推しよ、ここはBLゲームの世界です!〜属性:腐女子のモブは、推しも世界も救いたい〜

はちよ

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17話 混乱

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 アンに「あのノート」の事を確認しようと思っていたが、予想外のルーカスの存在にその目的は達成出来なかった。

「(アンは俺と救世主がくっつくって信じてるのか……? だから、俺のことは眼中に無かった?)」

 ただ靄を抱えながら揺られ続け、エルヴィンの思考回路は答えが出ない堂々巡りを繰り返す。

 そんなことをしているうちに、馬車は王宮へと到着した。

 ◇◇◇

 王宮へと戻ったエルヴィンとルーカスはその足で契約の義を終え、二人は王宮内の別邸に案内された。
 救世主と眷属は、その別邸で暮らすことになるらしい。

 二人が別邸に着くと、小さい子どもがにこやかに二人を迎えた。

「こんにちは、屋敷のことを任されているレイです。どうぞよろしくお願いいたします」

 レイと名乗った少年の耳は尖っており、人間ではないことは確かだった。
 レイの案内に黙って着いていくと、大きな扉にたどり着く。

「こちらです、救世主様もお待ちですよ」

 特に構えることも無く、レイはにこやかに笑いながら軽い動作で扉を開く。
 開いた先には王宮の別邸らしく豪華な内装だった。
 応接室らしい大きなソファに豪華な彫刻が施されたテーブル。

 そこにいたのは先に契約を済ませたらしいクラウスとテオと、もう1人。

「エルヴィン殿」
「良かった……契約されたんですね」
「あぁ……」

 心から安心したように笑いかけるテオの隣。
 大きな身体のテオに隠されるようにその人はいた。

「はじめまして。タツミです」

 真っ先に立ち上がり、エルヴィンとルーカスに向かって人好きそうな笑顔を浮かべる男。
 明るい茶色の髪に、アーモンド型の目、中肉中背。

「(タツミ……名前までアンのノートと同じだ)」

 クラウスもテオも有名だと言うし、ルーカスもその噂はエルヴィンが出会う前から知っていた。
 つまり、何かのきっかけで彼らの名前や容姿をアンが知っていた可能性はある。

 ただ、「救世主の名前」ともなれば話は別だ。

「なぁ……アンタ、いつここに来たんだ?」
「えっと……ちょうど1週間前ですね」

 タツミがこの世界に召喚されたのはたった一週間前。
 しかし、エルヴィンがあのメモを見たのは何年も前のこと。

 やはりアンのあのノートは未来のことだったのか。
 エルヴィンは行きあたる可能性に奥歯を噛み締める。

 もし、あのアンのノートが未来のことであるならば。

「(俺がコイツを好きになる……?)」

 アンのノートでは「半魔のエル」と「救世主タツミ」が結ばれると書いてあった。

 まさか自分のこととも思わず気にしていなかったが、ここまで揃ってしまえばあの「エル」は自分のことなのだろう。

 しかし、そんな未来はありえないと思う。
 タツミを目の前にしたって、特に何も感じない。
 ルーカスやテオを前にした時と同じだ。

「……オレの顔がどうかしましたか」
「いや、なんでもない」

 不思議そうに見つめるタツミの視線から逃れるように身を翻し、エルヴィンは宛てがわれた自室へ足を早めた。

 ◇◇◇

「はぁ……」

 幾度となく零れ落ちる溜息に、また溜息が出そうだった。

 本当はアンに聞きたいと思ったのだ。
 あの時見たノートの中身について。

 でも、聞けなかった。

「(あの文字は確実にアンの文字だった。アレが未来の出来事を予知したものだとすれば、アンに予知能力があるということ……もしそうなら、アンは未来が分かった上で俺と接してきたことになる。……アンには、俺と接することで何かメリットがあったのか?)」

 純粋な好意と信じて疑わなかったアンの行動。
 そこには下心が混ざっていたのかもしれない。

 その可能性だけで、この10年が根本から崩壊していくような、そんな最悪の気分だった。

 軽いノック音の後、エルヴィンの自室の扉が開く。

「いくら共同生活とはいえ、部屋は一人一つの鍵付きだ。鍵くらい閉めておいたほうがいいぞ」
「返事も待たずに扉を開けるやつに言わたくねぇよ」
「お前が素直に開けるとは思わなかったからね。まぁ、鍵が空いてるとも思わなかったけど」

 ルーカスは部屋の中に入ると、ベッドの上に腰掛けたまま立ち上がる素振りもないエルヴィンの前に立つ。

「お前の不始末に付き合ってやった師匠に向かって、なかなかな態度だな」
「……悪かったって」
「アンちゃんと喧嘩してそこまで落ち込むなら、はじめから喧嘩しなければよかっただろ」
「……」

 黙り込むエルヴィンに溜息をつき、ルーカスは部屋に備えられたソファに腰を下ろす。
 どうやら長居する気らしいとエルヴィンは内心舌打ちをした。
  
「それにしても意外だった」
「何が」
「いや……悪い意味じゃないが、お前がそんなに好きだって言う子はどんな子かと思ってたんだよ。……でも、会ってみたら普通だった」
「はぁ?」
「もちろんアンちゃんは可愛いよ。女性は皆綺麗で可愛い……そういうものだから。でも、他の子達と比べて特に特筆すべきものがあるようにも思えなかった」
「別に、ルーカスがアンのこと好きになる必要はねぇだろ。それでいいよ」

 不服そうに口を尖らせるエルヴィンにルーカスはまたため息をついた。
 ルーカスの目には、エルヴィンが幼い子供のように映る。

「あの子の額と左手の傷跡。アレがお前がつけたって傷だろう」
「……そうだよ」

 額の端にある傷跡を見て、ルーカスはその人がアンであることが分かったのだ。

 ルーカスはエルヴィンからアンの話をよく聞いていたし、少し大きくなってからはその人がエルヴィンの想い人であることも知っている。

 まだ幼い所があるとはいえ、それでも一度戦場に立てば期待以上の成果を持って帰ってくるエルヴィンは内実共にいい男に育っていると思う。

 そのエルヴィンが一途に想いを寄せ、ストレートに好意を伝えても靡かない女性。
 それでもエルヴィンを遠ざけること無く、エルヴィンは他の誰にも見向きもせず真っ直ぐにアンの元へとかけていく。

 どれ程の女性かと思えば、拍子抜けをするほど普通。
 最低限の化粧や身だしなみは整えている様子だったが、特別自分に手間をかけているようにも見えなかった。

 エルヴィンとアンの組み合わせは、ルーカスにとってあまりにもチグハグに見えた。

「女性の顔に傷とはいえ、あの位置なら普段は前髪に隠れて見えないはずだ。仕事中は帽子に前髪入れていたけど、それでも化粧で目立ってはいなかった」
「何が言いたい」
「お前の好意が贖罪から来るものなら、靡かない相手に無理やり責任を取らなくてもいいんじゃないかと思ったんだ」
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