【R18】どうぞ運命の番さまとお幸せに〜二度目の人生はしたたかに

湊未来

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第二章

闇色のサークレット

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 やはりというべきか、想像通りというべきか。
 王太子に連れて来られたのは教会の出口ではなく、王族専用の貴賓室だった。

 贅を尽くしたビロード張りのソファ。目の前には三段のデザートプレートが置かれ、金縁の装飾がなされたカップからは紅茶の華やかな香りが立ち昇っている。
 この部屋だけを見れば、ここが清貧を美徳とする教会内部だとは思わないだろう。

 ――王族まで取り込まれているようだし、さぞかし教会上層は贅沢三昧なんでしょうね。

「シンシア嬢、不服そうだね。出口へ向かうと言って、貴賓室に連れて来たから怒っているのかな? ダレンは今、陛下と謁見中だ。話が終わるまで、ここにいた方が彼も安心かと思ってね。迷惑だったかな?」

 王太子の言葉にカップを持つ手が止まる。
 
 ――ダレンが、安心……?

 それではまるで、王太子が"私を守ろうとしている"かのようではないか。

 優雅にお茶を楽しむ王太子の表情から、真意は読み取れない。
 だが、これまでのやり取りを思い返すと、ダレンと王太子が親しい関係のようにも感じられる。

 ダレンがあらかじめ、私を保護するように王太子に言っていたのだろうか。
 そんな話は聞いていない。でも……
 番迎えの儀式ですら伏せていたダレンなら、あり得るわね。

 シンシアは一か八かの賭けに出た。

「王太子殿下、滅相もございません。このまま教会内で迷っていましたら、どうなっていたことか……。エリセア教会には良い思い出がありませんもので」
「あぁ、その件はダレンから聞いているよ。誘拐されそうになったのだとか。私に保護を求めるとは、よっぽど君のことが心配だったんだね」

 その言葉に、確信を得る。

 ――殿下は、すべてを知っている。

 オメガを発現したシンシアがエリセア教会の放った刺客に攫われそうになったこと。
 そして、番迎えの儀式に参加したシンシアを今まさに、教会側が狙っていることも。

 すべて承知の上で、王太子はダレンの味方についている。

 エリセア教会といえども、王太子の保護下にある令嬢に手を出すのは容易ではない。
 ダレンは、自分ひとりでは守りきれない事態まで想定して、最も強力な人物に助力を求めていたのだ。
 
 ――何が起ころうとも、絶対守る。

 あの言葉は、決して嘘ではなかった。

 胸の奥に、熱い想いが込み上げる。
 王太子が、味方であることは間違いない。エリセア教会に不審を抱く王太子が目の前にいる。
 これは、またとない好機。共闘を願い出るなら、今しかない。

「王太子殿下、お願いがございます。どうかわたくしに……いいえ、わたくしたちに、お力を貸してはくださいませんでしょうか?」
「協力? それはまた……王族へ協力を求めることが、どういうことかわかっているのかい?」
「はい、わかっております。内容によっては処罰されることも」
「わかっていながら、協力を願い出ると?」
「――はい。わたくしはオメガとして発現し、今のままでは自由に生きることは出来ません。それはひとえに、教会のオメガ管理が原因の一端ではないでしょうか。わたくしは、オメガ管理を隠れ蓑に行われているエリセア教会のオメガ搾取を暴きたいのです」
「ほぉ、オメガ搾取とは……それが、事実なら大罪だね。――だが、王家がオメガ管理をエリセア教会に一任している現状では、王家の責任を問われかねないね」
「はい、今のままでは……」
「――今のままでは?」

 王太子の目つきが変わる。
 柔和な笑みが消え、為政者としての顔が覗く。それを前に、シンシアの笑みも深まった。

「単に、エリセア教会のオメガ搾取だけを問えば、教会に管理を任せている王家も責任を問われかねません。しかし、王家がエリセア教会に"操られていた"とすれば、話は別です。同情の余地は残されるのではないでしょうか。そして、教会に囚われているオメガを解放すれば、国民の支持は得られるかと」
「くく……実に、大胆な発想だ。確かに、エリセア教会の台頭に不満を持つ貴族や宗教勢力は存在する。その力を借りれば、不可能ではない。だが――エリセア教会が、王家を操っていた証拠が必要だ。捏造でもするつもりかい?」

 そう、王家を操っている証拠。
 それを提示することこそ、最大の壁だ。だからこそ、王太子の協力が必要になる。

 聖女の額を飾っていたサークレット。
 三つの宝石を嵌め込んだ、あの宝冠。――それが、鍵になる。

 回帰前、あのサークレットを破壊したことで、シンシアは処刑された。
 そして、ダレンの言葉が真実なら、――あのサークレットには、人の心を操る力がある。

「王太子殿下は、エリセア教会の台頭に疑問を抱かれたことはありませんか? オメガを利用し貴族社会を掌握するにしても、あまりにも急すぎる。しかも、王家に匹敵する力を手に入れている。本来であれば、それは容易なことではないはずです。人心掌握の"何らかの手段"があると考える方が自然です。――例えば、人を操る魔道具のような」
「だが、魔術師とエリセア教会は犬猿の仲だ。昔からの因縁があるからね。そんな敵に魔術師が人の心を操る魔道具を渡すだろうか? それこそダレンが黙っていない」
「そう、そこです。昔からの因縁が絡んでいる。魔術師はかつて、エリセア教会に搾取されていた歴史を持っています。その時代に開発された魔道具の中に、人の心を操る魔道具が存在したとしたら」
「――まさか、シンシア嬢。君は、その魔道具に心当たりがあるのか?」

 あのサークレットが、魔道具かどうかはわからない。
 だが、王太子の心を動かす"きっかけ"になるのなら、それで十分だ。

「はい。サークレット――聖女リディアさまが身につけていらっしゃる、神エリシエルから授かったとされる宝冠です」

 その瞬間、王太子の瞳が大きく見開かれた。
 驚きに身を沈め、うつむく。
 重苦しい沈黙が場を支配し、己の呼吸の音だけが、やけに大きく耳に響いた。

「くくく……聖女リディアのサークレット、か。まさか、気づかれているとはね」

 向けられた視線に、背筋が凍りつく。

 暗く淀んだ瞳――その目を、シンシアは知っていた。

 そう、回帰前。
 聖女リディアのそばに佇み、死にゆくシンシアを見下ろしていた。
 あの王太子レオニス・セレスティアの目と同じだったのだ。

 
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