界がひっくり返った。
「きゃっ!?」
寝ぼけたフランクがアンナリーナを寝床に引っ張り込んだのだ。
懐に抱き込むようにして、安心したのか動かなくなった。
軽いいびきをかきながら、その手は無意識にだろう、アンナリーナの背中をさすっている。
『ナビ、日の出の3刻前に起こして。
このまま、ちょっとだけ仮眠するわ』
『はい、お任せ下さい。主人様』
フランクの優しい手つきに、自然と眠りに引き込まれていった。
ナビのモーニングコールで目覚めた早朝。そっとフランクの手を外し、寝床から抜け出そうとしたアンナリーナの腹に、今度は意思を持った手が回ってきて捕まってしまった。
「リーナ、もう少し……」
「朝食の用意をするからフランクも支度して?」
渋々起き上がったフランクに向き合うように座ったアンナリーナが真剣な顔をして言う。
「これからこのアイテムバッグに、フランクの【使用者、所有者権限】を付与します」
アンナリーナが手にしているのは、フランクなら手のひらに収まりそうな革製品だ。
フランクの手を取りアイテムバッグに触れさせ、自分も手を置く。
魔力が決して高くないフランクにもわかるほどの魔力が流れ込んできて、同時にふたりの周りを取り巻いている。
その時、アンナリーナの口が動き、聞こえない声で呪文が呟かれた。
ぶわりと膨れ上がった魔力がアイテムバッグに吸い込まれていく。
「はい、終わったよ。
見てくれがかわいくて、収容量も大したことないけど……受け取って」
「こんな高価なもの……ありがとう。
本当にありがとう」
フランクが嬉しそうに笑って口蓋に手をかける。
「取り出す時はその品を思い浮かべて、しまう時はそれを口に触れさせれば入るから。
とりあえず手当たり次第放り込んだから……全品取り出し」
ぶあっと広がったあらゆる品。
アンナリーナが手当たり次第と言ったのはあながち嘘ではない。
「確かめながらしまっていって。
だいたいこのテントくらいの収納量があるから問題ないね?」
「リーナ。本当にいいのか?」
「これはフランクの為に私が作ったの。でも、ザルバさんたち以外には見せない方がいいね」
ふたりは手を繋ぎ、出立までの短い時間を忙しく過ごした。
「気をつけて」
「ああ、リーナも」
固く抱き合うふたりはまるで夫婦のようだ。
再び春の再開を誓い、馬車の出発を見送ったあと、アンナリーナはマチルダを誘った。
「マリアさんのところに行く前に、少し時間があれば付き合って欲しいの。昨夜、ザルバさんたちに渡したニンニクと黄身の丸薬の作り方を教えますから、マチルダさんとマリアさん、2人とも毎日一粒ずつ飲んでください」
ニンニクはともかく玉子は高価だ。
だからアンナリーナは鳥を飼うことを薦めた。
「特にマリアさんは毎日一個ずつでいいから食べるようにしたらかなり違うと思うの」
このあと2人はテントの中で、蒸したニンニクを潰し、卵黄を混ぜながら炒っていった。
大して特別な技術は要らず、ただ手間がかかるだけだ。
それと大切なのは新鮮な玉子。
余った白身で作るクッキーのレシピも教え、2人でマリアの元に行く。
今日の診察が最後の予定であり、アンナリーナは数日中にここを立つつもりでいた。
フランクたちも出発し、マリアの体調も回復した。
あとは引き渡すポーションの作成だがこれも大方終わっている。
診察の時にはマリアに【位置特定】の魔法をかけ、これでもうほとんどの仕事が終わっていた。
「今夜作った中級ポーションを引き渡したら、明日にでも出発しようと思うの」
これから先は彼らの仕事だ。
アンナリーナに出来るのはここまで。
薬剤やポーションを提供するだけだ。
「そうですね。
ここから少し離れた場所でツリーハウスを出してゆっくりしましょう、主人様。そろそろまた体調を崩す頃ですよ」
「そうね、ナビ。
2~3日ゴロゴロして、それから次の国に行こうか」
マリアやジャマー、マチルダとの別れを惜しみながら、アンナリーナは山賊たちの元を後にした。
もちろん街道には近づかない。
今、あそこは未だ嘗てなかったほど通行者が増えている。
なるべくこの国ではもう、トラブルを避けたいアンナリーナだった。
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