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第7章 それぞれの未来【ミリア視点】
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しおりを挟む………翌日………
私の目の前では、優雅に微笑みながら嫌味の応酬を繰り出すルティア王女殿下と困惑顔のエリザベス様がお茶を飲んでいた。
ルティア王女はシュバイン公爵家のエントランスにてエリザベス様が出迎えた時から攻撃的だった。
まずエントランスで出迎えた使用人の数が少ないと遠回しに言い、王女がわざわざ出向いているのに軽んじられていると泣き真似をしだし、エリザベス様が何とか取りなしたが、庭の四阿に用意されたお茶の席に着いた途端、花が楽しめる場所が良いとワガママを言い出す始末で、手の空いている使用人で急遽お茶の席を移動する事になり、お茶が始まれば自分の好きな銘柄のお茶ではないと騒ぎ、急ぎ数種の紅茶の銘柄を用意させたりとエリザベス様や私を含め給仕をしている侍女を困惑させる要求を繰り返している。
………ルティア王女って…こんなにワガママな方だったの………
エリザベス様も流石に呆れてしまったのか、あからさまなため息をこぼしている。
………ベイカー公爵家でのリドル様とのお茶会では品よく、とても素敵な王女だと思ったけど………
これでは厚顔無恥なワガママ王女ではないか………
ルティア王女のあまりな態度にエリザベス様の我慢の限界を超えたのか、側に控えていた私を呼ぶ。
「ミリア…少しの間だけ席を立ちます………
後の事は任せました………」
エリザベス様が小声で指示され、ルティア王女に席を少し外す旨を伝え四阿から退室されていく。
………私にこのワガママ王女の相手をしろということね………
小さくため息が溢れてしまう………
「そこのメイド………お茶が温くなってしまったわ。入れ直しなさい!」
エリザベス様が退席してからお茶を飲んで待っていたルティア王女だったが、帰って来ないエリザベス様に焦れたのか標的を変えたようだ。
私は直ぐに新しいお茶を入れ直しルティア王女の持つカップを取り替えるため近づいた途端、紅茶を派手に浴びせられた。
「………っ‼︎‼︎」
突然の暴挙にビックリしてルティア王女の顔を思わず見ると、意地悪そうに口を歪め笑うルティア王女と目が合う。
「………あらぁ~ごめんなさいね………
手が滑ってしまったの………」
………手が滑った………?
あからさまに浴びせたくせに何を言っているのだ………
「新しい紅茶を入れ直しましたのでそちらのカップをお下げしてもよろしいでしょうか?」
………私は怒りを抑え給仕をする………
「テーブルの上も下も濡れてしまったわ………
わたくしのドレスが汚れたら大変………
すぐに綺麗にしてくださるかしら………」
「わかりました………」
テーブルの上の飛び散った紅茶の滴を拭き、入れ直した紅茶をルティア王女の前に置くと四阿のタイルの床に滴った紅茶の池を拭き始めた。
「………ひっ‼︎‼︎」
頭上から降ってきた紅茶が私の髪を濡らす………
額を伝い、頬を伝い………ポタポタと顎から滴る雫が床に紅茶の池を作っていく………
頭上を振り仰いだ私はカップを傾け歪んだ笑みを浮かべるルティア王女の言葉に衝撃を受ける事になる。
「わたくしのリドル様を惑わす身の程知らずのメイドは貴方よね?
貧乏男爵令嬢で、未だに独り身のおばさんが夢でも見たの………?
公爵家の子息と釣り合うとでも思ったのかしら………惨めよねぇ~」
私は俯き唇を噛みしめ耐える………
「貴方はさっさと実家へ帰りなさい。わたくしの周りでチョロチョロされると目障りよ。リドル様は好みじゃないけど結婚してあげるわ。リザンヌ王国の命令だしね………
………あっ!良い事を考えついたわぁ~
リドル様は貴方の事を好きなんですって。わたくしと政略結婚するのにね………
失恋したリドル様をわたくしが慰めてあげるの………
わたくしの魅力で骨抜きにしてベイカー公爵家を操るのも楽しそうね。結婚さえしてしまえばリザンヌ王国の力をチラつかせてベイカー公爵家を内から支配するのも簡単よね。
リドル様はお飾り公爵にして、わたくしが実権を握れば、愛するイアンと自由に会う事も可能だわ。
いい考えだと思わない?
………二人の公爵から愛されるわたくし………素敵ね………」
………リドル様をお飾り公爵にする………
………ベイカー公爵家を支配して愛するイアンと過ごすって………
二人の公爵から愛されるですって………
何よそれ……リドル様は貴方の欲を満たす道具ではないわ‼︎
私は怒りで体が震えてくるのを止める事が出来なかった………
「目障りよ!さっさと荷物をまとめて出ていきなさい。貴方のような魅力のない女がベイカー公爵家に関わっているなんて虫唾がはしるわ!」
「ミリア‼︎どうしたの⁈」
慌てて四阿へ駆け込んで来たエリザベス様が心配そうに私の顔を覗き込む。
「ルティア王女殿下…ミリアに何をされましたの?」
………剣呑な雰囲気を醸し出すエリザベス様に慌てて言い募る………
「エリザベス様大丈夫でございます。わたくしが誤って紅茶の入ったカップをひっくり返しただけでございます。
着替えをして参りますので、失礼致します。」
私はエリザベス様に辞去を申し出て、その場を急ぎ後にした。
紅茶で濡れた身体を洗うため、シャワーブースに入った私は、バシャバシャと降りしきるシャワーの雨の中、声を上げて泣いていた。
怒りで震える体を両手で抱きしめ抑えようとするが治らない………
………ルティア王女の言葉が頭をグルグル回り止めどなく涙が溢れてくる………
………未だに独り身のおばさん………
貧乏男爵令嬢の私と公爵家子息のリドル様………
貴方に言われなくても身分違いで釣り合わないのはわかっている。
何度離れよう、忘れようと思ったけど出来なかった………
リドル様から愛を向けられ本当に幸せだった………
………忘れる事なんて出来ないのだ………
あの人だけが私の特別で絶対だった………
………リドル様を欲を満たすだけの道具としか考えていない女に奪われていいの………?
抑えきれない心の声が溢れ出そうとしていた………
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