【R18】わたしが悪女をやめた理由〜欲望を宿し瞳に囚われて

湊未来

文字の大きさ
37 / 54

家族の優しさ ①

「レベッカ、いい加減にしなさい!! なんですか、その姿は!! もう何日お風呂に入っていないの。臭いったらありゃしない!!」

 研究棟の一室、仮眠のためだけに存在する殺風景な部屋に響き渡った母の怒号に、布団にくるまりベッドの上で小さくなっていたレベッカの身体は、数センチ跳ね上がった。

 エリアスに振られ、食事も摂らず研究棟に引きこもって三日、母の堪忍袋の緒が切れたらしい。
 無理やり布団を引っぺがされ、風呂場へと強制連行されたレベッカは、頭から容赦なく湯をかけられ、洗濯物よろしく母手ずからゴシゴシと髪と身体を洗われていた。

「男に振られたからって何ですか!! くよくよ泣くくらいなら、自分磨きに精を出しなさい。男の一人や二人侍らすくらい己を磨き見返してやんさない!!」

 母の言葉とともに湯を頭からバシャっとかけられる。何にでも豪快な母らしい慰め方に、レベッカはクリスと笑った。

(男の一人や二人か……)

 セインとの婚約はまだ破棄されていないというのに、レベッカが男に振られたと気づいている。
 婚約者がいながら他の男に目移りしたことを責めるのではなく、男に振られたくらいで引きこもる己の弱さを叱咤する母には感謝しかない。
 何年経っても、何歳になっても自分は母には勝てないなと、母の懐の深さに感謝しつつ、レベッカは容赦ない叱咤激励を甘んじて受ける。

「まぁ、レベッカの気持ちもわかるしね。あなた、あの青い花を持って来ていた彼に恋してたんでしょ?」

 レベッカは母の言葉にコクンと頷く。

「レベッカの初恋かしらね」

「初恋?」

「初恋だったんでしょ、銀髪の彼が」

「……、よくわからない」

 嘘だ。エリアスが初恋だったとわかる。
 一緒にいるだけで胸が高鳴り、会える日を心待ちにしてしまう。身体が浮いてしまうんじゃないかと錯覚するくらい心が弾む。
 セインには感じたことがない幸福感を恋と呼ぶなら、エリアスがレベッカの初恋だったのだろう。

「ふふふ、何言っているの。銀髪の彼に会う日は、何度も鏡を見て髪をとかして、それで気づかない方がおかしいわよ」

「私、そんなに分かりやすかった?」

「えぇえぇ。分かりやすかったわよ、だからセイン様との結婚をレベッカは望んでいないと気づけたんだけどね」

 眉尻を下げ、優しい笑みを浮かべる母の顔を見上げる。

「ごめんなさいね。ずっとシャロン家のために我慢していたんでしょ?」

「だって王命だもの、断れないってわかっていたし」

「そうね、王命に背くのは難しいわ。場合によっては反逆罪を課せられる可能性だってある。――でもね、レベッカの幸せに代わるものなんてないのよ」

「えっ?」

「たとえ王命だろうと関係ないわ。レベッカが望まない結婚なんて絶対にさせない」

「でも、それじゃシャロン家は王命に叛いたと取り潰される可能性だってあるのよ。シャロン家の悲願、精果草の研究だって」

「それが何だというの? 精果草の研究? あなたの幸せを犠牲にしてまで成すことではないわ。それはお爺さまも望まない」

「でも……、お父さまは」

 ニールズ伯爵家の婚約が決まった時、誰よりも喜んでいた父の顔を思い出し、胸が苦しくなる。

「お父さまは許さないわ。私が結婚したくないって言ったら、きっと失望する」

「ふふふ、レベッカもまだまだね。ジェームスの態度も問題だけど……、あの人は誰よりもレベッカ、あなたの幸せを願っているわ」

「そんなの信じられない」

 レベッカが研究に没頭することを誰よりも疎み、いい顔をしなかったのが父ジェームスだ。
 レベッカと顔を合わせれば、やれ裁縫だ、やれ礼儀作法だと口うるさく言っていたのは母ではなく父だったのだ。

「ふふふ、本心を上手く隠してしまうところは親子よね。じゃあ、私とジェームスの馴れ初めでも話しましょうか」
感想 19

あなたにおすすめの小説

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

【R18】深層のご令嬢は、婚約破棄して愛しのお兄様に花弁を散らされる

奏音 美都
恋愛
バトワール財閥の令嬢であるクリスティーナは血の繋がらない兄、ウィンストンを密かに慕っていた。だが、貴族院議員であり、ノルウェールズ侯爵家の三男であるコンラッドとの婚姻話が持ち上がり、バトワール財閥、ひいては会社の経営に携わる兄のために、お見合いを受ける覚悟をする。 だが、今目の前では兄のウィンストンに迫られていた。 「ノルウェールズ侯爵の御曹司とのお見合いが決まったって聞いたんだが、本当なのか?」」  どう尋ねる兄の真意は……

ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました

大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――

【R18】愛され総受け女王は、20歳の誕生日に夫である美麗な年下国王に甘く淫らにお祝いされる

奏音 美都
恋愛
シャルール公国のプリンセス、アンジェリーナの公務の際に出会い、恋に落ちたソノワール公爵であったルノー。 両親を船の沈没事故で失い、突如女王として戴冠することになった間も、彼女を支え続けた。 それから幾つもの困難を乗り越え、ルノーはアンジェリーナと婚姻を結び、単なる女王の夫、王配ではなく、自らも執政に取り組む国王として戴冠した。 夫婦となって初めて迎えるアンジェリーナの誕生日。ルノーは彼女を喜ばせようと、画策する。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

バッドエンド回避のために結婚相手を探していたら、断罪した本人(お兄様)が求婚してきました

りつ
恋愛
~悪役令嬢のお兄様はヤンデレ溺愛キャラでした~ 自分が乙女ゲームの悪役キャラであることを思い出したイザベル。しかも最期は兄のフェリクスに殺されて終わることを知り、絶対に回避したいと攻略キャラの出る学院へ行かず家に引き籠ったり、神頼みに教会へ足を運んだりする。そこで魂の色が見えるという聖職者のシャルルから性行為すればゲームの人格にならずに済むと言われて、イザベルは結婚相手を探して家を出ることを決意する。妹の婚活を知ったフェリクスは自分より強くて金持ちでかっこいい者でなければ認めないと注文をつけてきて、しまいには自分がイザベルの結婚相手になると言い出した。 ※兄妹に血の繋がりはありません ※ゲームヒロインは名前のみ登場です

男嫌いな王女と、帰ってきた筆頭魔術師様の『執着的指導』 ~魔道具は大人の玩具じゃありません~

花虎
恋愛
魔術大国カリューノスの現国王の末っ子である第一王女エレノアは、その見た目から妖精姫と呼ばれ、可愛がられていた。  だが、10歳の頃男の家庭教師に誘拐されかけたことをきっかけに大人の男嫌いとなってしまう。そんなエレノアの遊び相手として送り込まれた美少女がいた。……けれどその正体は、兄王子の親友だった。  エレノアは彼を気に入り、嫌がるのもかまわずいたずらまがいにちょっかいをかけていた。けれど、いつの間にか彼はエレノアの前から去り、エレノアも誘拐の恐ろしい記憶を封印すると共に少年を忘れていく。  そんなエレノアの前に、可愛がっていた男の子が八年越しに大人になって再び現れた。 「やっと、あなたに復讐できる」 歪んだ復讐心と執着で魔道具を使ってエレノアに快楽責めを仕掛けてくる美形の宮廷魔術師リアン。  彼の真意は一体どこにあるのか……わからないままエレノアは彼に惹かれていく。 過去の出来事で男嫌いとなり引きこもりになってしまった王女(18)×王女に執着するヤンデレ天才宮廷魔術師(21)のラブコメです。 ※ムーンライトノベルにも掲載しております。