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第7章 それぞれの未来【ミリア視点】

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『◯月◯日にリザンヌ王国へ出立する事が決まりました。朝早くに出立する予定です。前日に街にあるリックベン商会へお越しください。迎えの者を待機させておきます。
………ミリアよく考えてください………
グルテンブルク王国では貴方は幸せになれない。私と共に新天地で幸せな人生を送りましょう。
ミリア愛しています………』

私は届けられたルカからの手紙を前にため息をついていた。

………私はいったいどうしたいのかしら………

ルカと一緒にリザンヌ王国へ行った方が新天地で忙しくしているうちにリドル様の事も忘れられる気もする。
今後、この国に残っても25歳で娶ってくれる人が現れる訳もなく、リドル様への気持ちが無くならない限り結婚する気も起きない。エリザベス様はずっとシュバイン公爵家に居ればいいと言ってくださるけど、エリザベス様の側にいればリドル様と会う機会もあるだろう。
………リドル様の事を忘れられそうにないわぁ………

ルカは結婚についてはゆっくり考えればいいと言ってくれた。いつまででも待つと………

ルカに甘えちゃった方が幸せになれるのよ………
いつかリドル様の事を忘れてルカを愛するようになるわ………

………ルカと一緒にリザンヌ王国へ行こう………

◯月◯日………
私の最後の仕事は王城の晩餐会に行くエリザベス様の仕度を整える事になりそうね。

最後にエリザベス様のお世話をして侍女としての役目を終えるなんて私らしいわ………




『トントン』

「ミリア…エリザベス様がお呼びです。」

私室で物想いに耽っていた私を執事が呼びに来る。

「わかりました。直ぐにお伺い致します。」

私は急ぎエリザベス様の私室へ向かう………




「エリザベス様お待たせ致しました。ご用は何でしょうか?」

「呼び出してごめんなさいね………
急な話で申し訳ないんだけど、明日レッシュ公爵家に滞在しているルティア王女殿下が我が家に来る事になったの。
急ぎ明日のお茶の準備をお願いしたいのだけど大丈夫かしら?」

………ルティア王女殿下が来る⁈

「エリザベス様………あまりにも急なお話ではありませんか?
エリザベス様はルティア王女殿下と親しい間柄なのですか?」

「………いいえ。まったく………
話した事もないわ………
王城で行われた夜会で会釈した程度よ。
それがね…今朝急に手紙で明日我が家に来たいと書いてあったのよ………」

なんですのその手紙は………ありえないわ………

貴族社会では他家へのお茶会などお邪魔する時は数週間も前から日程を決め、入念に準備をし当日を迎えるものだ。親しい間柄の者達でも予定を組むのに数日は要する。それを手紙ひとつで明日来たいだなんて、非常識にも程がある。

「もちろんお断りなさいますね?」

「………それが難しいのよ………
仮にもルティア王女殿下は隣国のリザンヌ王国の王族でしょ。そして何より四大公爵家へ嫁ぐと言われている方よ。
ここで断ったら公爵家同士、果てはリザンヌ王国との関係にもヒビを入れかねない………
非常識な申し出とわかっていても受けるしかないのよ………」

エリザベス様が困り顔でため息をつく。

「………それにルティア王女殿下の社交界での噂………それを考えるとね………
シュバイン公爵家の威信をも傷つけかねないわ。」

「どういう事ですか?ルティア王女殿下は社交界でどう噂されているのですか?」

「………話した事もない方の噂話をするのは淑女としてどうかと思うけど………
ルティア王女殿下は、公爵子息を侍らし悦に浸る性悪女と言われているわ。
実際に、ルティア王女殿下の婚約者候補はリドルお兄様とレッシュ公爵家のイアン様でしょ。我が国に滞在して数ヶ月経った今でも自身の婚約者を選ばず、夜会ではお兄様にエスコートさせるくせに、レッシュ公爵家に滞在しているしねぇ。
しかも今回の突然の訪問希望のような事をいくつもの高位貴族家でやっているらしいの。王女という地位をチラつかせて断れない事もわかっててやりたい放題………
急な訪問を断った貴族家には、ルティア王女殿下のささやかな希望をも無視した傲慢な貴族家と言いふらしているようなの。
高位貴族の令嬢やご婦人が困って立ち回る姿を見て楽しんでいるらしいわ。」

ベイカー公爵家でのリドル様とのお茶会ではそんな素ぶり一切無かったが………
男性相手と女性相手では態度が大きく異なるのかしら………

「社交界でのルティア王女殿下の評判は最悪だけど、一国の王女様でしょ………
誰も文句言えないのが現状よ。
今回の訪問希望もリドルお兄様の妹でシュバイン公爵家に嫁いだわたくしを試すため、無理難題を言ってきたんだと思うわ。
………だから何としてでも明日の訪問を乗り切らないといけないの………
ミリア…頼むわよ!」

「わかりました。出来る限りの準備を致します。」

私は明日のお茶会の準備を急ぎ行うため、エリザベス様の私室を後にした。

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