5 / 49
悪戯心
しおりを挟む
「お姉さん!飲み過ぎですよ」
背中に感じるフワフワの感触と見上げた先の天井が右に左にユラユラと揺れる様は、まるで雲の上を揺蕩っているような気分にさせる。
気持ち良いなぁ………
「お姉さん!分かってますか?
貴方、今日会ったばかりの男の部屋に転がり込んでいるのですよ。意味理解してますか?」
酔いが回り酩酊した脳は、此処がどこかも分からず、しかも名前も知らない男と一緒にいるという危機的状況でさえ、些末な事だと判断したようだ。
「………気にしない。気にしない………
身の上話を話し合った仲じゃない。堅いこと言わないのぉ」
ーーーあぁぁ、気持ちいい。
このままフカフカのベッドで寝られたらなんて幸せなんだろう。
名も知らぬ彼との会話は存外に楽しかった。まだ就活中の大学生だと言う彼は、スレた所がなく誠実な男性との印象を受けた。
振られてしまった彼女さんと泊まるはずだったホテルに一人で泊まり、部屋でヤケ酒を始めたものの寂しくなり街へ飛び出したが、右を見ても左を見ても、恋人だらけの街中に嫌気がさしバイト先のBARのマスターと飲み明かすつもりだったらしい。それが、私とぶつかった為に、とんだ荷物をお持ち帰りする羽目になった訳だが………
あまりに境遇が似過ぎていて、こんなに意気投合するとは思わなかった。
元彼女さんは、初めてお付き合いした女性らしく、だからこそ思い入れが強いとボヤいていた。
きっととても真面目な青年なんだ。
元彼とは違い………
目の前の彼のような男性とお付き合いしたら幸せになれるのかな?
まぁ、こんなおばさんでは、そもそも恋愛対象にもならないか。
「この酔っ払いがぁ。
あぁぁ、今さら放っぽり出したりしませんよ。そのベッドはお譲りします。俺は、カプセルホテルにでも泊りますから!」
「えぇぇぇぇ。それはダメでしょ!
私が出て行くからぁぁぁ」
部屋を出て行こうとする彼を引き留めるべく慌ててベッドから起き上がり、立ち上がろうとして力が抜けてしまう。床へペタンと座り込んでしまった私を見て、彼が戻って来る。
「ほらっ………立てないじゃん。
無理するなよ」
呆れたような目をして視線を合わせてくる彼の大きな手が頭に置かれ、髪を撫でられると子供扱いされている様で釈然としない。
「ちゃんと立てるわよ。ただちょっとフラフラするだけだってば」
手を床につけ力を入れようとするが、力が入らずバランスを崩し倒れそうになる。
「ほらっ!言わんこっちゃない
大人しくベッドで寝なさいって」
物分かりの悪い小さな子供に言い聞かせるように諭され、更に胸のモヤモヤが増していく。
ーーー年下のしかも大学生に子供扱いされるって………
きっと馬鹿にされているに違いない。お酒にダラシない女だって思われている。モクモクと立ち昇る反発精神が、どうにかして彼を屈服させてやりたいと訴える。
ーーー見てなさい‼︎ギャフンと言わせてやるんだから!
唐突に彼が言っていたある言葉が頭に浮かぶ。
『童貞だからって振られたんだ。年上の経験豊富な男が良いんだってさ』
彼女に振られた理由をボソッと呟いていたじゃないか。手も出してくれない男なんて嫌だと。
彼女は分かっていたのだろうか?経験豊富な男なんて、遊んでいるのと同じだという事を。
女の扱いが上手く、話上手。確かにそんな男と付き合った方が楽しいに決まっている。お姫様のようにエスコートされ、良い気分にさせるのもお手のモノ。しかし本気になったが最後、ズタズタに傷つけられて捨てられるのは本気になった女の方だ。
気まぐれに囁かれる『愛している』の言葉に縋り、嘘に塗り固められた彼を盲目的に信じてしまう。結果、惨めに捨てられる。
私のように………
目の前の彼は、元彼とは違うのだろう。
酔っ払いの女に自分の部屋を与え、自らは出て行こうとしている。
優しくて誠実な人。極度のお人好しかもしれない。
元彼がそんな人だったらどんなに良かったか。
ーーー彼は自身が童貞だと言う事を恥だと考えているのだろうか?
それが理由で彼女に振られたと言うなら、きっとさっさと捨ててしまいたいと考えていてもおかしくない。世の中には、童貞を捨てるためにプロの店に行く男もいるらしい。
『一夜のアバンチュール』
チンケな小説の一節が脳裏に浮かぶ。
優しい彼の事だ。私が誘えば断りはしない。きっとしない………
後で恨まれる事になっても、一人残されるのだけは嫌だ。
もう一人でいたくない………
「ーーーっちょっと‼︎待って………」
有りっ丈の力を込めて目の前の彼を押し倒し馬乗りになると、笑ってやる。
「………ふふふ………
あまり大人を揶揄うものじゃないわよ。坊や」
目を見開きこちらを見つめる彼の目を見て言ってやる。
「貴方の初めて私にちょうだい………」
背中に感じるフワフワの感触と見上げた先の天井が右に左にユラユラと揺れる様は、まるで雲の上を揺蕩っているような気分にさせる。
気持ち良いなぁ………
「お姉さん!分かってますか?
貴方、今日会ったばかりの男の部屋に転がり込んでいるのですよ。意味理解してますか?」
酔いが回り酩酊した脳は、此処がどこかも分からず、しかも名前も知らない男と一緒にいるという危機的状況でさえ、些末な事だと判断したようだ。
「………気にしない。気にしない………
身の上話を話し合った仲じゃない。堅いこと言わないのぉ」
ーーーあぁぁ、気持ちいい。
このままフカフカのベッドで寝られたらなんて幸せなんだろう。
名も知らぬ彼との会話は存外に楽しかった。まだ就活中の大学生だと言う彼は、スレた所がなく誠実な男性との印象を受けた。
振られてしまった彼女さんと泊まるはずだったホテルに一人で泊まり、部屋でヤケ酒を始めたものの寂しくなり街へ飛び出したが、右を見ても左を見ても、恋人だらけの街中に嫌気がさしバイト先のBARのマスターと飲み明かすつもりだったらしい。それが、私とぶつかった為に、とんだ荷物をお持ち帰りする羽目になった訳だが………
あまりに境遇が似過ぎていて、こんなに意気投合するとは思わなかった。
元彼女さんは、初めてお付き合いした女性らしく、だからこそ思い入れが強いとボヤいていた。
きっととても真面目な青年なんだ。
元彼とは違い………
目の前の彼のような男性とお付き合いしたら幸せになれるのかな?
まぁ、こんなおばさんでは、そもそも恋愛対象にもならないか。
「この酔っ払いがぁ。
あぁぁ、今さら放っぽり出したりしませんよ。そのベッドはお譲りします。俺は、カプセルホテルにでも泊りますから!」
「えぇぇぇぇ。それはダメでしょ!
私が出て行くからぁぁぁ」
部屋を出て行こうとする彼を引き留めるべく慌ててベッドから起き上がり、立ち上がろうとして力が抜けてしまう。床へペタンと座り込んでしまった私を見て、彼が戻って来る。
「ほらっ………立てないじゃん。
無理するなよ」
呆れたような目をして視線を合わせてくる彼の大きな手が頭に置かれ、髪を撫でられると子供扱いされている様で釈然としない。
「ちゃんと立てるわよ。ただちょっとフラフラするだけだってば」
手を床につけ力を入れようとするが、力が入らずバランスを崩し倒れそうになる。
「ほらっ!言わんこっちゃない
大人しくベッドで寝なさいって」
物分かりの悪い小さな子供に言い聞かせるように諭され、更に胸のモヤモヤが増していく。
ーーー年下のしかも大学生に子供扱いされるって………
きっと馬鹿にされているに違いない。お酒にダラシない女だって思われている。モクモクと立ち昇る反発精神が、どうにかして彼を屈服させてやりたいと訴える。
ーーー見てなさい‼︎ギャフンと言わせてやるんだから!
唐突に彼が言っていたある言葉が頭に浮かぶ。
『童貞だからって振られたんだ。年上の経験豊富な男が良いんだってさ』
彼女に振られた理由をボソッと呟いていたじゃないか。手も出してくれない男なんて嫌だと。
彼女は分かっていたのだろうか?経験豊富な男なんて、遊んでいるのと同じだという事を。
女の扱いが上手く、話上手。確かにそんな男と付き合った方が楽しいに決まっている。お姫様のようにエスコートされ、良い気分にさせるのもお手のモノ。しかし本気になったが最後、ズタズタに傷つけられて捨てられるのは本気になった女の方だ。
気まぐれに囁かれる『愛している』の言葉に縋り、嘘に塗り固められた彼を盲目的に信じてしまう。結果、惨めに捨てられる。
私のように………
目の前の彼は、元彼とは違うのだろう。
酔っ払いの女に自分の部屋を与え、自らは出て行こうとしている。
優しくて誠実な人。極度のお人好しかもしれない。
元彼がそんな人だったらどんなに良かったか。
ーーー彼は自身が童貞だと言う事を恥だと考えているのだろうか?
それが理由で彼女に振られたと言うなら、きっとさっさと捨ててしまいたいと考えていてもおかしくない。世の中には、童貞を捨てるためにプロの店に行く男もいるらしい。
『一夜のアバンチュール』
チンケな小説の一節が脳裏に浮かぶ。
優しい彼の事だ。私が誘えば断りはしない。きっとしない………
後で恨まれる事になっても、一人残されるのだけは嫌だ。
もう一人でいたくない………
「ーーーっちょっと‼︎待って………」
有りっ丈の力を込めて目の前の彼を押し倒し馬乗りになると、笑ってやる。
「………ふふふ………
あまり大人を揶揄うものじゃないわよ。坊や」
目を見開きこちらを見つめる彼の目を見て言ってやる。
「貴方の初めて私にちょうだい………」
0
あなたにおすすめの小説
ワケあり上司とヒミツの共有
咲良緋芽
恋愛
部署も違う、顔見知りでもない。
でも、社内で有名な津田部長。
ハンサム&クールな出で立ちが、
女子社員のハートを鷲掴みにしている。
接点なんて、何もない。
社内の廊下で、2、3度すれ違った位。
だから、
私が津田部長のヒミツを知ったのは、
偶然。
社内の誰も気が付いていないヒミツを
私は知ってしまった。
「どどど、どうしよう……!!」
私、美園江奈は、このヒミツを守れるの…?
【完結】育てた後輩を送り出したらハイスペになって戻ってきました
藤浪保
恋愛
大手IT会社に勤める早苗は会社の歓迎会でかつての後輩の桜木と再会した。酔っ払った桜木を家に送った早苗は押し倒され、キスに翻弄されてそのまま関係を持ってしまう。
次の朝目覚めた早苗は前夜の記憶をなくし、関係を持った事しか覚えていなかった。
【完結】僕ら二度目のはじめまして ~オフィスで再会した、心に残ったままの初恋~
葉影
恋愛
高校の頃、誰よりも大切だった人。
「さ、最近はあんまり好きじゃないから…!」――あの言葉が、最後になった。
小島久遠は、新たな職場で、元カレとまさかの再会を果たす。
若くしてプロジェクトチームを任される彼は、
かつて自分だけに愛を囁いてくれていたことが信じられないほど、
遠く、眩しい存在になっていた。
優しかったあの声は、もう久遠の名前を呼んでくれない。
もう一度“はじめまして”からやり直せたら――そんなこと、願ってはいけないのに。
それでも——
8年越しのすれ違いは、再会から静かに動き出す。
これは、終わった恋を「もう一度はじめる」までの物語。
そういう目で見ています
如月 そら
恋愛
プロ派遣社員の月蔵詩乃。
今の派遣先である会社社長は
詩乃の『ツボ』なのです。
つい、目がいってしまう。
なぜって……❤️
(11/1にお話を追記しました💖)
溺婚
明日葉
恋愛
香月絢佳、37歳、独身。晩婚化が進んでいるとはいえ、さすがにもう、無理かなぁ、と残念には思うが焦る気にもならず。まあ、恋愛体質じゃないし、と。
以前階段落ちから助けてくれたイケメンに、馴染みの店で再会するものの、この状況では向こうの印象がよろしいはずもないしと期待もしなかったのだが。
イケメン、天羽疾矢はどうやら絢佳に惹かれてしまったようで。
「歳も歳だし、とりあえず試してみたら?こわいの?」と、挑発されればつい、売り言葉に買い言葉。
何がどうしてこうなった?
平凡に生きたい、でもま、老後に1人は嫌だなぁ、くらいに構えた恋愛偏差値最底辺の絢佳と、こう見えて仕事人間のイケメン疾矢。振り回しているのは果たしてどっちで、振り回されてるのは、果たしてどっち?
腹黒上司が実は激甘だった件について。
あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。
彼はヤバいです。
サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。
まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。
本当に厳しいんだから。
ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。
マジで?
意味不明なんだけど。
めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。
素直に甘えたいとさえ思った。
だけど、私はその想いに応えられないよ。
どうしたらいいかわからない…。
**********
この作品は、他のサイトにも掲載しています。
契約結婚のはずなのに、冷徹なはずのエリート上司が甘く迫ってくるんですが!? ~結婚願望ゼロの私が、なぜか愛されすぎて逃げられません~
猪木洋平@【コミカライズ連載中】
恋愛
「俺と結婚しろ」
突然のプロポーズ――いや、契約結婚の提案だった。
冷静沈着で完璧主義、社内でも一目置かれるエリート課長・九条玲司。そんな彼と私は、ただの上司と部下。恋愛感情なんて一切ない……はずだった。
仕事一筋で恋愛に興味なし。過去の傷から、結婚なんて煩わしいものだと決めつけていた私。なのに、九条課長が提示した「条件」に耳を傾けるうちに、その提案が単なる取引とは思えなくなっていく。
「お前を、誰にも渡すつもりはない」
冷たい声で言われたその言葉が、胸をざわつかせる。
これは合理的な選択? それとも、避けられない運命の始まり?
割り切ったはずの契約は、次第に二人の境界線を曖昧にし、心を絡め取っていく――。
不器用なエリート上司と、恋を信じられない女。
これは、"ありえないはずの結婚"から始まる、予測不能なラブストーリー。
卒業まであと七日。静かな図書室で,触れてはいけない彼の秘密を知ってしまった。
雨宮 あい
恋愛
卒業まであと七日。図書委員の「私」は、廃棄予定の古い資料の中から一冊の薄いノートを見つける。
「勝手に見つけたのは、君の方だろ?」
琥珀色の図書室で、優等生な彼の仮面が剥がれ落ちる。放課後の密室、手のひらに刻まれた秘密の座標、そして制服のプリーツをなぞる熱い指先。日曜日、必死にアイロンを押し当てても消えなかったスカートの皺は、彼に暴かれ、繋がれてしまった心と肉体の綻びそのものだった。
白日の下の教室で牙を隠す彼と、誰にも言えない汚れを身に纏う私。卒業証書を受け取る瞬間さえ、腰元に潜む「昨日の熱」が私を突き動かす。
清潔な制服の下で深まっていく、二人にしか分からない背徳の刻印。カウントダウンの果てに待つのは、残酷な別れか、それとも一生解けない甘い呪縛か――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる