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第2章

もう一人の白き魔女【グレイス視点】※R15

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『白き魔女の伴侶となる者、この世界のことわりを知る者であり、この世界の守護者である。白き魔女の恩恵を受けし伴侶は世界の覇者となろう』

 エイデン王国の国民誰しもが知る『白き魔女』のお伽噺に出てくる伝承である。

 そして、この伝承を信じる者は、誰もいなかった。今までは――――





「おぉぉぉ、そなたが奇跡を起こした娘か!? 『さきよみの力』とは、あの伝承は本当であったな! 名は、なんと申す?」

「グレイスと申します」

 ピンクブロンドのふわふわの髪に、宝石のように煌めく緑色の瞳を持つ美少女は、目の前に立つ卑しい目をした男から視線を逸らし俯く。

 脂ぎった顔にタプタプのお腹の豚のような男に嫌悪を抱くが仕方ない。この男がグレイスの養父となり、この男からヒロインを解放する為に攻略対象のイケメン達が動くのだから、我慢するしかない。

「そうかそうか、グレイスと申すか。そなたは今日からドンファン伯爵家の娘として生きるのだ。お前の望む物は何でも用意してやろう。宝石でも綺麗なドレスでも」

 ドンファン伯爵がグレイスに近づき、欲望を滲ませた目で検分する。

(気持ち悪い……)

 嫌悪感で背筋が凍る。しかし、平民出の村娘では、この男に逆らうわけにもいかない。

「たしか白き魔女は純潔でなければならないのであったな。惜しいことよのぉ。ピンクブロンドの髪にエメラルド色の瞳、白き魔女でなければ可愛がってやれるものを。まぁ、純潔であればよいのだから……」

「ひっ!!」

 背後からドンファン伯爵に羽交い締めにされ、首筋を舐められたグレイスの口から、か細い悲鳴が上がる。

「まぁ、そう怯えるでない。なにも取って喰おうと思っておるのではない。わしはなぁ。綺麗な人形同士が睦合っておるのを見たいのだよ。お前の好みの男を選べばよい。『白き魔女』が狂う姿はさぞかし美しいであろうなぁ~」

 ドンファン伯爵の合図で入って来た男達に傅かれ、ベッドへと行くよう促される。右を見ても左を見ても、超がつく程のイケメン揃いに、グレイスの口元に自然と笑みが浮かぶ。

「そなたも気にいったようであるな。楽しむがよい」

 伯爵の言葉を合図に麗しい男達がグレイスにむしゃぶりつく。そして、与えられる快楽にグレイスは、己の痴態をドンファン伯爵が余すことなく見つめていることすら忘れ、快楽に浸った。

(はぁぁ……、ドンファン伯爵家に入るのも悪くなかったみたいね)

 グレイスは快楽に流されながら思考を過去へと飛ばした。



――――私の名はグレイス。貧しい農村に生まれ、せせこましい両親と愛想のない兄に囲まれて育った。

 貧しい農村に残るのは、女、子供に年寄りばかり。働き手の男達は町へと出稼ぎに出る。そんな貧しい村は、盗賊の格好の標的となった。しかし、この村が盗賊に襲われる事はない。なぜなら、その村を襲った盗賊団は、一網打尽となるからだ。

 町の憲兵団にもたらされた情報こそ、正確な日時が記された盗賊団の次の標的場所。しかし、その情報を疑いながらも、あの夜、その村へと兵を向かわせた団長は度肝を抜かれることになる。

 情報の通りに現れた盗賊。

 こんな貧しい農村に盗賊団が現れるなんて、まずない。この村には何かあると考えた団長が、情報を探るとある噂に行き着いた。

 この村には『さきよみの力』を持つ娘がいると。





 グレイスは、前世でプレイしていた乙女ゲーム『囚われの白き魔女は蜜夜に溺れる』の序盤のシーンを思い出していた。何回も何回も繰り返しやったゲーム。

(最推しは、白き魔女を必死に護るキース様だったけど、攻略対象全員に愛されるハーレムエンドも良いわよねぇ)

 グレイスは四方から伸ばされる悪戯な手や舌に翻弄されながら、そんなことを考えていた。

 まさか大好きな乙女ゲームの世界のヒロインに転生するとは思わなかった。

 グレイスが前世の記憶を思い出したのは、村が盗賊に襲われる数年前、直ぐに大好きだったあのゲームの世界だと気づき、行動を開始した。

 ゲームの記憶を頼りに村で起こる事件や災害をあたかも予知したかの様に振る舞えばあっという間にゲームのシナリオ通り『白き魔女』が復活したと村中に広まった。

 そして予定通り盗賊団に村が襲われると憲兵団にリークし、本当に盗賊団が捕まれば町にもあっと言う間にグレイスの噂は広まる事となる。

 そして、今日めでたくドンファン伯爵家に連れて来られ養女となった訳だ。

 全てシナリオ通り。

 ドンファン伯爵の性癖が予想外だったが、これは嬉しい誤算だ。

(ふふふ、後は、十八歳で迎える社交界デビューで攻略対象者達と出会いイベントをこなして行けば私の人生は最高のモノになる)

 大好きな乙女ゲームの世界に転生出来るなんて幸せだわぁ~

 社交界デビューまであと一年。

 このイケメン揃いのハーレムを堪能しつつ、ドンファン伯爵を手玉に取るのも楽しそうだ。

 グレイスは前世の記憶を思い出し、ほくそ笑む。

(前世も私を取り合い争う男達を翻弄するのが、楽しかったわ。まぁ、今世の様にイケメン揃いとはいかなかったけれど)

 攻略対象者達が私に溺れ、争うの……

 そんな未来を想像し悦に浸るグレイスは、与えられる激しい快楽に身を任せ、絶頂を迎えた。


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