36 / 58
恋人編(前編)
第34話(ある女の話②)
しおりを挟む父が納得する結婚相手を探す為に、彼女は朝早くから街に出た。
街だけという選択肢しか無いわけではない。
街にしたのは、まずは近場から探そうという単純な理由であった。
──────だが、それは簡単なことではなかった。
この世界では嫌悪されるそれ。
レオノーラが美しいと思う男のタイプは、多くの人で賑わう街には数える程しかいなかったのだ。
極たまに、彼女にとって格好良いと思う者も見つけたが、やはりピンとは来なかった。
レオノーラは何日も相手探しを続けた。
だが、初日と結果は同じで、街には彼女の思い描くような男は誰一人としていなかった。
〈街にはいない。〉
そう結論づけ、そろそろ街での捜索は諦めようとしていた時、ふと、レオノーラの視界に大きな背中が入ってきた。
トクリと彼女の胸が高鳴った。
彼がくぐったその扉は、この街一大きな冒険者ギルドだった。
大きな体躯、大きな身長。ローブを羽織っていてもわかるその美しさ。
それら全てはこの世界で嫌悪される対象であったが、彼女にはそんなことどうだって良かった。
─────だから、彼女は声をかけた。
顔を隠していても彼は、彼女の求めるそれの持ち主であると確信したからだ。
やっと見つけた、と歓喜が溢れた。
「あら、すっごくイケメンね。」
気づけば彼女は彼にそう声をかけていた。
今日はたまたまお気に入りの赤いドレスを着ていたので、よし、と思った。
大抵の男は谷間を見せつければ、顔を赤くしてこちらに気を持つと熟知していたからだ。
楽勝だと思った。
嫌悪されて苦しんでいるのならば、思う存分可愛がってあげるとも思った。
慰めてあげるとも思った。
だから彼女は強調するように胸を少し腕で挟みこんだ。
それから、彼女は彼にこう聞いた。
「名前、なんて言うのかしら。」
しかし彼女の問いに、ギルドの席に座っていた彼は言葉を返さなかった。
名乗らず名前を聞いたレオノーラだったが、理不尽にも黙ったままの彼に腹が立った。
今までは名乗らずとも、誰もが彼女の姿に魅了されていたからだ。
それもあり、彼女には大きな自信があったのだ。
もちろん、彼女の美しさは生まれつき得たものではなかった。
全部全部、正真正銘努力の賜物であった。
だから彼女は、彼の沈黙が自分の努力を否定した気がしてならなかったのだ。
彼は、こちらを見ようともしなかった。
レオノーラと目を合わせようともしなかった。
それにも苛立ってきた彼女は、少し傲慢に彼に言葉を放った。
「あら、喋れなかったのかしら。」
言ったあとに、彼女は少し後悔をした。
きつい言葉になってしまったと思ったからだ。
それに、ぶりっ子をして最初から話しかけた方が良かったかもしれないなとも思った。
予想通り、やはり彼は彼女の言葉に返答はしなかった。
胸をもっと強調させてみるも、その行動も虚しく失敗に終わった。
何が、ダメなのだろう。
彼女は彼から目を離し、表情は変えずに考えた。
すると、ふと、彼の手が何かを撫でていることにレオノーラは今更ながらに気がついた。
ずっと彼ばかりを見ていたので、相席に誰かが座っているとは思ってもみなかったからだ。
それに、こんなにもイケメンな彼の前に座る物好きなど、自分以外にはいないだろうと思ってもいたからだ。
だから、ちらりとそちらを見た時は驚いた。
そこには、可愛らしい一人の少女が不機嫌そうに座っていたからだ。
その少女は、目の前の彼を嫌悪した目で見ていなかった。
それも、一般の女子供はそれを見た瞬間泣きわめくはずが、彼女は泣きもせず驚くことに彼に躊躇いもせず触れていたのだ。
それに彼女は、自分以外に美醜感覚が周りとは異なる者を見たのは初めてだった。
クリクリの瞳にストレートの黒髪。それに加えて小柄な身体。
その少女の持つ、その全てがとても可愛らしく庇護欲をそそるもので。
無理だと思った。
彼女は皆が認める美人ではあったが、この少女には勝てないと思った。
優しく、愛おしそうに少女の手を撫で続ける彼の雰囲気にも、彼がどれだけ少女を愛して大切にしているのかがハッキリとわかった。
彼が遅れて発した返答に、レオノーラは適当にいい名前だと褒めた。
するとまた少女が不機嫌そうに頬を膨らます。
なんて可愛らしい子なのだろう。
彼女はもう彼ではなく、その少女しか見ていなかった。
レオノーラは昔から可愛らしいものが大好きであった。
だから、その少女は彼女の頬を緩ませるには十分だった。
完璧な笑顔が崩れそうになり、慌てて彼女は顔を引き締める。
そしてその少女の為にも彼のことは諦めようと彼女は決心した。
人の幸せを奪ってまで自分の幸せを手に入れたいとはレオノーラは思わなかったからだ。
「あの、どうしてここに?」
彼女が私に敵対心を持ったのか、いきなりそう口を開いた。
「私達、今、二人で食事中なんですよね。」
見た目とは裏腹にはっきりとものを言う強い子だと感激した。
レオノーラをライバルだと認識したのだろう。
それもまた威嚇する子猫のようで可愛らしかった。
悶えそうにもなった。
だから、もう既に彼のことを諦めていた彼女は、なんだか目の前の可愛らしい少女を少しからかいたいと思った。
そして、
「まあ!いらっしゃったんですか?気が付かなかったです。ぷっあまりにも、小さくて···ふふ。」
と少し嫌味ったらしく少女を挑発した。
最初は彼ばかりを見ていた彼女は、その時は少女がいたことすら気づかなかったのだが、それ以外は本心ではなかった。
少女のその小さな可愛さはとても素敵だと思ったからだ。
愛でたいほどの可愛らしさだ。
一応、挑発のついでに胸と身長を視線で追った。
そうすれば少女はまたも不機嫌になりこちらを睨んできた。
本当に可愛らしい。
レオノーラはその少女の姿に悶えながら、また違う場所で相手探しをしようとすぐにギルドを後にした。
118
あなたにおすすめの小説
私が美女??美醜逆転世界に転移した私
鍋
恋愛
私の名前は如月美夕。
27才入浴剤のメーカーの商品開発室に勤める会社員。
私は都内で独り暮らし。
風邪を拗らせ自宅で寝ていたら異世界転移したらしい。
転移した世界は美醜逆転??
こんな地味な丸顔が絶世の美女。
私の好みど真ん中のイケメンが、醜男らしい。
このお話は転生した女性が優秀な宰相補佐官(醜男/イケメン)に囲い込まれるお話です。
※ゆるゆるな設定です
※ご都合主義
※感想欄はほとんど公開してます。
私だけ価値観の違う世界~婚約破棄され、罰として醜男だと有名な辺境伯と結婚させられたけれど何も問題ないです~
キョウキョウ
恋愛
どうやら私は、周りの令嬢たちと容姿の好みが違っているみたい。
友人とのお茶会で発覚したけれど、あまり気にしなかった。
人と好みが違っていても、私には既に婚約相手が居るから。
その人と、どうやって一緒に生きて行くのかを考えるべきだと思っていた。
そんな私は、卒業パーティーで婚約者である王子から婚約破棄を言い渡された。
婚約を破棄する理由は、とある令嬢を私がイジメたという告発があったから。
もちろん、イジメなんてしていない。だけど、婚約相手は私の話など聞かなかった。
婚約を破棄された私は、醜男として有名な辺境伯と強制的に結婚させられることになった。
すぐに辺境へ送られてしまう。友人と離ればなれになるのは寂しいけれど、王子の命令には逆らえない。
新たにパートナーとなる人と会ってみたら、その男性は胸が高鳴るほど素敵でいい人だった。
人とは違う好みの私に、バッチリ合う相手だった。
これから私は、辺境伯と幸せな結婚生活を送ろうと思います。
※カクヨムにも掲載中の作品です。
天使は女神を恋願う
紅子
恋愛
美醜が逆転した世界に召喚された私は、この不憫な傾国級の美青年を幸せにしてみせる!この世界でどれだけ醜いと言われていても、私にとっては麗しき天使様。手放してなるものか!
女神様の導きにより、心に深い傷を持つ男女が出会い、イチャイチャしながらお互いに心を暖めていく、という、どう頑張っても砂糖が量産されるお話し。
R15は、念のため。設定ゆるゆる、ご都合主義の自己満足な世界のため、合わない方は、読むのをお止めくださいm(__)m
20話完結済み
毎日00:00に更新予定
不憫な貴方を幸せにします
紅子
恋愛
絶世の美女と男からチヤホヤされるけど、全然嬉しくない。だって、私の好みは正反対なんだもん!ああ、前世なんて思い出さなければよかった。美醜逆転したこの世界で私のタイプは超醜男。競争率0のはずなのに、周りはみんな違う意味で敵ばっかり。もう!私にかまわないで!!!
毎日00:00に更新します。
完結済み
R15は、念のため。
自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)
今世は『私の理想』の容姿らしいけど‥到底認められないんです!
文月
恋愛
私の理想の容姿は「人形の様な整った顔」。
クールビューティーっていうの? 華やかで目を引くタイプじゃなくて、ちょっと近寄りがたい感じの正統派美人。
皆の人気者でいつも人に囲まれて‥ってのじゃなくて、「高嶺の花だ‥」って遠巻きに憧れられる‥そういうのに憧れる。
そりゃね、モテたいって願望はあるよ? 自分の(密かな)願望にまで嘘は言いません。だけど、チヤホヤ持ち上げられて「あの子、天狗になってない? 」とか陰口叩かれるのはヤなんだよ。「そんなんやっかみだろ」っていやあ、それまでだよ? 自分がホントに天狗になってないんなら。‥そういうことじゃなくて、どうせなら「お高く留まってるのよね」「綺麗な人は一般人とは違う‥って思ってんじゃない? 」って風に‥やっかまれたい。
‥とこれは、密かな願望。
生まれ変わる度に自分の容姿に落胆していた『死んで、生まれ変わって‥前世の記憶が残る特殊なタイプの魂(限定10)』のハヅキは、次第に「ままならない転生」に見切りをつけて、「現実的に」「少しでも幸せになれる生き方を送る」に目標をシフトチェンジして頑張ってきた。本当の「密かな願望」に蓋をして‥。
そして、ラスト10回目。最後の転生。
生まれ落ちるハヅキの魂に神様は「今世は貴女の理想を叶えて上げる」と言った。歓喜して神様に祈りをささげたところで暗転。生まれ変わったハヅキは「前世の記憶が思い出される」3歳の誕生日に期待と祈りを込めて鏡を覗き込む。そこに映っていたのは‥
今まで散々見て来た、地味顔の自分だった。
は? 神様‥あんだけ期待させといて‥これはないんじゃない?!
落胆するハヅキは知らない。
この世界は、今までの世界と美醜の感覚が全然違う世界だということに‥
この世界で、ハヅキは「(この世界的に)理想的で、人形のように美しい」「絶世の美女」で「恐れ多くて容易に近づけない高嶺の花」の存在だということに‥。
神様が叶えたのは「ハヅキの理想の容姿」ではなく、「高嶺の花的存在になりたい」という願望だったのだ!
この話は、無自覚(この世界的に)美人・ハヅキが「最後の人生だし! 」ってぶっちゃけて(ハヅキ的に)理想の男性にアプローチしていくお話しです。
美醜逆転の世界に間違って召喚されてしまいました!
エトカ
恋愛
続きを書くことを断念した供養ネタ作品です。
間違えて召喚されてしまった倉見舞は、美醜逆転の世界で最強の醜男(イケメン)を救うことができるのか……。よろしくお願いします。
「転生したら推しの悪役宰相と婚約してました!?」〜推しが今日も溺愛してきます〜 (旧題:転生したら報われない悪役夫を溺愛することになった件)
透子(とおるこ)
恋愛
読んでいた小説の中で一番好きだった“悪役宰相グラヴィス”。
有能で冷たく見えるけど、本当は一途で優しい――そんな彼が、報われずに処刑された。
「今度こそ、彼を幸せにしてあげたい」
そう願った瞬間、気づけば私は物語の姫ジェニエットに転生していて――
しかも、彼との“政略結婚”が目前!?
婚約から始まる、再構築系・年の差溺愛ラブ。
“報われない推し”が、今度こそ幸せになるお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる