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月野姉弟の霊能力
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こちらへ猛スピードで迫り来る赤い自動車を、真正面に見据えながら、ふう。
と。浩輔は、溜息にも似た吐息を吐き出す。
しかしそれは、浩輔のものであり、浩輔のものではない。
現在の浩輔の肉体は、姉であり亡霊の、京香の支配下にある。
その印として、浩輔の左目は鈍色に輝いている。
左目が発光するのは、霊能力者が霊に肉体を憑依させているときの兆候の一つだ。
「はぁー、『目を合わせずに』…ねぇ……」
ぼやくように呟くその声も、普段の浩輔の声とは違い、少女特有の高さと明るさを持っている。
「じゃーあ……こうしよっかぁ…」
浩輔の肉体に憑依している京香は、足元に転がる小石を幾つか拾い上げる。
そしてそれらを、思い切り前方へ投げた。
人間が自身の肉体に力を込める時、脳が無意識のうちに込める力を減らしている。
それ故に、人間は元来発揮しうる最大の筋出力の、2,3割程度しか力を発揮できていないと言われている。
しかし、霊が霊能力者の肉体を扱う時、それはない。
霊能力者の身体の筋肉が出しうる、全ての力を発揮することができるのである。
狙うは、斎藤祐樹の乗った、赤い乗用車。そのフロントガラス。
重力を無視するかのように、水平の軌道を描きながら、それらは全てフロントガラスに衝突する。
一般にフロントガラスは、ヒビが入ることはあれど、粉々に割れることはあまりない。
複数個の小石が、フロントガラスに正面から高速で衝突することで、大量にヒビが入り、運転者は正面を見ることが難しくなる。
「うん、良い感じね!」
しかしそれは、『目を合わせない』と言う問題の解決であり、「斎藤祐樹の身柄拘束」に関しては、まだ問題は解決できていない。
斎藤の乗っている赤い車は、ブレーキを踏む事はおろか、ハンドルさえ切ろうとしない。
あくまで、浩輔達を引き殺すつもりのようだ。
「ふふっ、そう来ると思ったわ…!」
京香は、不敵な笑みを浮かべた。
そして、自身の右腕を真横に水平に上げた。
すると、右肩から先が鏡のような銀色に変色し、ナイフのように鋭利に変形していく。
斉藤の乗っている車は、もうすぐそこまで迫っている。
だが、まだだ。
刃物と化したその腕が届く範囲まで、あの車を引きつける。
目を瞑り、居合のような姿勢を取り、エンジン音や地面からの振動に意識を向ける。
そして、車体が右腕の射程圏内である、半径1mの範囲に入った瞬間。
「はぁあっ!!!」
京香は、右腕を勢いよく振り上げる。
瞬間、車体が左右に切断された。
霊能力は、霊が霊能力者に憑依することで発現する特殊な能力のこと。
そしてその多くは――――――――――――――霊の死因と大きく関係している。
月野京香は小学5年生の時に、刃物により殺害された。
その身体を……………細かく切り刻まれて。
月野京香と月野浩輔の霊能力。
それは、「肉体の一部を刃物に変え、その部位で触れればどんな物体だろうと切断できる」というもの。
剥き出しになった運転席から、ノールックで斎藤を引き摺り出す。
そのまま、「えいっ!」と叫びながら、左拳で斉藤の顎を思い切り殴り抜く。
「優愛ちゃん!」
斎藤が失神したことを確認し、優愛を呼ぶ。
それとほぼ同時に、優愛が駆けつける。
駆けつけた優愛の肩には、意識を失った茉子が担がれている。
斉藤の身柄拘束は完了したが、あまり悠長にもしていられない。
周囲には、車体から漏れ出したオイルや燃料が広がっている。
このまま放置すれば、引火及び爆発の危険性がある。
そこで京香は、斎藤のポケットからスマートフォンを取り出す。
そしてそのまま119番を押し、オペレーターが出たのを確認してから通話を切り、そのスマホを適当な場所に投げ捨てる。
そして、優愛に目線を送りつつ、声を掛けた。
「じゃあ、ここから離れましょう」
「……………うん」
「こっちはなんとかなったから、義央くんは後で合流ね」
イヤホン越しに、義央にも連絡を送る。
「うん、わかった。」
義央からの短い返事を受け、京香は斎藤を担ぎ、優愛と二人で足早に駆け出した。
と。浩輔は、溜息にも似た吐息を吐き出す。
しかしそれは、浩輔のものであり、浩輔のものではない。
現在の浩輔の肉体は、姉であり亡霊の、京香の支配下にある。
その印として、浩輔の左目は鈍色に輝いている。
左目が発光するのは、霊能力者が霊に肉体を憑依させているときの兆候の一つだ。
「はぁー、『目を合わせずに』…ねぇ……」
ぼやくように呟くその声も、普段の浩輔の声とは違い、少女特有の高さと明るさを持っている。
「じゃーあ……こうしよっかぁ…」
浩輔の肉体に憑依している京香は、足元に転がる小石を幾つか拾い上げる。
そしてそれらを、思い切り前方へ投げた。
人間が自身の肉体に力を込める時、脳が無意識のうちに込める力を減らしている。
それ故に、人間は元来発揮しうる最大の筋出力の、2,3割程度しか力を発揮できていないと言われている。
しかし、霊が霊能力者の肉体を扱う時、それはない。
霊能力者の身体の筋肉が出しうる、全ての力を発揮することができるのである。
狙うは、斎藤祐樹の乗った、赤い乗用車。そのフロントガラス。
重力を無視するかのように、水平の軌道を描きながら、それらは全てフロントガラスに衝突する。
一般にフロントガラスは、ヒビが入ることはあれど、粉々に割れることはあまりない。
複数個の小石が、フロントガラスに正面から高速で衝突することで、大量にヒビが入り、運転者は正面を見ることが難しくなる。
「うん、良い感じね!」
しかしそれは、『目を合わせない』と言う問題の解決であり、「斎藤祐樹の身柄拘束」に関しては、まだ問題は解決できていない。
斎藤の乗っている赤い車は、ブレーキを踏む事はおろか、ハンドルさえ切ろうとしない。
あくまで、浩輔達を引き殺すつもりのようだ。
「ふふっ、そう来ると思ったわ…!」
京香は、不敵な笑みを浮かべた。
そして、自身の右腕を真横に水平に上げた。
すると、右肩から先が鏡のような銀色に変色し、ナイフのように鋭利に変形していく。
斉藤の乗っている車は、もうすぐそこまで迫っている。
だが、まだだ。
刃物と化したその腕が届く範囲まで、あの車を引きつける。
目を瞑り、居合のような姿勢を取り、エンジン音や地面からの振動に意識を向ける。
そして、車体が右腕の射程圏内である、半径1mの範囲に入った瞬間。
「はぁあっ!!!」
京香は、右腕を勢いよく振り上げる。
瞬間、車体が左右に切断された。
霊能力は、霊が霊能力者に憑依することで発現する特殊な能力のこと。
そしてその多くは――――――――――――――霊の死因と大きく関係している。
月野京香は小学5年生の時に、刃物により殺害された。
その身体を……………細かく切り刻まれて。
月野京香と月野浩輔の霊能力。
それは、「肉体の一部を刃物に変え、その部位で触れればどんな物体だろうと切断できる」というもの。
剥き出しになった運転席から、ノールックで斎藤を引き摺り出す。
そのまま、「えいっ!」と叫びながら、左拳で斉藤の顎を思い切り殴り抜く。
「優愛ちゃん!」
斎藤が失神したことを確認し、優愛を呼ぶ。
それとほぼ同時に、優愛が駆けつける。
駆けつけた優愛の肩には、意識を失った茉子が担がれている。
斉藤の身柄拘束は完了したが、あまり悠長にもしていられない。
周囲には、車体から漏れ出したオイルや燃料が広がっている。
このまま放置すれば、引火及び爆発の危険性がある。
そこで京香は、斎藤のポケットからスマートフォンを取り出す。
そしてそのまま119番を押し、オペレーターが出たのを確認してから通話を切り、そのスマホを適当な場所に投げ捨てる。
そして、優愛に目線を送りつつ、声を掛けた。
「じゃあ、ここから離れましょう」
「……………うん」
「こっちはなんとかなったから、義央くんは後で合流ね」
イヤホン越しに、義央にも連絡を送る。
「うん、わかった。」
義央からの短い返事を受け、京香は斎藤を担ぎ、優愛と二人で足早に駆け出した。
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