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第5章 忘れられない想い【ミリア&リドル編】
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しおりを挟む~リドル視点~
ルティア王女と劇場で会ってから、俺は自身の諜報員を使いルカ・リックベンに関して調べていた。
リックベン商会は、確かに大商会では有るが、昔から王都に根付く商会ではなかった。どちらかというと新商会の位置づけで、しかも台頭してきたのが例の第二王子廃太子事件以降だ。
裏社会を牛耳っていた組織が、その事件をきっかけに解体され、街の裏界隈を整備することで、のし上がった商会だ。
商会自体は、他国からの珍しい品物を扱っているようだが………
ルカ・リックベンも街では知らない人はいない有名人だが、その実詳しい事は誰も知らない。
商会に勤めている者でさえ………
出身地はどこで、兄弟姉妹はいるのか、両親は健在なのか………
どんな生い立ちなのか………
リックベン商会を立ち上げる前は何をしていて、どこにいたのか………
全く不明だった………
唯一わかったのが、ミリアの使用人仲間が話していたルカとミリアは幼少期に知り合いだったという事と、他国を転々とする劇団の一員だったらしいという事だけだった。
しかし、この情報とルティア王女から聞いたルカ王太子の生い立ちを照らし合わせると同一人物である可能性は出てくる………
まぁ…ルカ王太子に会って見ればわかることなのだが………
そう言えば…リザンヌ王国王太子として国民に披露目をされた関係で、今度我が国の陛下に挨拶に来るのではなかったか………?
ルカ王太子が王城入りすれば、晩餐会も開かれるだろう。
ルティア王女が言うには、グルテンブルク王国入りしてからの行動をリザンヌ王国の者が監視しているらしい………
そのため、あちら側を欺くためにも俺とルティア王女の仲が進んでいると見せる必要があるとの事だ。
なら、ルカ王太子が王城入りした時の晩餐会はルティア王女をエスコートするのは俺になるだろう。
………そうなれば疑問は解決する………
もし………ルカ王太子とルカ・リックベンが同一人物であるならば、私欲のために俺とルティア王女を結婚させようと考えていることになるな。
………ミリアを手に入れるために邪魔な俺を排除するかぁ………
ルティア王女には政略結婚を強い、自身は想い人と結ばれる………
もしそうなら…ルカ王太子はひどい男だ………
そんな男にミリアは絶対に渡せない………
まぁ、別人でもルカ・リックベンにミリアを渡すつもりはない………
それよりもミリアとの関係修復が急務であるが………
「リドル様、先ほどからため息ばかりで全く仕事の手が進んでおりませんよ。
そろそろ休憩された方がよろしいかと。」
ミリアが私の専属侍女を辞めてから、数ヶ月が経つ………
ベイカー公爵家の侍女として働いてはいるが、ほとんど顔を合わせることはなかった。
たまに遠くから見かけることはあるが、目が合えば会釈をしてそそくさとその場を立ち去ってしまう。
こんな調子でミリアとの距離が縮まるはずもなく、益々遠い存在になりつつあった。
俺は、アーサーにお茶を入れてもらいソファに座り、意味のない休憩をする………
「なぁ………最近のミリアはどうだ?
元気にしているのだろうか?」
ミリアが辞めて、代わりに俺の世話をするようになったアーサーは、俺のミリアに対する想いに気づいているのだろう…
時々、ミリアの近況をさりげなく教えてくれることがある………
「ミリアは、新人教育係にも慣れ日々充実している様ですよ。リドル様の侍女をしていた時より生き生きしてますね。
元々、世話好きな性格ですので新人教育には向いているんじゃないですかねぇ。」
「………そうか…楽しく仕事出来ているならいいんだ………」
「リドル様は、ミリアとは反対に仕事にも身が入っていませんね………」
「………まぁ…上手く行かないことだらけだよ………」
仕事は別に問題ない………
大問題なのは、ミリアとの関係だけだ…
どうにかしなければと思えば思うほど、八方塞がりの現状に悲しくなる…
俺はミリアとの関係に頭を抱えながら、ふと窓際を見遣る………
「なぁ…アーサー………
俺の部屋に花なんて飾っていたか?」
「………ふふ…リドル様、今頃気づいたのですか?観察力が足りませんよ。」
アーサーに笑われながら指摘される。
幼少期から俺の教育係をしていたアーサーには未だに敵わない………
「………はぁ………以後気をつけるよ………
それよりも、あの花………誰が飾ったんだ?」
「………では、いい事を教えてあげましょう。
明日の早朝………この部屋を覗けば誰が花を毎日飾っているか分かりますよ。」
「………毎日、飾っているのか?」
「左様でございます………
余程この部屋に想い入れがあるのでしょうねぇ~」
………翌朝………
俺はまだ薄暗いうちから起き出し、寝室の隣から物音がしないか聞き耳をたてていた。
徐々に外が明るくなった頃、かすかに扉を叩く音が聞こえ、誰かが室内に入って来た。
俺は、隣の部屋に続く扉をわずかに開け覗き見る。
「………っ‼︎」
あの後ろ姿は………ミリアなのか………?
散々と陽の光が降り注ぐ室内で、青い花が生けられた花瓶をテーブルに置き手直しをしている。
久々に見たミリアに俺の心が切なく軋む………
この扉を開けて抱きしめに行きたい………
そんなことをすれば、この光景はもう見れなくなってしまう………
俺は、ミリアがそっと退室するまで続き扉から離れることが出来なかった。
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