8 / 17
乙女
しおりを挟む
「中の君。」
叔母君が、姫君を、中の君(次女のこと)と呼んだ。
「如何なさいましたか?お方様。」
代わりに珠寿が出て来て、受け答えをした。
「この間、新しいお衣裳を仕立てたの。中の君は、お気に入るかしら。」
叔母君が連れて来た女房は、衣裳が入った箱を開けて見せた。
「此処の女房達は、華やかな衣裳を着ないのね。若いのに、残念だわ。」
女房は、赤系の色を着ないようにしていた。姫君が、血を思い出すので、見たくないと言うからだ。
(赤…………姫様、お嫌がるだろうな。)
そうは思えども、突っ返しては失礼なので、「姫様にお聞きして参ります」と返す。
「姫様。お方様から、お衣裳です。」
姫君の前で、珠寿は箱の蓋を開いた。
(まぁ。如何して。)
姫君は、直感的に、その色を嫌だと思った。
少し顔を顰めた珠寿に、姫君は御返事を耳打ちした。
「あら、どう?珠寿。中の君は、お気に入り?」
ニコニコとして聞いてくる叔母君を、珠寿は悲しそうに見ていた。
「有難う御座います、とても良いお衣裳です、とのことです。」
「それは、良かった。」
「ですが…………畏れ多くも、赤色は、避けて頂きたかった、とも仰られていました。」
「そう……………姫は、まだ、心の中では喪があけていないのね。分かったわ。あまり派手でない物をまた、持たせます。」
叔母君は軽く笑っていたが、姫君は心底悲しがっていた。
「ねぇ。」
大君は、クスクスと笑っている女房達に、声をかけた。
「どうかしたの?さっきから笑っているようだけれど。」
琴乃の姫君の女房とは違い、此方の女房は派手で、鮮やかな衣を着ていた。
「いいえ、姫様、何でも御座いませんわ。ただ、彼処の姫君の女房達は可哀想ね、と話していたのです。」
「あちらの?あぁ、この間、お父様が引き取った娘か。」
「そうです。その女房達が私達からすると、可哀想ですの。」
「ほぅ。何故?」
可哀想、と言っておきながら、女房達はまた笑う。
「彼処は、誰一人赤色を着てはならないそうです。それに加えて、派手で華美なものも御法度らしくて。」
「何故?若い女房だもの。少し派手なくらいが丁度いいのに。」
「彼処の姫君が襲われたのを、御存知でしょう?何でも、赤を見ると、血を思い出すというので、姫君がとても忌まれているのです。」
此処では、誰も姫君に同情なんてしない。姫君に優しくする者は、大君に忌まれて、クビにしたからだ。
「哀れな女房達だこと。たった一人の我儘の為に、自分の全てを諦めなくてはならないなんて。」
大君が抑揚つけてそう言うと、女房達はクスクスと笑っている。
「そう。そんなことを、大君どのは言っていたの。」
大君達の話を盗み聞いていた女房が、姫君に告げ口した。
「そう思われていたのね。確かに、哀れだわ。私のせいね。」
姫君は他の者を哀れに思い、同時に、自分は何て我儘なのだろう、と思った。
(ごめんなさいね………全ては、私のせいだわ。)
大君の台詞一つ一つに傷つく、純粋な乙女である女主人を、女房達は悲しげな眼差しで見守っている。
叔母君が、姫君を、中の君(次女のこと)と呼んだ。
「如何なさいましたか?お方様。」
代わりに珠寿が出て来て、受け答えをした。
「この間、新しいお衣裳を仕立てたの。中の君は、お気に入るかしら。」
叔母君が連れて来た女房は、衣裳が入った箱を開けて見せた。
「此処の女房達は、華やかな衣裳を着ないのね。若いのに、残念だわ。」
女房は、赤系の色を着ないようにしていた。姫君が、血を思い出すので、見たくないと言うからだ。
(赤…………姫様、お嫌がるだろうな。)
そうは思えども、突っ返しては失礼なので、「姫様にお聞きして参ります」と返す。
「姫様。お方様から、お衣裳です。」
姫君の前で、珠寿は箱の蓋を開いた。
(まぁ。如何して。)
姫君は、直感的に、その色を嫌だと思った。
少し顔を顰めた珠寿に、姫君は御返事を耳打ちした。
「あら、どう?珠寿。中の君は、お気に入り?」
ニコニコとして聞いてくる叔母君を、珠寿は悲しそうに見ていた。
「有難う御座います、とても良いお衣裳です、とのことです。」
「それは、良かった。」
「ですが…………畏れ多くも、赤色は、避けて頂きたかった、とも仰られていました。」
「そう……………姫は、まだ、心の中では喪があけていないのね。分かったわ。あまり派手でない物をまた、持たせます。」
叔母君は軽く笑っていたが、姫君は心底悲しがっていた。
「ねぇ。」
大君は、クスクスと笑っている女房達に、声をかけた。
「どうかしたの?さっきから笑っているようだけれど。」
琴乃の姫君の女房とは違い、此方の女房は派手で、鮮やかな衣を着ていた。
「いいえ、姫様、何でも御座いませんわ。ただ、彼処の姫君の女房達は可哀想ね、と話していたのです。」
「あちらの?あぁ、この間、お父様が引き取った娘か。」
「そうです。その女房達が私達からすると、可哀想ですの。」
「ほぅ。何故?」
可哀想、と言っておきながら、女房達はまた笑う。
「彼処は、誰一人赤色を着てはならないそうです。それに加えて、派手で華美なものも御法度らしくて。」
「何故?若い女房だもの。少し派手なくらいが丁度いいのに。」
「彼処の姫君が襲われたのを、御存知でしょう?何でも、赤を見ると、血を思い出すというので、姫君がとても忌まれているのです。」
此処では、誰も姫君に同情なんてしない。姫君に優しくする者は、大君に忌まれて、クビにしたからだ。
「哀れな女房達だこと。たった一人の我儘の為に、自分の全てを諦めなくてはならないなんて。」
大君が抑揚つけてそう言うと、女房達はクスクスと笑っている。
「そう。そんなことを、大君どのは言っていたの。」
大君達の話を盗み聞いていた女房が、姫君に告げ口した。
「そう思われていたのね。確かに、哀れだわ。私のせいね。」
姫君は他の者を哀れに思い、同時に、自分は何て我儘なのだろう、と思った。
(ごめんなさいね………全ては、私のせいだわ。)
大君の台詞一つ一つに傷つく、純粋な乙女である女主人を、女房達は悲しげな眼差しで見守っている。
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
愛する夫が目の前で別の女性と恋に落ちました。
ましゅぺちーの
恋愛
伯爵令嬢のアンジェは公爵家の嫡男であるアランに嫁いだ。
子はなかなかできなかったが、それでも仲の良い夫婦だった。
――彼女が現れるまでは。
二人が結婚して五年を迎えた記念パーティーでアランは若く美しい令嬢と恋に落ちてしまう。
それからアランは変わり、何かと彼女のことを優先するようになり……
わたしのことがお嫌いなら、離縁してください~冷遇された妻は、過小評価されている~
絹乃
恋愛
伯爵夫人のフロレンシアは、夫からもメイドからも使用人以下の扱いを受けていた。どんなに離婚してほしいと夫に訴えても、認めてもらえない。夫は自分の愛人を屋敷に迎え、生まれてくる子供の世話すらもフロレンシアに押しつけようと画策する。地味で目立たないフロレンシアに、どんな価値があるか夫もメイドも知らずに。彼女を正しく理解しているのは騎士団の副団長エミリオと、王女のモニカだけだった。※番外編が別にあります。
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる