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第5章 忘れられない想い【ミリア&リドル編】
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しおりを挟む「ミリアもよく毎日飽きずに続くよなぁ~
毎朝の花の水やり手伝ってくれんのは嬉しいけどさぁ~」
早朝からひとり花が咲きほこる庭の水やりをしていた私に、庭師のトムが眠たい目をこすりながら近づいてくる。
「いいのよ~私のワガママで毎朝花を分けてもらってるんだし、朝の太陽に照らされて輝く庭も癒されるしね。」
「まぁ………ミリアが大変じゃなきゃ別にいいんだよ。
あんま無理すんなよ………」
トムは、私の肩を軽く叩き離れていく………
庭師のトムは無口だが、昔からよく花をもらいにきていた私とは気さくに話してくれる使用人仲間だ。
………なんだか皆んなに心配かけたみたいね………
ここ最近、昔馴染みの使用人仲間から声をかけられる事が増えた。
リドル様の専属侍女を辞めてから特にだ………
昔は気づかなかったが、ベイカー公爵家に長く仕えるうちに、沢山の仲間が出来ていたようだ。心配する声を聞く度に、何だか胸が温かくなる………
私は花の水やりを終え、トムから沢山の花をもらうと急ぎ足で自室に向かい花瓶に花を生け、ある部屋へと向かう。
………まだ間に合うかしら………
『トントン』
返事はないわね………
私は静かに部屋に入る………
相変わらず殺風景なお部屋………
私は、窓ぎわに近づくとカーテンを開ける。陽の光が降り注ぐ室内は眩しいくらいだ。
花瓶がひとつ置かれている壁際のテーブルに近づくと素早く準備に取り掛かる。
予め用意しておいた、花が生けられた花瓶と昨日までの花瓶を取り替え、少し手直しを加える。
今日のお花は青を基調としたもので、間に白の小花を入れ込んでいる。
焦げ茶色を基調とした室内には、青がとても映えて綺麗だ。
私は今日の出来に満足し、そっと部屋を退室した。
………何だかかんだ言って、こうしてリドル様に関わっていたいだなんて本当に未練たらたらね………
こんなことじゃ、エリザベス様のこと言えないじゃない。
エリザベス様とあのバカ王子が婚約破棄した時には、エリザベス様の未練たらたらぶりに呆れてたけど………
恋は、人を愚かにしてしまうのね………
私は朝の日課を終えると通常通り仕事を開始した。
新人侍女ふたりの相手をしていると、執事のアーサーが部屋へ入ってくる。
「ミリア、エリザベス様がいらしていてね…お前に会いたいそうだ。
庭の四阿でお待ちだから直ぐに行きなさい。」
「えっ!エリザベス様がいらしゃっていますの?………すぐ参ります。」
私は急ぎ足で庭に向かう………
「エリザベス様!お久しぶりでございます‼︎」
私は庭に出ると真っ直ぐ四阿へ向かい、優雅にお茶を楽しむエリザベス様を見つけた。
「ミリア!本当久しぶりだわ‼︎
シュバイン公爵家へ嫁いで以来かしら~」
「エリザベス様!元気そうで何よりです。シュバイン公爵家では上手くやっておられますか?色々と思い悩んでおられませんか?」
「ミリア大丈夫よ。義両親もとても優しい方達だし、ほとんど領地にいらっしゃるから滅多に王都に出て来られないの。
王都のタウンハウスは、実質ハインツ様とわたくし以外は住んで居ないし気楽なものよ。使用人の方達も慣れないわたくしに色々と世話を焼いてくれて楽しく過ごせているわ。」
「………それは、ようございました。
若奥様として、シュバイン公爵家に受け入れられているようで安心しました。」
エリザベス様には、私は必要なさそうね………
雛鳥が完全に巣立ってしまったみたいで、何だか寂しいが、ひとりの奥様として頑張っているエリザベス様を誇らしくも思う。
「………それよりも最近ミリアはどうなの?ベイカー公爵家にミリアを残した身としては、貴方の幸せが一番心配なの………
そのぉ………ベイカー公爵家では上手くいってる?」
「毎日充実しております。新人侍女ふたりの教育係をしておりまして、世話好きなわたくしには天職ですね。毎日大騒ぎしながら楽しく過ごせています。」
「………はぁ⁈ミリアは、新人侍女の教育係をしているの?………なぜ………
リドルお兄様の専属侍女になったと聞いていたけど………?」
余程驚いたのかエリザベス様は目を丸くして私の顔を見つめる。
「色々ありまして………リドル様の専属侍女は辞めることになったのです。」
「なんですって‼︎………お兄様ったら何をしているのよ‼︎‼︎‼︎」
何故か激昂しているエリザベス様を前に目が点になる………
「………エリザベス様………
テーブルを思いっきり叩けばお茶は零れます………」
「………あっ………ごめんなさい………
ミリア何でもないわ………」
テーブルの上は、見事な紅茶の池が出来ていた………
近くにいたメイドが素早く片付け、お茶を入れ直す。
その後は何事もなかったように話が進み、エリザベス様の近況やハインツ様との軽い惚気話を聞きながらお茶会は進んだ。
「ミリア………気を悪くしないで聞いて欲しいの………
リドルお兄様と何かあったの?」
「………いいえ。何もありません………
ただ、わたくしがリドル様の専属侍女に相応しくないだけです………」
………そう………何もなかったのだ………
昔のような気さくな関係には戻れそうだったが、ただそれだけだ………
私の想いは、ただただ一方通行だった………
リドル様は私にルティア王女の婚約者候補になったことを伝え、ルティア王女を招待するお茶会の準備を侍女である私に指示しただけのこと………
私が勝手にひとりで傷ついて自滅しただけのことだ………
リドル様の専属侍女に選ばれ、舞い上がっていた私は勘違いしてしまった。
リドル様にとって私はただの侍女でしかなかったのに………
………早く忘れるべきね………
エリザベスは、ミリアの哀しみの表情にそれ以上何も言えなかった………
………その頃………
リドルの部屋には、青い花が生けられた花瓶を見つめ佇むリドルの姿があった。
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