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新しい風
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「ユリアス、侍医が言っておったのだがな、強烈な匂いのするあの植物のペーストを貼り付けただけでは、全身の解毒は出来ぬと言っておった。あの時、こやつに何を飲ませた?」
えっ? 何を飲ませたかって??
あの時は、必死すぎて何を飲ませたかまでは覚えていない。何しろ、錯乱状態で暴れるは、叫び出すはで、正直一歩間違えれば自分の命すら取られかねない状況だったのだ。覚えている方が、むしろ怖い。
「陛下、申し訳ありません。あの時は必死すぎて、よく覚えていないのです」
「ほぉ~。覚えていないと」
急に放たれた威圧と、胡乱な陛下の視線が、『覚えていません』では通用しないと言うことを物語っていた。
これは、マズイな……。完全に、しらばっくれていると思われている。
「父上、ユリアスをあまり虐めないでいただきたい。俺も、あの時の事は、はっきりと覚えていないが、かなり暴れた形跡があったと、調査隊が言っていた。肉食獣人が錯乱すれば、草食獣人であるユリアスなどひとたまりもないだろう。それでも最後まで看病してくれた。いつ、自分へと刃が向けられるかわからない緊張の中行った治療が、どんな類の物だったかなんて、覚えているはずがない」
「確かに、それもそうだな」
放たれていた威圧がスッと消え、場の空気が緩む。
さすが、第三王子なだけはある。父王の扱いには慣れているということか。ただ、これで帰してもらえるとは思えない。この場に呼ばれた理由が、アルフレッド殿下を救った秘薬の正体を探るのが目的であるなら、なおさら今のままでは解放してもらえないだろう。
王家直属の侍医集団を門前払いしたツケが、陛下との対面だなんて、どんな罰ゲームだよ。本当に……。
こんな事なら、面倒くさがらずに調査に協力すればよかった。
さて、何か情報を提示しなければ、帰してもらえないと。
「はっきりとは覚えておりませんが、あの時に持っていた持ち物で、薬と言えるのは、あの臭い葉っぱを乾燥させて、煮出したお茶くらいかと」
「なに!? お主は、そんな物を飲んでいるのか?」
「えぇ。今も愛飲しておりますが」
「……信じられん。あんなモノを飲もうとするなんて」
「だから言いましたでしょ父上。ユリアスを一般的な医者と一緒にしてはダメだと」
「確かにな」
何やら神妙な顔で話す親子を見つめ、複雑な気持ちが芽生える。どうやら、私は陛下から変人認定されてしまったらしい。
「ただ、ユリアスが軍医についてからの兵士の健康状態はすこぶる良いのも事実です」
「ふむ、確かに一考の価値はありそうだな。あぁ、ユリアス。君の軍医としての腕を疑ってはおらんよ。ただ、一人で抱え込むよりも、より多くの知識人と交流するのも、見識が広がって良いと思うのだ。アルフレッドの側にいるのであれば、特にな」
「はぁ……。左様ですか」
つまりは、王家お抱えの侍医共と知識を共有しろと言っているのか。陛下からしてみれば、草食獣人が、王宮の一角で得体の知れない薬を作っていること自体、本来であれば受け入れ難い事なのだろう。それを譲歩してやる代わりに、知識を寄越せと言っているのだ。
ここで断ったら、後々さらに面倒な事になりかねないか。
「いやな。お主も、ここでは肩身の狭い思いをしているのではないかと思ってな」
「えっと……それは、いったい」
「いや、なに。我が国の中枢で働く者たちは、肉食獣人が多い。草食獣人は数えるくらいしかおらんであろう。ただ、私はな、それではダメだと思っておる。草食獣人の中にも、ユリアスと同じように、秀でた知識や能力を持つ者もいると思っておる。しかし、今の現状では、その者たちが陽の目を見ることは、ほぼない。その原因の主たるものは、肉食獣人の偏見に他ならない。草食獣人は肉食獣人よりも劣る存在であるというな。確かに、力では草食獣人は弱い。しかし、頭でも肉食獣人より劣るかと言われれば、そうでは無いと言えるのではなかろうか。現に、ユリアス、お主は侍医達よりも優れた知識を持っている」
陛下の言葉は、尤もな話だ。
草食獣人は、肉食獣人より力では絶対的に劣る。しかし、頭の良さでは、肉食獣人に劣るとは言えない。むしろ、力が弱い分、頭を使い危険を回避する能力には長けているのではないかと思う。
はっきり言って、そこら辺の力に物を言わせた肉食獣人なんかより、よっぽど頭が良いと思っている。
「私はな、力だけで序列が決まる国では、未来がないと考えているのだよ。草食獣人をただの道具としか考えていない世では、何の発展もない。様々な種族が入り混じり、意見をかわし、知識を共有し、高め合っていく。そんな世にこそ、未来があるのではないかとな」
陛下の言葉が信じられなかった。そんな世の中、本当に来るとは思えない。保護区という名の、程のいい檻の中で、草食獣人を飼っているのと同じ状況で、そんな非現実的な理想を唱えられても誰が信じると言うのだ。
「そんな話、信じられるはずがない」
「そうであろうな。草食獣人の今の状況を考えれば、ユリアスがそう思うのも仕方ない。ただ、非現実的な理想でも誰かが行動を起こせば、何かが変わるのではないか? ユリアス、お前とアルフレッドが出会い、軍に新しい風を吹き込んだようにな」
誰かが行動を起こせば、何かが変わるのだろうか?
私が森へと入る決意をしなければ『ドクダミ』を見つけることは出来なかった。そして、緋色の狼を助けることも。
隣に立つ、アルフレッド殿下を見上げると、彼もまた自分を見つめていた。
「ユリアス、お前が尻込みする気持ちもわかる。ただな、知識人というものは案外、自分よりも優れているもの対しては、負けを認めれば、素直にそれを受け入れるだけの度量を持つ者も多いぞ。未知の知識に対して貪欲だからな。草食獣人だからと、蔑むこともないと思うが。侍医共が言っておったわ。すぐにでも、お前の研究室へ行かせろとな」
豪快に笑う陛下を見て、正直不思議でならなかった。
「陛下……。どうして、貴方様は草食獣人に対して寛容なのですか?」
「不思議に思うか。確かに、力で序列が決まるアルスター王国の頂点に立つ者としては異色だな。約束なんだよ。亡き、妻とのな――」
えっ? 何を飲ませたかって??
あの時は、必死すぎて何を飲ませたかまでは覚えていない。何しろ、錯乱状態で暴れるは、叫び出すはで、正直一歩間違えれば自分の命すら取られかねない状況だったのだ。覚えている方が、むしろ怖い。
「陛下、申し訳ありません。あの時は必死すぎて、よく覚えていないのです」
「ほぉ~。覚えていないと」
急に放たれた威圧と、胡乱な陛下の視線が、『覚えていません』では通用しないと言うことを物語っていた。
これは、マズイな……。完全に、しらばっくれていると思われている。
「父上、ユリアスをあまり虐めないでいただきたい。俺も、あの時の事は、はっきりと覚えていないが、かなり暴れた形跡があったと、調査隊が言っていた。肉食獣人が錯乱すれば、草食獣人であるユリアスなどひとたまりもないだろう。それでも最後まで看病してくれた。いつ、自分へと刃が向けられるかわからない緊張の中行った治療が、どんな類の物だったかなんて、覚えているはずがない」
「確かに、それもそうだな」
放たれていた威圧がスッと消え、場の空気が緩む。
さすが、第三王子なだけはある。父王の扱いには慣れているということか。ただ、これで帰してもらえるとは思えない。この場に呼ばれた理由が、アルフレッド殿下を救った秘薬の正体を探るのが目的であるなら、なおさら今のままでは解放してもらえないだろう。
王家直属の侍医集団を門前払いしたツケが、陛下との対面だなんて、どんな罰ゲームだよ。本当に……。
こんな事なら、面倒くさがらずに調査に協力すればよかった。
さて、何か情報を提示しなければ、帰してもらえないと。
「はっきりとは覚えておりませんが、あの時に持っていた持ち物で、薬と言えるのは、あの臭い葉っぱを乾燥させて、煮出したお茶くらいかと」
「なに!? お主は、そんな物を飲んでいるのか?」
「えぇ。今も愛飲しておりますが」
「……信じられん。あんなモノを飲もうとするなんて」
「だから言いましたでしょ父上。ユリアスを一般的な医者と一緒にしてはダメだと」
「確かにな」
何やら神妙な顔で話す親子を見つめ、複雑な気持ちが芽生える。どうやら、私は陛下から変人認定されてしまったらしい。
「ただ、ユリアスが軍医についてからの兵士の健康状態はすこぶる良いのも事実です」
「ふむ、確かに一考の価値はありそうだな。あぁ、ユリアス。君の軍医としての腕を疑ってはおらんよ。ただ、一人で抱え込むよりも、より多くの知識人と交流するのも、見識が広がって良いと思うのだ。アルフレッドの側にいるのであれば、特にな」
「はぁ……。左様ですか」
つまりは、王家お抱えの侍医共と知識を共有しろと言っているのか。陛下からしてみれば、草食獣人が、王宮の一角で得体の知れない薬を作っていること自体、本来であれば受け入れ難い事なのだろう。それを譲歩してやる代わりに、知識を寄越せと言っているのだ。
ここで断ったら、後々さらに面倒な事になりかねないか。
「いやな。お主も、ここでは肩身の狭い思いをしているのではないかと思ってな」
「えっと……それは、いったい」
「いや、なに。我が国の中枢で働く者たちは、肉食獣人が多い。草食獣人は数えるくらいしかおらんであろう。ただ、私はな、それではダメだと思っておる。草食獣人の中にも、ユリアスと同じように、秀でた知識や能力を持つ者もいると思っておる。しかし、今の現状では、その者たちが陽の目を見ることは、ほぼない。その原因の主たるものは、肉食獣人の偏見に他ならない。草食獣人は肉食獣人よりも劣る存在であるというな。確かに、力では草食獣人は弱い。しかし、頭でも肉食獣人より劣るかと言われれば、そうでは無いと言えるのではなかろうか。現に、ユリアス、お主は侍医達よりも優れた知識を持っている」
陛下の言葉は、尤もな話だ。
草食獣人は、肉食獣人より力では絶対的に劣る。しかし、頭の良さでは、肉食獣人に劣るとは言えない。むしろ、力が弱い分、頭を使い危険を回避する能力には長けているのではないかと思う。
はっきり言って、そこら辺の力に物を言わせた肉食獣人なんかより、よっぽど頭が良いと思っている。
「私はな、力だけで序列が決まる国では、未来がないと考えているのだよ。草食獣人をただの道具としか考えていない世では、何の発展もない。様々な種族が入り混じり、意見をかわし、知識を共有し、高め合っていく。そんな世にこそ、未来があるのではないかとな」
陛下の言葉が信じられなかった。そんな世の中、本当に来るとは思えない。保護区という名の、程のいい檻の中で、草食獣人を飼っているのと同じ状況で、そんな非現実的な理想を唱えられても誰が信じると言うのだ。
「そんな話、信じられるはずがない」
「そうであろうな。草食獣人の今の状況を考えれば、ユリアスがそう思うのも仕方ない。ただ、非現実的な理想でも誰かが行動を起こせば、何かが変わるのではないか? ユリアス、お前とアルフレッドが出会い、軍に新しい風を吹き込んだようにな」
誰かが行動を起こせば、何かが変わるのだろうか?
私が森へと入る決意をしなければ『ドクダミ』を見つけることは出来なかった。そして、緋色の狼を助けることも。
隣に立つ、アルフレッド殿下を見上げると、彼もまた自分を見つめていた。
「ユリアス、お前が尻込みする気持ちもわかる。ただな、知識人というものは案外、自分よりも優れているもの対しては、負けを認めれば、素直にそれを受け入れるだけの度量を持つ者も多いぞ。未知の知識に対して貪欲だからな。草食獣人だからと、蔑むこともないと思うが。侍医共が言っておったわ。すぐにでも、お前の研究室へ行かせろとな」
豪快に笑う陛下を見て、正直不思議でならなかった。
「陛下……。どうして、貴方様は草食獣人に対して寛容なのですか?」
「不思議に思うか。確かに、力で序列が決まるアルスター王国の頂点に立つ者としては異色だな。約束なんだよ。亡き、妻とのな――」
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