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16話 ノート
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少し長めの金髪にサファイアのような瞳を持つ歴代一位の実力を持つ魔法使い、ルーカス。
深い藍色の長髪をひとつに括り、藤色の瞳には長いまつ毛の影が落ちる王都騎士団のエリート、クラウス。
しっかりと筋肉のついた身体は健康的に焼け、優しそうな垂れ目にいつも笑顔を浮かべている治癒士のテオ。
黒い癖毛から除く金色の瞳は王族の証。きりりとつり上がった太い眉に常に自信のある表情を浮かべる第二王子、バージル。
あと何人かここには揃っていないようだが、確かにエルヴィンは救世主の眷属となる人物を出会う前から知っていた。
「(銀色の長髪、赤い瞳に丸い耳……魔王の子、エル……って、まさか……)」
一気に血の気が引いていく感覚がエルヴィンを襲う。確かに立っている筈なのに、足元が揺らぐような脱力感。
「おい、お前。顔色がやけに悪いぞ」
エルヴィンの様子に眉を顰めたバージルの声も、エルヴィンにはどこか遠くに聞こえる。
ルーカスもエルヴィンに声をかけるが、全てがエルヴィンにとっては取るに足らない雑音だった。
世界から1人だけ隔離されたような感覚の中、エルヴィンの脳内では高速でこれまでの記憶が繋がり始めていく。
「(待てよ、「アレ」が未来を正確に予知した物だとするなら……)」
たどり着いたひとつの仮説に、エルヴィンの全身に激情が走る。
怒り、悲しみ、困惑、絶望。
何と表現しても足りないその感情に、エルヴィンは手を握りしめ、唇を噛み締めた。
「エルヴィン!」
ぱしん、と乾いた音がその場に響く。
遅れて痛みを伝えた頬に、エルヴィンの瞳はやっと目の前のルーカスを捉えた。
「いい加減にしろ。バージル殿下の前だぞ」
「……」
ゆっくりと辺りを見渡せば、その場の全員の視線はエルヴィンに向いていた。
バージルに至っては不快感を隠す素振りもなく、エルヴィンを睨みつけている。
「私の弟子が大変な失礼を。私の教育が足らず、誠に申し訳ございません」
エルヴィンを庇うようにルーカスは深く頭を垂れ、エルヴィンも慌ててそれに続く。
「弟子? お前たち、そんなに歳も変わらねぇだろ。それとも何か? 半魔ってのはガタイだけが立派で年齢はその半分くらいのガキだって言いたいのか?」
「私は今年26に、エルヴィンは22歳になりました。確かに歳はそう離れていませんが……確かに、エルヴィンは私の弟子です。魔力の使い方、魔法の使い方は仕込みましたが……戦いばかりに明け暮れ、礼儀作法までは至らず。しかし半魔であるが故、これが持つ魔力量は桁外れです。必ず、殿下のお役に立てるかと」
「…………」
バージルはエルヴィンを値踏みするようにじろりと見た後、小さく舌打ちをした。
「大神官、話を続けろ」
大神官は一礼をした後、また説明を続ける。
「ご納得いただけた皆様には、本聖殿にて眷属として救世主様と契約を結んでいただきます。眷属としての契約の効果は主に2つ。一つ目、契約後は眷属の方から救世主様へ危害を加えられなくなります。二つ目、皆様の持つ能力は救世主様の祈りにより底上げされます」
全員が真剣に大神官の言葉に耳を傾ける中、エルヴィンだけは未だ纏まらない思考から抜け出せずにいた。
「ご納得、いただけましたか」
あえてゆっくりと口にされた大神官の言葉に、エルヴィンは右手を挙げる。
「その話、辞退させてもらう」
「お前っ……!」
「俺は、救世主の眷属にはなれません」
それだけ告げると、エルヴィンは逃げるようにその場を後にした。
◆◆◆
王宮を後にしたエルヴィンは、森の中で一人、大きくため息をついた。
「(何がどうなってる……「アレ」は、一体なんなんだ……?)」
エルヴィンが「それ」を見つけたのは偶然だった。
ある日、アンが留守だった日のこと。
エルヴィンがアンの元に訪れるのは任務の合間。規則性のない訪問ばかりであり、家主が留守なんてことにも慣れっこで、エルヴィンは首から下げている合鍵で中に入った。
その日は寝坊でもしたのか、いつも綺麗に整っているアンの家の中はどこか乱雑だった。エルヴィンは慌てて家を出るアンを想像して1人で笑った。
どれだけ緊張感のある任務の後でも、こうしてアンの気配を感じるだけでほっと心身ともに癒されるのがよく分かる。
アンが帰ってくるまでに家を綺麗に整えようと家事に取り掛かろうとした時、エルヴィンは「それ」に気がついた。
それは、リビングテーブルに開いたまま置いてあったの2冊のノート。
見慣れたアンの文字でびっしりと書かれていたものに、確かに「救世主の眷属」として招集された全員の名前と特徴があった。
その時はとくに気にしてはいなかったが、あれが「未来を予知したもの」だとすれば。
「(アンの家で見たあのノート……)」
ノートは2冊あった。
そして、その中に書いてあったこと。
「エル」は、「タツミ」と結ばれる。
救世主の名前は「タツミ」だった筈だ。
「エル」がエルヴィンのことならば。
「(アンは、はじめから……)」
深い藍色の長髪をひとつに括り、藤色の瞳には長いまつ毛の影が落ちる王都騎士団のエリート、クラウス。
しっかりと筋肉のついた身体は健康的に焼け、優しそうな垂れ目にいつも笑顔を浮かべている治癒士のテオ。
黒い癖毛から除く金色の瞳は王族の証。きりりとつり上がった太い眉に常に自信のある表情を浮かべる第二王子、バージル。
あと何人かここには揃っていないようだが、確かにエルヴィンは救世主の眷属となる人物を出会う前から知っていた。
「(銀色の長髪、赤い瞳に丸い耳……魔王の子、エル……って、まさか……)」
一気に血の気が引いていく感覚がエルヴィンを襲う。確かに立っている筈なのに、足元が揺らぐような脱力感。
「おい、お前。顔色がやけに悪いぞ」
エルヴィンの様子に眉を顰めたバージルの声も、エルヴィンにはどこか遠くに聞こえる。
ルーカスもエルヴィンに声をかけるが、全てがエルヴィンにとっては取るに足らない雑音だった。
世界から1人だけ隔離されたような感覚の中、エルヴィンの脳内では高速でこれまでの記憶が繋がり始めていく。
「(待てよ、「アレ」が未来を正確に予知した物だとするなら……)」
たどり着いたひとつの仮説に、エルヴィンの全身に激情が走る。
怒り、悲しみ、困惑、絶望。
何と表現しても足りないその感情に、エルヴィンは手を握りしめ、唇を噛み締めた。
「エルヴィン!」
ぱしん、と乾いた音がその場に響く。
遅れて痛みを伝えた頬に、エルヴィンの瞳はやっと目の前のルーカスを捉えた。
「いい加減にしろ。バージル殿下の前だぞ」
「……」
ゆっくりと辺りを見渡せば、その場の全員の視線はエルヴィンに向いていた。
バージルに至っては不快感を隠す素振りもなく、エルヴィンを睨みつけている。
「私の弟子が大変な失礼を。私の教育が足らず、誠に申し訳ございません」
エルヴィンを庇うようにルーカスは深く頭を垂れ、エルヴィンも慌ててそれに続く。
「弟子? お前たち、そんなに歳も変わらねぇだろ。それとも何か? 半魔ってのはガタイだけが立派で年齢はその半分くらいのガキだって言いたいのか?」
「私は今年26に、エルヴィンは22歳になりました。確かに歳はそう離れていませんが……確かに、エルヴィンは私の弟子です。魔力の使い方、魔法の使い方は仕込みましたが……戦いばかりに明け暮れ、礼儀作法までは至らず。しかし半魔であるが故、これが持つ魔力量は桁外れです。必ず、殿下のお役に立てるかと」
「…………」
バージルはエルヴィンを値踏みするようにじろりと見た後、小さく舌打ちをした。
「大神官、話を続けろ」
大神官は一礼をした後、また説明を続ける。
「ご納得いただけた皆様には、本聖殿にて眷属として救世主様と契約を結んでいただきます。眷属としての契約の効果は主に2つ。一つ目、契約後は眷属の方から救世主様へ危害を加えられなくなります。二つ目、皆様の持つ能力は救世主様の祈りにより底上げされます」
全員が真剣に大神官の言葉に耳を傾ける中、エルヴィンだけは未だ纏まらない思考から抜け出せずにいた。
「ご納得、いただけましたか」
あえてゆっくりと口にされた大神官の言葉に、エルヴィンは右手を挙げる。
「その話、辞退させてもらう」
「お前っ……!」
「俺は、救世主の眷属にはなれません」
それだけ告げると、エルヴィンは逃げるようにその場を後にした。
◆◆◆
王宮を後にしたエルヴィンは、森の中で一人、大きくため息をついた。
「(何がどうなってる……「アレ」は、一体なんなんだ……?)」
エルヴィンが「それ」を見つけたのは偶然だった。
ある日、アンが留守だった日のこと。
エルヴィンがアンの元に訪れるのは任務の合間。規則性のない訪問ばかりであり、家主が留守なんてことにも慣れっこで、エルヴィンは首から下げている合鍵で中に入った。
その日は寝坊でもしたのか、いつも綺麗に整っているアンの家の中はどこか乱雑だった。エルヴィンは慌てて家を出るアンを想像して1人で笑った。
どれだけ緊張感のある任務の後でも、こうしてアンの気配を感じるだけでほっと心身ともに癒されるのがよく分かる。
アンが帰ってくるまでに家を綺麗に整えようと家事に取り掛かろうとした時、エルヴィンは「それ」に気がついた。
それは、リビングテーブルに開いたまま置いてあったの2冊のノート。
見慣れたアンの文字でびっしりと書かれていたものに、確かに「救世主の眷属」として招集された全員の名前と特徴があった。
その時はとくに気にしてはいなかったが、あれが「未来を予知したもの」だとすれば。
「(アンの家で見たあのノート……)」
ノートは2冊あった。
そして、その中に書いてあったこと。
「エル」は、「タツミ」と結ばれる。
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