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矛盾
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「綺麗な景色だわ……………美しい。これを見られない中の君が、可哀想。」
車から降りた叔母君はうっとりと、ふう、と溜め息ついた。
「本当ですわ。」
ふふ、と大君は隣で意味ありげな笑を浮かべた。
それを、少し離れた所から、綺麗な衣裳を着せられた珠寿が見つめていた。
(……………………………………………)
「珠寿さん。」
(……………………………………………)
「珠寿さん?」
(……………………………………………)
かの大君つきの女房、和泉が、珠寿の肩をポンと叩いた。
「中の君様のことで心を痛めているの?此処に、いらしていないから?」
和泉は問うが、珠寿は口を噤んだま、何も話さない。
「でもねぇ………もう、中の君様は忘れなさいよ、だって、貴女は、大君様の女房なのだから。」
-大君の、女房。
珠寿は其れが強く心に響いた。微かに、嫌味も感じる。
「そうね。私は、大君様の女房だったわね。」
珠寿は無心で、答えた。その瞳には、何も映っていない。
「珠寿。」
「はい、大君様。」
珠寿は人形の様に、表情まで無くしていた。
「あの小娘が来ていないことが、残念なの?」
あの娘、とは、琴乃の姫君のことを指している。
(娘、ですって?姫様は小娘なんかじゃない。れっきとした、姫君よ?あんたよりも身分は上なんだからっ!)
実を言えば、珠寿と大君の身分は、同じくらいだったりする。(珠寿が微妙に低い。)
所詮、無能な小娘めが、と、言ってやりたかった。
「……………………………………………」
姫君は起きていた。だが、床から出たり、また寝たりもしない。
(やはり、珠寿がいないと、退屈。毎日が憂鬱だわ。)
ずっと考え込んでいると、ある考えにまとまった。
「皆、さがってもよろしいわ。」
姫君がそう言うと、静々と皆、下がって行った。
(やっぱり、吉野から、離れるんじゃなかったわ。)
これから幸せになれる保証は、残念ながら無い。家族も恋人も失った己から、お気に入りの女房まで奪うとは、大君も酷だ。
姫君は漆塗りの箱に手を伸ばし、蓋を開けた。そして、そこに入っていた物を取り出し、手に握りしめた。
(これが、最高の方法。此処から逃げられるし、全てを忘れられる。)
握りしめた短刀を長い髪に当て、息を飲んだ。
(女房達、驚くかしら。)
-ジャキリ。
パサパサ、と切れた髪の毛が肩を滑って落ちていく。
その後も、ジャキリジャキリと刃音がし、髪の毛は削がれた。
(これで、良いの。)
切り取られた髪の毛を漆塗りの箱に詰めて、元通りの場所へ置いた。
姫君は着ていた衣の上から帯を絞めて、動けるようにした。
(ごめんなさいね…………私、耐えられそうになかったの。弱くって、ごめんなさい。)
そして、彼女はそのまま邸を出た。
車から降りた叔母君はうっとりと、ふう、と溜め息ついた。
「本当ですわ。」
ふふ、と大君は隣で意味ありげな笑を浮かべた。
それを、少し離れた所から、綺麗な衣裳を着せられた珠寿が見つめていた。
(……………………………………………)
「珠寿さん。」
(……………………………………………)
「珠寿さん?」
(……………………………………………)
かの大君つきの女房、和泉が、珠寿の肩をポンと叩いた。
「中の君様のことで心を痛めているの?此処に、いらしていないから?」
和泉は問うが、珠寿は口を噤んだま、何も話さない。
「でもねぇ………もう、中の君様は忘れなさいよ、だって、貴女は、大君様の女房なのだから。」
-大君の、女房。
珠寿は其れが強く心に響いた。微かに、嫌味も感じる。
「そうね。私は、大君様の女房だったわね。」
珠寿は無心で、答えた。その瞳には、何も映っていない。
「珠寿。」
「はい、大君様。」
珠寿は人形の様に、表情まで無くしていた。
「あの小娘が来ていないことが、残念なの?」
あの娘、とは、琴乃の姫君のことを指している。
(娘、ですって?姫様は小娘なんかじゃない。れっきとした、姫君よ?あんたよりも身分は上なんだからっ!)
実を言えば、珠寿と大君の身分は、同じくらいだったりする。(珠寿が微妙に低い。)
所詮、無能な小娘めが、と、言ってやりたかった。
「……………………………………………」
姫君は起きていた。だが、床から出たり、また寝たりもしない。
(やはり、珠寿がいないと、退屈。毎日が憂鬱だわ。)
ずっと考え込んでいると、ある考えにまとまった。
「皆、さがってもよろしいわ。」
姫君がそう言うと、静々と皆、下がって行った。
(やっぱり、吉野から、離れるんじゃなかったわ。)
これから幸せになれる保証は、残念ながら無い。家族も恋人も失った己から、お気に入りの女房まで奪うとは、大君も酷だ。
姫君は漆塗りの箱に手を伸ばし、蓋を開けた。そして、そこに入っていた物を取り出し、手に握りしめた。
(これが、最高の方法。此処から逃げられるし、全てを忘れられる。)
握りしめた短刀を長い髪に当て、息を飲んだ。
(女房達、驚くかしら。)
-ジャキリ。
パサパサ、と切れた髪の毛が肩を滑って落ちていく。
その後も、ジャキリジャキリと刃音がし、髪の毛は削がれた。
(これで、良いの。)
切り取られた髪の毛を漆塗りの箱に詰めて、元通りの場所へ置いた。
姫君は着ていた衣の上から帯を絞めて、動けるようにした。
(ごめんなさいね…………私、耐えられそうになかったの。弱くって、ごめんなさい。)
そして、彼女はそのまま邸を出た。
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