【R18】わたしが悪女をやめた理由〜欲望を宿し瞳に囚われて

湊未来

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突破口 ①

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(気絶しているんじゃ、話にならないわね)

 レベッカはひとまず、目の前で腰を抜かしている鳶色の髪の男へと声をかけることにした。

「大丈夫ですか? えっと――、お名前は?」

「あぁ、すんません。俺は、メイナードって言います。まさか、女性に庇われるとは思ってもいなくて……、面目ない」

 照れ臭そうに頭をかく男の頬がほんのり赤く染まる。自分より身体も小さな女に助けられたことなんてないだろう。恥ずかしくても仕方がない。

「いいえ、私も出過ぎた真似をしました。かえってお立場を悪くさせてしまっていたら、ごめんなさい」

 がばっと頭を下げると、慌てた声が頭上から降ってきた。

「あぁぁぁ、頭をあげてください。あやまんねぇといかんのは俺のほうさ。助けてくれて、ありがとな」

 臆面もなく頭を下げる男に好感がわく。
 貴族社会の男達は、女、子供は庇護対象でしかない。たとえ助けたとしても、余計なことはするなと怒鳴られて終いだ。だからこそ、メイナードの行いはレベッカの目には新鮮に映った。

 快活に笑う姿は実直そうで、人の良さが顔から滲み出ている。

 カッ、カッと朗らかに笑う顔は日に焼け、力仕事をする下男らしく引き締まった体躯は無駄がない。本来であればセインのような見た目だけの男にやられるようなタマではないだろう。しかし、笑う顔には殴られた跡がくっきりと残っていた。

(権力に物言わせ暴力を振るうなんて、本当、最低!!)

 今だに気を失っているメイドを庇い、セインの暴力を甘んじて受け入れた優しい男。レベッカの中でメイナードの株はうなぎのぼりだ。

「メイナードさん、顔、怪我してますね。ちょうど良い傷薬を持っているんで、使いますか?」

 レベッカはポケットから小瓶に入った緑色の薬を取り出すとメイナードへと見せる。

「そりゃ、もしかして……、シャロン商会の傷薬かい?」

「えぇ、まぁ」

「最近じゃ、滅多に出回らない貴重品じゃねぇか。すっげぇ効き目だって有名だぜ!」

 メイナードの褒めようにレベッカの顔が熱くなる。レベッカがひとり立ちして初めて開発した薬の評判を直に聞けるのは貴重な経験だ。しかも、平民の間でも噂になっていることがすごく嬉しい。
 最近では、傷薬の効能があまりにも高く、軍で買い占められてしまい、平民にまで出回らない。そう母が嘆いていたのを知っているだけに、嬉しさもひと塩だ。
 もともとあの傷薬は平民でも手に入れやすいように原価ギリギリの安値にしていた。しかし、より高く売れるところに品物が流れるのは市場の原理。今は値段が跳ね上がり、レベッカの思いとは裏腹に高価な薬となってしまった。

(もっと改良して誰にでも手に取れる品にしなきゃダメね)

「たまたま、まだ安い時に手に出来たの。効果は保証するわ。塗ってもいい?」

「助けてもらった上に、高価な傷薬まで使ってもらって、すまねぇ」

「気にしないで」

 レベッカは蓋をあけ緑色の軟膏を手に取ると、顔の傷に塗り広げた。

「明日には、腫れがひいてくると思うから。さて、後ろで気絶しているお嬢さんをどうしようかしら? メイナードさん、彼女のこと知っている?」

「あぁ、住み込みで働いているメイドさ」

「あらっ? 住み込みで働いている人もいるのね」

「あぁ、俺みたいな隣国から来た出稼ぎ労働者はみんなそうさ」

「では、彼女も隣国出身なの?」

「たぶんな。ここに寝かせておくのも、不味いな。彼女の部屋まで連れて行くから、おめぇさんも着いて来てくんねぇか?」

 気絶したメイドを器用に背中に背負ったメイナードがレベッカを見る。

(メイドの部屋に下男が一人で入れば、いらぬ誤解を生むわね)

「えぇ、私で良ければ」

 メイドを背負ったメイナードに続き、レベッカも歩き出す。そして、はたと気づいた。

「そう言えば、名乗ってなかったわね。私、レベッカって言うの」

 気絶したメイドから情報をどうやって聞き出すか思案していたレベッカは気づいていなかった。
『レベッカ』と言う名にメイナードの肩が一瞬、ビクッと震えたことにも、間違えて本名を名乗ってしまっていたことにも。
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