【完結】転生じぃちゃん助けた子犬に喰われる!?

湊未来

文字の大きさ
3 / 26

緋色の狼

しおりを挟む
――記憶は過去へとさかのぼる。

「ふふふ、ドクダミ、ドクダミ」

 自身の背を雄に超える大きさの葉をつけたドグダミの茎を、小刀で切り落としていく。

「今日も大漁、大漁」

 年中温暖な気候のアルスター王国では、いつでもドクダミを採ることが出来る。ただ、なんせ力の弱い兎獣人である。危険な森へ来るのは出来るだけ避けたいと思うのが本能というものだ。

 今日も両手で抱えられる量の葉の茎を紐で縛り背負う。これで、数ヶ月分のお茶とアルコールチンキは作ることが出来るだろう。

 本当にドクダミは万能薬だ。飲んで良し、塗って良し、貼って良しと、薬としてとても重宝する。しかし、獣人にとってあの独特な匂いはキツすぎるらしく、厄介な植物としての認識が強い。だからこそ、外敵避けにもなるのだ。

 背負ったドクダミのおかげで、無法地帯に生息する大抵の危険動物は寄って来ない。しかし、あの時はその油断が、足元をすくう結果を招いた。

「おいおい、これは珍しい。兎じゃねぇか!」

 突然かけられた声に、とっさに背後を振り返ると、そこには数人の男達が立っていた。これはまずい状況になった。耳の形を見る限りでは狐獣人に、猫獣人、犬獣人など中型の獣人共だが、兎獣人である自分よりは遥かに力も強く、攻撃的だ。戦っても勝ち目が無いのは目に見えている。ただ、このまま何もせずに、奴らのオモチャにされる訳には行かない。

 さて、どうしたものか。

「おぉ、こりゃ上玉じゃねえか。酔狂なお貴族様に売り飛ばしたら高く売れるぜ」

 下卑た笑いをこぼしながら、ゆっくりと近づいてくる男達を見つめ、嫌な予感が的中した事を悟る。

 こいつらは、人攫ひとさらいだ。草食獣人街でも注意喚起がされていた誘拐犯の可能性が高い。

 何しろ、草食獣人が闇で肉食獣人に売られる事件は後をたたないのだ。もちろん喰うためでは無い。高い金を払って草食獣人を喰いたいと思う酔狂な貴族もいるかもしれないが、食糧にするには割りに合わない。そんな物にするよりも、もっと重要な価値が草食獣人にはあるのだ。

『草食獣人と肉食獣人との子は、異種交配の結果、桁外れの力を持って生まれてくる事が多い』

 力が物を言うアルスター王国では、己の種族の力を、強いては自身の子孫の力を強くすることに重きが置かれている。

 その結果、草食獣人の伴侶を得ようとする貴族が多い。しかし、種族間の力をコントロールするため、草食獣人との婚姻は、王家が管理し、ある特定の貴族家でなければ、娶ることが出来ない仕組みとなっているのだ。

 だからこそ、草食獣人を秘密裏に手に入れるため、闇売買が行われている。そして、運が悪いことに、目の前の奴らは人攫いだ。捕まれば、間違いなく売り飛ばされてしまう。

 ゆっくりと後ろへ下がって行くが、徐々に男達との間合いが詰まってくる。

 目の前の奴らは獣人の中では比較的嗅覚が鋭い種族だ。背負ったドクダミが使えるかもしれない。近づいた所で、ドクダミを振り回して、ひるんだ隙に逃げる。これしか助かる手は無い様に思えた。

 小刀を片手に握り直し、構える。

「おいおい、うさぎちゃん。俺たちに勝とうってのか?」

 ゲラゲラと笑い出した男達もまた、それぞれの手に武器を構える。

「大人しく捕まってくんねぇかな。傷つけると値が下がるんだわ」

 男達の足が地面を蹴ると同時に、背負っていたドクダミを渾身の力を込め投げつけると、一目散に逃げ出す。

 道に迷おうと今はそれどころではない。人攫いに捕まるならのたれ死んだ方がマシだ。酔狂な肉食獣人にでも売られたら最後、悲惨な監禁生活が待っている。

 全速力で走り続け、どれくらいの時間が経っただろうか、とうに足は限界を迎えていた。

 ゆっくりとスピードが落ちて行き、足が止まりかけた時、強い力で長い耳を後方へと引っ張られた。

「痛いぃぃ!!」

「へへへ、捕まえた」

「おいおい、手荒に扱うなよ。大事な商品だ」

 なぜだ。なぜ、奴らが此処にいる。あのドクダミの匂いで数分は悶えているはずではないか。嗅覚も当分は使い物にならないと踏んでいたのに。

「残念だったな。あの厄介な草を投げつけたまでは良かったが、俺達には効かないんだよ。森での生活が長いもんでな。そこら辺は対策済みだ」

 その言葉通り、男達の顔を見ると、鼻までを大きな布で覆っていた。それだけでは、あの匂いを完全に防ぐ事が出来なくとも、森での生活が長ければ、普通の獣人よりは耐性があってもおかしくはない。始めから作戦は失敗に終わっていたのだ。

 今更、自分の浅はかさを悔やんだところで後の祭りだ。ただ、ここで諦めれば私の第二の人生は死んだも同然だ。だったら、最期に死ぬ気で抵抗してやる。それで死ぬなら本望だ!

「わぁぁぁぁぁ!!!!」

 小刀を握った手を闇雲に振り回す。

「コイツっ……」

 ダンっという衝撃とともに、身体が悲鳴をあげる。

「――かはっ……」

 地面に叩きつけられた衝撃に上手く呼吸が出来ない。

「……よくもやりやがったな!!」

 血走った目をして近づく男の頬からは血が滴っている。どうやら、振り回した小刀が運良く、男の顔を傷つけたようだ。一矢報いてやったと思う反面、状況はさらに悪化している。

 小刀の先を男達へと向け後ずさるが、興奮した男達の動きは早かった。

――万事急須か……

 襲いくる痛みを予想し、咄嗟とっさに目をつむる。しかし、待てど暮らせど痛みが襲って来ることはなかった。

 そっと目を開け、見た光景に息をのむ。

 男達を下敷きに立つ、緋色ひいろの狼の姿に――


 
しおりを挟む
感想 32

あなたにおすすめの小説

魔王様に溺愛されています!

うんとこどっこいしょ
BL
「一目惚れをしたんだ、必ず俺に惚れさせてみせる」 異世界で目覚めた倉木春斗は、自分をじっと見つめる男──魔王・バロンと出会う。優しいバロンに、次第に惹かれていく春斗。けれど春斗には、知らぬ間に失った過去があった。ほのぼの、甘い、ラブコメファンタジー。 第一章 第二章 第三章 完結! 番外編追加

小学生のゲーム攻略相談にのっていたつもりだったのに、小学生じゃなく異世界の王子さま(イケメン)でした(涙)

九重
BL
大学院修了の年になったが就職できない今どきの学生 坂上 由(ゆう) 男 24歳。 半引きこもり状態となりネットに逃げた彼が見つけたのは【よろず相談サイト】という相談サイトだった。 そこで出会ったアディという小学生? の相談に乗っている間に、由はとんでもない状態に引きずり込まれていく。 これは、知らない間に異世界の国家育成にかかわり、あげく異世界に召喚され、そこで様々な国家の問題に突っ込みたくない足を突っ込み、思いもよらぬ『好意』を得てしまった男の奮闘記である。 注:主人公は女の子が大好きです。それが苦手な方はバックしてください。 *ずいぶん前に、他サイトで公開していた作品の再掲載です。(当時のタイトル「よろず相談サイト」)

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

【完結】第三王子は、自由に踊りたい。〜豹の獣人と、第一王子に言い寄られてますが、僕は一体どうすればいいでしょうか?〜

N2O
BL
気弱で不憫属性の第三王子が、二人の男から寵愛を受けるはなし。 表紙絵 ⇨元素 様 X(@10loveeeyy) ※独自設定、ご都合主義です。 ※ハーレム要素を予定しています。

動物アレルギーのSS級治療師は、竜神と恋をする

葉空
BL
SS級治療師、ルカ。それが今世の俺だ。 前世では、野犬に噛まれたことで狂犬病に感染し、死んでしまった。次に目が覚めると、異世界に転生していた。しかも、森に住んでるのは獣人で人間は俺1人?!しかも、俺は動物アレルギー持ち… でも、彼らの怪我を治療出来る力を持つのは治癒魔法が使える自分だけ… 優しい彼が、唯一触れられる竜神に溺愛されて生活するお話。

【完結】待って、待って!僕が好きなの貴方です!

N2O
BL
脳筋ゆえ不本意な塩対応を只今猛省中、ユキヒョウの獣人 × 箱入りゆえガードが甘い愛され体質な竜人 愛しい幼馴染が有象無象に狙われて、居ても立っても居られなくなっていく余裕のない攻めの話。 (安心してください、想像通り、期待通りの展開です) Special thanks illustration by みとし (X:@ibarakiniarazu) ※独自設定かつ、ふんわり設定です。 ※素人作品です。 ※保険としてR設定にしていますが、基本健全。ほぼない。

【完結】巷で噂の国宝級イケメンの辺境伯は冷徹なので、まっっったくモテませんが、この度婚約者ができました。

明太子
BL
オーディスは国宝級イケメンであるにも関わらず、冷徹な性格のせいで婚約破棄されてばかり。 新たな婚約者を探していたところ、パーティーで給仕をしていた貧乏貴族の次男セシルと出会い、一目惚れしてしまう。 しかし、恋愛偏差値がほぼ0のオーディスのアプローチは空回りするわ、前婚約者のフランチェスカの邪魔が入るわとセシルとの距離は縮まったり遠ざかったり…? 冷徹だったはずなのに溺愛まっしぐらのオーディスと元気だけどおっちょこちょいなセシルのドタバタラブコメです。

嫌われ公式愛妾役ですが夫だけはただの僕のガチ勢でした

ナイトウ
BL
BL小説大賞にご協力ありがとうございました!! CP:不器用受ガチ勢伯爵夫攻め、女形役者受け 相手役は第11話から出てきます。  ロストリア帝国の首都セレンで女形の売れっ子役者をしていたルネは、皇帝エルドヴァルの為に公式愛妾を装い王宮に出仕し、王妃マリーズの代わりに貴族の反感を一手に受ける役割を引き受けた。  役目は無事終わり追放されたルネ。所属していた劇団に戻りまた役者業を再開しようとするも公式愛妾になるために偽装結婚したリリック伯爵に阻まれる。  そこで仕方なく、顔もろくに知らない夫と離婚し役者に戻るために彼の屋敷に向かうのだった。

処理中です...