2 / 92
第1章 男爵令嬢困惑編
2
しおりを挟む…結局………お嬢様は、ハインツ様との婚礼の儀が終わると、私を置いてシュバイン公爵家へ嫁いで行かれた………
………お嬢様との15年に渡る主従関係が唐突に終わりを迎えてしまった………
お嬢様という生き甲斐を失った私は、公爵家でも仕事に身が入らず、失敗ばかり。見兼ねて執事から、しばらく実家で静養するように言われる始末だ。
………私はいったい何をすればいいのだろう………
実家へ帰って来た私だったが、何をするでもなくボーッと日々を過ごす………訳がなかった。
私の実家は貧乏男爵家だ。もちろんメイドがいる訳もなく、下働きさえいない。
両親と歳の離れた弟の4人家族。
父は、小さな領地の領主をしているが、領地はあまり作物が育たない土地で、山岳地帯に面している為、新しく土地を開墾することも難しい。領民思いの父は、領民から取る税を極力抑えているため、ほとんどお金は入ってこない。
母は、そんな父を助け以前は、ベイカー公爵家子息のリドル様の乳母をしていたが、今は引退して家の切り盛りをしている。
弟は、今年王都の寄宿学校を卒業し、実家を手伝うことになっている。学校では、経営学を学んでいたので、将来は上手に領地経営をしてくれることを期待しているが、まだ学生である。
今、男爵家の家系を支えているのは、私の給金のみ。
こんなところで、ウジウジしていてもお金は入ってこない‼︎
私が、ベイカー公爵家で働かなければ、男爵家は潰れてしまう………
変なスイッチが入った私は、男爵家の台所でジャガイモに包丁を突き刺していた。
………働かざる者、食うべからずだ………
「ミリア、貴方大丈夫なの?ベイカー公爵家から突然帰ってくるなんて………
まさか、追い出されたの⁈」
一緒に台所で、夕飯の準備をしていた母に痛いところをつかれた。
「………別に何でもないわよ。しばらくお休みをもらってなかったから、まとめてお休みをもらっただけよ!」
「あら………そうなの。あまり無理しないのよ。貴方ひとりくらい何とかなるんだからね。」
………母はそれ以上、何も聞かなかったが気づいていたのかもしれない。エリザベスお嬢様とのことを………
「ところでミリア、貴方小さな時に一緒に遊んだルカの事覚えている?」
「………ルカって………まさか………領地に1ヶ月くらい居た劇団の⁈」
「そうよ………最近ね挨拶に来てくれたのよ。なんでも、王都で異国の品物を扱う商会を多数所有しているとのことよ。」
ルカとは、私が5歳の時に会った。あちらの方が私より2、3歳上だったんじゃないかしら………?
近隣諸国を回る劇団の子役だった彼は、大人達に囲まれて、子供らしくない子供だった。私の実家近辺では珍しいサラサラの銀髪に紫色の瞳の美少年。
そんな見た目の彼は、よく舞台で女の子役をやっていた。
それに目をつけた村の悪ガキがルカを虐め始めた。
ルカは、女の子のように可愛らしく女の私より弱かった。
よく虐められていたルカを助けてあげたっけ………
それが、今では商会をいくつも持つやり手実業家ですかぁ~
「貴方に会いたかったそうよ。」
「えっ⁈………そうなの?」
「貴方が、ベイカー公爵家で働いている事教えておいたから近々会いに行くかもね~」
「はっ⁈何勝手に教えてるのよ‼︎」
「だっていいじゃない~とっても素敵な貴公子に成長してたわよ。
独身だって言うし~チャンスは潰さないのよぉ~」
「………」
母のお節介が炸裂した模様………はぁ………
確かに、25歳崖っぷち………どちらかというと片足突っ込んでるし………
商会をいくつも所有していて独身なら、超優良物件、お金も持ってて、美男子………女が放っておかないでしょ!
25歳のオバさんに興味ある訳ないわぁ………
幼少期に助けられたお礼言いに来ただけでしょうね~。
それから数日後、ベイカー公爵家より一通の手紙が届いた。
『至急、ベイカー公爵家へ戻られるよう願いたい。』
私の短い休日は、突如終わりを告げた。
5
あなたにおすすめの小説
狂おしいほど愛しています、なのでよそへと嫁ぐことに致します
ちより
恋愛
侯爵令嬢のカレンは分別のあるレディだ。頭の中では初恋のエル様のことでいっぱいになりながらも、一切そんな素振りは見せない徹底ぶりだ。
愛するエル様、神々しくも真面目で思いやりあふれるエル様、その残り香だけで胸いっぱいですわ。
頭の中は常にエル様一筋のカレンだが、家同士が決めた結婚で、公爵家に嫁ぐことになる。愛のない形だけの結婚と思っているのは自分だけで、実は誰よりも公爵様から愛されていることに気づかない。
公爵様からの溺愛に、不器用な恋心が反応したら大変で……両思いに慣れません。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さくら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
出ていってください!~結婚相手に裏切られた令嬢はなぜか騎士様に溺愛される~
白井
恋愛
イヴェット・オーダム男爵令嬢の幸せな結婚生活が始まる……はずだった。
父の死後、急に態度が変わった結婚相手にイヴェットは振り回されていた。
財産を食いつぶす義母、継いだ仕事を放棄して不貞を続ける夫。
それでも家族の形を維持しようと努力するイヴェットは、ついに殺されかける。
「もう我慢の限界。あなたたちにはこの家から出ていってもらいます」
覚悟を決めたら、なぜか騎士団長様が執着してきたけれど困ります!
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる