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第1章 男爵令嬢困惑編
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しおりを挟む「………あの………もう一度仰っていただけますか………?」
実家で手紙を受け取った私は、急ぎベイカー公爵家へ戻って来た。
自室にて、荷解きも早々に執事のアーサーに呼び出されたのだが………
「明日から、リドル様付きの侍女とする。と言ったのだが………?」
「………はっ?」
私はアーサーの前で不覚にも間抜け面をさらしてしまった。
「………リドル様付きの侍女と申しますと………
いったい何をすれば良いのか………??」
お嬢様ならいざ知らず、リドル様は25歳の立派な成人男性だ。特に着替えさせるのに複雑なドレスを着るでもなく、お肌や髪の手入れはご自身でされると思うし………。
………話し相手かしら………ないわね。
リドル様は、王太子様付きの側近として、王城で多忙な日々を過ごされることが多いし、ほとんど家にいない。
家にいても、自室にいることが多く、お食事もひとりでとられるわね………
………私、必要かしら………?
「ミリアも知っていると思うが、リドル様は王太子様付きの側近をしていらっしゃる。」
「はい。存じております。」
「この度、エリザベス様がシュバイン公爵家へ嫁いだ事で、ベイカー公爵家として、王太子様により近い位置に立つ事となった。そのため、リドル様が扱う案件の機密性と重要度が増し、さらに執務量が増えている。」
「その結果、ベイカー公爵家へ仕事を持ち帰り執務を行なっているのだが………
放っておくと、食事もとらず、朝まで執務をしている有り様なのだよ。」
「そこで、エリザベス様を育てあげ、重要案件散らばるリドル様自室においても絶対に機密を守れるだけの口の堅さが保証出来る侍女………ミリアに白羽の矢が立ったと言う訳だ。」
「………はぁ………では何をすれば?」
「そうだなぁ………基本的にはベイカー公爵家にリドル様がいらっしゃる時は、側に控え指示に従えばよいが………
まぁ、朝起こしたり、着替えの準備、食事、お茶の準備………まぁ、一般的な侍女とやる事は変わらないなぁ………」
「あとは、リドル様に希望を聞くように」
「………承知致しました。」
私は釈然としないまま、アーサーの執務室を後にした。
その夜………
私は、リドル様の自室に呼び出され数十年ぶりにかつての乳兄妹、現在の主人に対峙していた。
リドル様とは、母が乳母をしていた為、物心ついた頃から一緒にいた。
亡くなった公爵夫人が、エリザベス様を出産されたあとエリザベス様と共に自室に籠られてしまってからは、5歳になるリドル様の母親代わりは、乳母である母がやっていた。
何かある度に母に甘えに来るリドル様とよく喧嘩になったものだ。
元々、勝気な性格だった私は、公爵家のお坊ちゃんだろうと容赦しなかった。
いつも母の取り合いで掴み合いの喧嘩をしていた覚えがある。
………確かあの時も………
いつだったか、私には喧嘩を仕掛けてくるリドル様が、公爵夫人の部屋の扉に背を向け膝を抱えて泣いていたことがあった………
私には、意地悪な態度を取るリドル様が泣いているものだから、心配になり駆け寄りどうしたのか聞いたが何も答えようとしない。
らちがあかない私は、リドル様の顔を上げさせ引っ叩き、理由を問いただしたが、答えようとしない。
ただ………母上に会いたいとだけ………
扉の前で自分の子供が泣いているのに見向きもしない公爵夫人に怒りが爆発した私は、部屋の扉を蹴破り室内に乱入したのだ。
今考えると大それたことをしてしまったと思う。あの後の母の真っ青な顔は今でも忘れられない………
リドル様を引きずり、部屋に乱入した私はお膝にエリザベス様を乗せて絵本を読んでいた公爵夫人に………
『自分の子供が部屋の外で泣いているのに何もしない母親なんて最低だ』と怒鳴りリドル様を置き去りに出て来てしまった。
置き去りにしたリドル様と公爵夫人との間に何があったかは知らないが、その後リドル様が母の元に来る頻度が減り、公爵夫人の部屋から3人の笑い声が聞こえる日が増えていったから、あの行動は正しかったのだろう。
あれから、公爵夫人が亡くなり、エリザベス様の感情が無くなり、リドル様と共に手を尽くした日々も、ある事件をきっかけにお嬢様の感情が徐々に戻り始め終わりを告げた。
あれから15年………
私はエリザベス様の専属侍女へ………
リドル様は、王太子様の側近へ………
同じ家に居ながら、ほとんど顔を合わせなかったが………
『トントン』
「失礼致します。明日より、リドル様付き侍女となりますミリアでございます。」
「あぁ。アーサーから聞いている。明日から頼む。」
「………リドル様…失礼ながら明日から私は何をすればよろしいでしょうか?」
「そうだねぇ………最近、執務を家に持ち込むことも多くてね。就寝時間が遅くなって起きれないことが多いんだ。
毎日、王城に行く時間に遅刻しないように早めに起こして欲しい。それ以外の仕事は追々伝えて行くよ。」
「かしこまりました………
では、失礼致します………」
………本当に私でないとダメな仕事なのかしら………
釈然としない気持ちのまま、リドル様付き侍女となって初めての朝を迎えていた。
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