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前編

秘密の手紙

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 アリシア様から渡された小箱を持ち、急ぎ王妃の間へと向かう。待機していた、侍女を下げ一人私室へと入った。

 さて、この小箱には何が隠されているのだろうか?

 パッと見たところ何の変哲もない小箱である。

 紺色のビロードが表面に貼られている小さな宝石箱といったところだ。中を開けてみても別段おかしなところはない。ただ、何かが引っかかる。

 胸に飾られたブローチを外し、中へおさめてみて気づいた。蓋を閉めた時に僅かに隙間が開くのだ。留め金もキチンとかけられる上、隙間も薄っすらと開く程度なので、気にしなければ分からない位のもの。ただ、王族に渡す品にしてはお粗末に感じられる。

 底に何か隠されているのか?

 ブローチを取り出し、小箱の底板を外し、驚いた。細かな彫刻が施された銀板が嵌められている。しかし、これは簡単に外せる代物ではない。隙間なく嵌められた銀板は外すための突起すらない。

 さて、どうしたものか。

 それにしても、見事な細工である。この小箱を作った職人の腕の良さが伺える。

 あらっ?これ、鍵穴ではなくって。

 花の彫刻が施された銀板を見ていて気づいた。五枚の花弁の真ん中に複雑な形の小さな穴が空いている。

 テーブルに置いたブローチを見つめる。

 ブローチのデザインと銀板のデザインは、とても似ている。このブローチを入れるために作られた小箱。いや、この銀板のためにあつらえたブローチと言った方が正解だろう。

 だとすれば、鍵はブローチという事になる。

 ブローチを手に取り、隅々まで確認してみると、不自然な部分があるではないか。留め金の一部が異様に張り出している。コレでは、つける場所によっては肌を傷つけてしまう可能性がある。

 こんなに見事な細工をする職人が、初歩的なミスを冒すとは思えない。だとすると……

『ガチャ』

 張り出した部分を鍵穴に差し込みねじると手応えがあり、そのまま上へと持ち上れば銀板が簡単に外れた。

 やっぱり、この中に隠してあったのね。

 折り畳まれた小さな紙片を取り上げ、中を見る。

『王妃様、このような形でお伝えせねばならない無礼をお許しください。側妃候補からの手紙など、不快でしかないのも理解しております。ただ、コレだけはお伝えせねばと思い筆を取りました。どうか、身辺にお気をつけください。そして、わたくしの兄、ルドラ。そしてバレンシア公爵家の者には気を許しませんようお願い致します。王妃様のお命に係る事でございます』

 アリシア様からの手紙を小箱に戻し、銀板をはめ込む。

 バレンシア公爵家の者に命を狙われる可能性は、アリシア様が側妃候補となった時点で、覚悟はしていた。

 いくらお飾り王妃といえども、正妃は正妃なのだ。陛下の愛が深かろうが、側妃の立場が正妃を上回る事はまずない。ただ、それは一般論であって、あの陛下にこの考えは通用しない。やろうと思えば、正妃を表舞台から葬り、側妃を正妃へと押し上げる事など雑作もなく、やりそうではある。

 だからこそ、陛下に恩を売り自分の身の安全を確保するべく、動いているのだが。

 ただ、王妃が命を狙われる可能性など、誰でも想像出来る。アリシア様からの忠告がなくとも、バレンシア公爵家の動きは注視していくつもりだった。

 それにしてもよくわからない。こんな分かりきった手紙、彼女が王妃へ書く意味がわからない。バレンシア公爵家の人間でありながら、親族を裏切る行為。そんな行動を取ってまで、アリシア様は何を王妃に伝えようとしたのか?

 分からない事だらけだわ。

 バレンシア公爵家について、もっと調べる必要があるだろう。





「ティアナ様。アリシア様とのお茶会はいかがでしたか?わざわざ、側妃候補様をお呼びしなくてもよろしかったでしょうに」

「確かにね。結局、アリシア様は侍女ティナに接触してまで、王妃である私に何を伝えたかったのかしらね?」

「は⁈ 今回のお茶会は、ティアナ様が側妃候補様に、一言釘を刺してやろう!がコンセプトじゃなかったのですか?」

「やだぁ、ルアンナったら。意地悪ぅぅ」

「意地悪ぅぅ、ではございません!今後、バレンシア公爵家からの嫌がらせの嵐に晒されるやもしれませんのに」

「確かにね。アリシア様からも忠告されたわ。バレンシア公爵家の人間には注意しろって。命を狙われるかもしれませんよぉってね」

「はっ…はぁ⁇ アリシア様はいったい何をおっしゃって」

「そうよねぇ。そんな分かりきった事を言うために態々わざわざ、王妃に謁見したいなんておかしいと思わない?」

「ティ、ティアナ様。何をお考えで……」

「ふふふ。大した事じゃないのよ。ちょーと、ルアンナに協力して貰いたいだけよ。簡単なお手伝い」

 不気味な笑みを浮かべた私に、ルアンナの顔が引き攣り、後ずさる。

「ティアナ様‼︎ 早まってはダメです‼︎‼︎」

 その夜、王妃の間から断末魔の叫び声が聞こえたとか聞こえなかったとか。

 
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