27 / 47
第二章
金色に輝く涙石
しおりを挟む
「お前たち、早くその女を捕まえなさい!!」
リディアの怒声が響くが、跪いた聖騎士は動かない。
それだけではない。
抑制の腕輪が壊れシンシアのオメガフェロモンが部屋に満ちているというのに、聖騎士が獣に堕ちる気配すらない。
いったい、何が起こったの……
見ている光景が信じられず、瞬きを繰り返す。しかし、呻くようにあがったダレンの声に我に返った。
痛む身体を起こし、ダレンの元へ駆け寄る。荒い呼吸を繰り返し、吹き出した汗が額を流れる。彼の瞳から完全に濁りが消えたわけではないのだ。
一刻も早く、脱出しなければ。
その一心で、ダレンに肩を貸し、立ち上がる。だが、一歩も踏み出さぬうちに、ダレンが悲鳴をあげ、膝をついた。
サークレットから放たれたオメガフェロモンが、二人の身体に絡みつく。
まるで蛇に巻きつかれているかのような重苦しい香り。
――足が重い。
三種の禍々しいフェロモンに、シンシアのオメガフェロモンが、かき消されていく。
「逃がさないわ。絶対にお前達だけは、逃がさない!!」
跪いていた聖騎士がゆらゆらと立ち上がり、形勢は逆転してしまった。
このままでは、リディアに操られた聖騎士に捕まるのは時間の問題だ。
それだけではない。
自我を取り戻しつつあるダレンまでも、リディアの手に堕ちてしまう。
ダレンは私の声に応えてくれた。
それなのに――
また、あの女に奪われてしまうの。
回帰前はダレンをあきらめた。
運命の番なんだから、仕方がない。
皆から愛される聖女に心を奪われるのは仕方がないのだと、彼への愛を心の奥底へと仕舞い込んだ。
でも、今ならわかる。
オメガになったからこそわかる。
番でない者は、愛することさえ許されないの?
愛には様々な形がある。
恋愛、友愛、家族愛、番同士の愛もそうだろう。――ただ、そこに優劣はない。
運命の番が現れたからといって、"愛"をあきらめる必要なんてないのだ。
愛は自分の手でつかみ取るものよ!!
シンシアの心の叫びに応える者がいた。
『そうよ。愛とは己の手でつかみ取るもの。運命に抗う者よ、力を貸しましょう』
回帰してから肌身離さず身につけていた七色の涙石が光り出す。
そして、失われていた半分が復活し、完璧な涙型になったとき。
――奇跡は起こった。
まばゆいばかりに輝き出した涙石は、金色の蝶の群れとなりシンシアとダレンを包む。
蝶が放つ金色の光で部屋全体が包まれていく。そして、目も眩む輝きに満ちた時、サークレットにはめられていた三つの宝石が粉々に弾け飛んだ。
「いやぁ!!!! 目が、目が! ――見えない!!」
一瞬、何が起こったのか理解できなかった。
床へと転がる聖騎士。
彼らはピクリとも動かない。
そして、血濡れた手で目を覆い、半狂乱のリディアが叫ぶ。
「よくも、よくも、よくも……、許さない」
真っ赤に目を染め亡霊のように立ち上がったリディアが、聖騎士の剣を鞘から引き抜きゆらりゆらりと近づいてくる。
グラッと身体が傾いた一瞬。
血走ったリディアの瞳の奥にシンシアは確かな殺意を感じ取った。
――間に合わない!!
振り下ろされた剣が、目の前に迫る。
今度こそ、死を覚悟した。
そのとき――身体が思い切り後ろへと引かれた。
「逃げるぞ!!」
耳元で響いた低い声に、身体が震える。
抱きすくめられるように回された力強い腕。そして、香った優しい香り。
振り向いた先で見た藍色の瞳に、もう濁りはなかった。
ダレン、ダレン、ダレン……
言葉にならない。
やっと自分の元へと帰ってきた愛しい人の存在に、心がふるえる。
正気を取り戻したダレンの頬を、シンシアは包んだ。
危機を脱したわけでもない。
剣を振りかざしたリディアの暴挙が終わったわけでもない。
それでも、ダレンが自我を取り戻し、シンシアを見つめてくれている。それだけで、充分だった。
リディアから逃げられたとしても、この教会から逃げ出すのは難しい。
――いいえ、ダレン一人なら。
リディアの血走った目を見てシンシアは覚悟を決めた。
ダレンを庇って死ぬなら本望だ。ダレンさえ生き延びてくれればそれでいい。
死を覚悟したシンシアは、力の限りダレンの胸を押した。
しかし――
二人が離れることはなかった。
「ダレン逃げて!! あなただけでも、逃げて!!」
「――嫌だ!! シンシア、離さない。もう、絶対に」
ダレンの腕の中、シンシアの身体が宙に浮く。そして、足元に描かれた魔法陣から青白い光が放たれた。
青白い光に身体が包まれる。
次の瞬間――
ラヴェリエ公爵邸の一室へと転移していた。
*
「ここは……」
細かな装飾が施された天蓋付きのベッドと、同じ素材が使われたシックなテーブルとソファ。
見覚えのある光景に、この場所がダレンの寝室だと理解した。
私たち、助かったんだわ。
危機を脱し、やっと肩から力が抜けていく。
あの魔法陣と青白い光は、転移魔法だったのだろうか。今の状況を考えれば、リディアの隙をつき、ダレンが転移魔法を発動したとみて間違いはない。
あんな危機的状況で、高度な魔法を展開するなんて……
「本当、無茶ばかり――って、ダレン!?」
慌てて部屋を見回し、床に倒れる彼の姿を見つける。
その姿はぴくりとも動かない。
嫌な予感に突き動かされ、シンシアは慌てて駆け寄った。
「ダレン、ダレン!! しっかりして!」
「うっ……う……」
身体を転がし仰向けにすると、上気した頬に、額からは脂汗がにじみ出ている。しかも荒い呼吸の合間に苦しそうなうめき声まで漏らしていれば、身体の状態が悪いことくらいはわかる。
ダレンから立ち昇る獰猛な香りに、シンシアの本能が震えた。
「まずいわ……」
明らかにダレンはオメガフェロモンに反応し、発情しかけている。このまま衝動を抑え続ければ、身体に大きな負担がかかるのは明白だった。
心身ともに疲弊している今のダレンに、性衝動を抑えられるだけの気力は残っているのだろうか?
ヒートに耐えられず獣へと堕ちた自分を思い出し背が震える。
理性を凌駕するほどの性衝動は、自分が自分ではなくなる。それは、トラウマと言ってもいいほどの恐怖だ。
頭の中では、今すぐこの場を立ち去れと警告が鳴り響いている。
でも、身体は動かない。
心が納得しないのだ。
ダレンを見捨てて逃げるなんて、出来ない。
アルファの発情がどういうものかは、わからない。オメガの発情よりも軽く済むのかもしれない。
――ただ、もしオメガのヒートと同じ苦しみを味わうのだとしたら……
「放って、おけないわよ」
シンシアは覚悟を決める。
そして――
荒い呼吸を繰り返すダレンを抱き寄せた。
アルファとオメガ。
二つの香りが混ざり合い濃厚なフェロモンを生み出す。
シンシアがダレンの匂いに身体の奥深くを震わせる中、ダレンの呼吸もまた激しさを増していく。
シンシアのフェロモンに触発されたダレンの虚な瞳に、獰猛な光が宿る。
――なのに、彼の腕は何かに耐えるように横へと下ろされたままシンシアを抱くことはない。
手が強く握られ、震えている。
「ダレン……どうして、どうしてなの? オメガになったからわかるの。ダレンの辛さも、苦しさも」
だが、シンシアの問いにダレンは首を横に振るばかりで、動こうとはしなかった。
彼の額からは玉のような汗が噴き出し続けている。
このまま耐え続けたら……
「――ダレン、もう無理をしないで! 疲弊しているあなたに、その衝動を抑えるのは無理よ。死んでしまうわ!!」
それでも、ダレンは動かない。
シンシアはダレンの頑なな行動の意味を理解していた。理解しているからこそ、命の危機に瀕してまで、自分との約束を守ろうとするダレンの態度が腹立たしくも、いじらしくて――
胸を掻きむしりたくなるほどの焦燥感に、身が焦がれる。
ほんと、バカよね……
こんなときだからこそ、頼って欲しいのに。
女心がわからないバカ男よ、ダレンは。
心の奥底で燻っていた疑念が解け、愛しいという純粋な想いが心を満たしていく。
そして――あふれ出したのは、ダレンを助けたいという切なる想いだった。
シンシアは感情のままに、ダレンへと口づける。
ゆっくりと口づけが深くなり、舌と舌が絡まる。
角度を変えながら――時に強く、時に労わるように重ねられる口づけに息があがっていく。耐えかねたかのように腰を抱かれ、深くなる口づけはダレンがシンシアを求めてくれている証だ。
吸って吸われて、時に絡み合い口付けは激しさを増していく。
けれども、彼はそれ以上の行為に進もうとしない。
「ダレンはバカよ。バカ、バカ……こんな時まで、律儀に約束なんて守ってんじゃないわよ!!」
「もう……もう、シンシア……君を傷つけたくない」
「散々、傷つけられたわよ! わたしの話なんて聞かないし、なんでも一人で背負い込むし、挙げ句の果てにあんな似非聖女に洗脳されかけるし」
「あぁ……聖女に洗脳されかけたのか。俺は……また、シンシアを裏切ってしまった」
辛そうに歪んだ顔を隠すように、手で覆ったダレンは、力なく床へと倒れる。
聖女に操られてしまったことを悔いているのかもしれない。でも、そんな些末なこと今はどうでもいい。
――もう、間違えたりしない!
疑念から解放されたシンシアは強かった。
ダレンの胸ぐらをつかみ、怒鳴りつける。
「ダレン、私を見て!! 洗脳されて、裏切った? そんなのどうでもいいわ! 私は、ダレンを死なせたくない。あなたを死なせるくらいなら、身体なんていくらでも差し出すわ! ――だから生きて。私を愛しているなら生きて!!」
シンシアは自らの意思で肩からドレスを落とすと、ダレンの頭を抱き、胸へと引き寄せた。
リディアの怒声が響くが、跪いた聖騎士は動かない。
それだけではない。
抑制の腕輪が壊れシンシアのオメガフェロモンが部屋に満ちているというのに、聖騎士が獣に堕ちる気配すらない。
いったい、何が起こったの……
見ている光景が信じられず、瞬きを繰り返す。しかし、呻くようにあがったダレンの声に我に返った。
痛む身体を起こし、ダレンの元へ駆け寄る。荒い呼吸を繰り返し、吹き出した汗が額を流れる。彼の瞳から完全に濁りが消えたわけではないのだ。
一刻も早く、脱出しなければ。
その一心で、ダレンに肩を貸し、立ち上がる。だが、一歩も踏み出さぬうちに、ダレンが悲鳴をあげ、膝をついた。
サークレットから放たれたオメガフェロモンが、二人の身体に絡みつく。
まるで蛇に巻きつかれているかのような重苦しい香り。
――足が重い。
三種の禍々しいフェロモンに、シンシアのオメガフェロモンが、かき消されていく。
「逃がさないわ。絶対にお前達だけは、逃がさない!!」
跪いていた聖騎士がゆらゆらと立ち上がり、形勢は逆転してしまった。
このままでは、リディアに操られた聖騎士に捕まるのは時間の問題だ。
それだけではない。
自我を取り戻しつつあるダレンまでも、リディアの手に堕ちてしまう。
ダレンは私の声に応えてくれた。
それなのに――
また、あの女に奪われてしまうの。
回帰前はダレンをあきらめた。
運命の番なんだから、仕方がない。
皆から愛される聖女に心を奪われるのは仕方がないのだと、彼への愛を心の奥底へと仕舞い込んだ。
でも、今ならわかる。
オメガになったからこそわかる。
番でない者は、愛することさえ許されないの?
愛には様々な形がある。
恋愛、友愛、家族愛、番同士の愛もそうだろう。――ただ、そこに優劣はない。
運命の番が現れたからといって、"愛"をあきらめる必要なんてないのだ。
愛は自分の手でつかみ取るものよ!!
シンシアの心の叫びに応える者がいた。
『そうよ。愛とは己の手でつかみ取るもの。運命に抗う者よ、力を貸しましょう』
回帰してから肌身離さず身につけていた七色の涙石が光り出す。
そして、失われていた半分が復活し、完璧な涙型になったとき。
――奇跡は起こった。
まばゆいばかりに輝き出した涙石は、金色の蝶の群れとなりシンシアとダレンを包む。
蝶が放つ金色の光で部屋全体が包まれていく。そして、目も眩む輝きに満ちた時、サークレットにはめられていた三つの宝石が粉々に弾け飛んだ。
「いやぁ!!!! 目が、目が! ――見えない!!」
一瞬、何が起こったのか理解できなかった。
床へと転がる聖騎士。
彼らはピクリとも動かない。
そして、血濡れた手で目を覆い、半狂乱のリディアが叫ぶ。
「よくも、よくも、よくも……、許さない」
真っ赤に目を染め亡霊のように立ち上がったリディアが、聖騎士の剣を鞘から引き抜きゆらりゆらりと近づいてくる。
グラッと身体が傾いた一瞬。
血走ったリディアの瞳の奥にシンシアは確かな殺意を感じ取った。
――間に合わない!!
振り下ろされた剣が、目の前に迫る。
今度こそ、死を覚悟した。
そのとき――身体が思い切り後ろへと引かれた。
「逃げるぞ!!」
耳元で響いた低い声に、身体が震える。
抱きすくめられるように回された力強い腕。そして、香った優しい香り。
振り向いた先で見た藍色の瞳に、もう濁りはなかった。
ダレン、ダレン、ダレン……
言葉にならない。
やっと自分の元へと帰ってきた愛しい人の存在に、心がふるえる。
正気を取り戻したダレンの頬を、シンシアは包んだ。
危機を脱したわけでもない。
剣を振りかざしたリディアの暴挙が終わったわけでもない。
それでも、ダレンが自我を取り戻し、シンシアを見つめてくれている。それだけで、充分だった。
リディアから逃げられたとしても、この教会から逃げ出すのは難しい。
――いいえ、ダレン一人なら。
リディアの血走った目を見てシンシアは覚悟を決めた。
ダレンを庇って死ぬなら本望だ。ダレンさえ生き延びてくれればそれでいい。
死を覚悟したシンシアは、力の限りダレンの胸を押した。
しかし――
二人が離れることはなかった。
「ダレン逃げて!! あなただけでも、逃げて!!」
「――嫌だ!! シンシア、離さない。もう、絶対に」
ダレンの腕の中、シンシアの身体が宙に浮く。そして、足元に描かれた魔法陣から青白い光が放たれた。
青白い光に身体が包まれる。
次の瞬間――
ラヴェリエ公爵邸の一室へと転移していた。
*
「ここは……」
細かな装飾が施された天蓋付きのベッドと、同じ素材が使われたシックなテーブルとソファ。
見覚えのある光景に、この場所がダレンの寝室だと理解した。
私たち、助かったんだわ。
危機を脱し、やっと肩から力が抜けていく。
あの魔法陣と青白い光は、転移魔法だったのだろうか。今の状況を考えれば、リディアの隙をつき、ダレンが転移魔法を発動したとみて間違いはない。
あんな危機的状況で、高度な魔法を展開するなんて……
「本当、無茶ばかり――って、ダレン!?」
慌てて部屋を見回し、床に倒れる彼の姿を見つける。
その姿はぴくりとも動かない。
嫌な予感に突き動かされ、シンシアは慌てて駆け寄った。
「ダレン、ダレン!! しっかりして!」
「うっ……う……」
身体を転がし仰向けにすると、上気した頬に、額からは脂汗がにじみ出ている。しかも荒い呼吸の合間に苦しそうなうめき声まで漏らしていれば、身体の状態が悪いことくらいはわかる。
ダレンから立ち昇る獰猛な香りに、シンシアの本能が震えた。
「まずいわ……」
明らかにダレンはオメガフェロモンに反応し、発情しかけている。このまま衝動を抑え続ければ、身体に大きな負担がかかるのは明白だった。
心身ともに疲弊している今のダレンに、性衝動を抑えられるだけの気力は残っているのだろうか?
ヒートに耐えられず獣へと堕ちた自分を思い出し背が震える。
理性を凌駕するほどの性衝動は、自分が自分ではなくなる。それは、トラウマと言ってもいいほどの恐怖だ。
頭の中では、今すぐこの場を立ち去れと警告が鳴り響いている。
でも、身体は動かない。
心が納得しないのだ。
ダレンを見捨てて逃げるなんて、出来ない。
アルファの発情がどういうものかは、わからない。オメガの発情よりも軽く済むのかもしれない。
――ただ、もしオメガのヒートと同じ苦しみを味わうのだとしたら……
「放って、おけないわよ」
シンシアは覚悟を決める。
そして――
荒い呼吸を繰り返すダレンを抱き寄せた。
アルファとオメガ。
二つの香りが混ざり合い濃厚なフェロモンを生み出す。
シンシアがダレンの匂いに身体の奥深くを震わせる中、ダレンの呼吸もまた激しさを増していく。
シンシアのフェロモンに触発されたダレンの虚な瞳に、獰猛な光が宿る。
――なのに、彼の腕は何かに耐えるように横へと下ろされたままシンシアを抱くことはない。
手が強く握られ、震えている。
「ダレン……どうして、どうしてなの? オメガになったからわかるの。ダレンの辛さも、苦しさも」
だが、シンシアの問いにダレンは首を横に振るばかりで、動こうとはしなかった。
彼の額からは玉のような汗が噴き出し続けている。
このまま耐え続けたら……
「――ダレン、もう無理をしないで! 疲弊しているあなたに、その衝動を抑えるのは無理よ。死んでしまうわ!!」
それでも、ダレンは動かない。
シンシアはダレンの頑なな行動の意味を理解していた。理解しているからこそ、命の危機に瀕してまで、自分との約束を守ろうとするダレンの態度が腹立たしくも、いじらしくて――
胸を掻きむしりたくなるほどの焦燥感に、身が焦がれる。
ほんと、バカよね……
こんなときだからこそ、頼って欲しいのに。
女心がわからないバカ男よ、ダレンは。
心の奥底で燻っていた疑念が解け、愛しいという純粋な想いが心を満たしていく。
そして――あふれ出したのは、ダレンを助けたいという切なる想いだった。
シンシアは感情のままに、ダレンへと口づける。
ゆっくりと口づけが深くなり、舌と舌が絡まる。
角度を変えながら――時に強く、時に労わるように重ねられる口づけに息があがっていく。耐えかねたかのように腰を抱かれ、深くなる口づけはダレンがシンシアを求めてくれている証だ。
吸って吸われて、時に絡み合い口付けは激しさを増していく。
けれども、彼はそれ以上の行為に進もうとしない。
「ダレンはバカよ。バカ、バカ……こんな時まで、律儀に約束なんて守ってんじゃないわよ!!」
「もう……もう、シンシア……君を傷つけたくない」
「散々、傷つけられたわよ! わたしの話なんて聞かないし、なんでも一人で背負い込むし、挙げ句の果てにあんな似非聖女に洗脳されかけるし」
「あぁ……聖女に洗脳されかけたのか。俺は……また、シンシアを裏切ってしまった」
辛そうに歪んだ顔を隠すように、手で覆ったダレンは、力なく床へと倒れる。
聖女に操られてしまったことを悔いているのかもしれない。でも、そんな些末なこと今はどうでもいい。
――もう、間違えたりしない!
疑念から解放されたシンシアは強かった。
ダレンの胸ぐらをつかみ、怒鳴りつける。
「ダレン、私を見て!! 洗脳されて、裏切った? そんなのどうでもいいわ! 私は、ダレンを死なせたくない。あなたを死なせるくらいなら、身体なんていくらでも差し出すわ! ――だから生きて。私を愛しているなら生きて!!」
シンシアは自らの意思で肩からドレスを落とすと、ダレンの頭を抱き、胸へと引き寄せた。
99
あなたにおすすめの小説
夫が運命の番と出会いました
重田いの
恋愛
幼馴染のいいなづけとして育ってきた銀狼族の族長エーリヒと、妻ローゼマリー。
だがエーリヒに運命の番が現れたことにより、二人は離別する。
しかし二年後、修道院に暮らすローゼマリーの元へエーリヒが現れ――!?
仮面王の花嫁
松雪
恋愛
婚約者を腹違いの妹に奪われ、新しい相手も見つからず修道院に行く覚悟を決めたルチア。修道女となるため髪を切った日の夜、王城から「国王がルチアを妻に望んでいる」という書簡を持った使者がやって来た。
しかし、従兄弟であり恋仲だったニールが国王のせいで死に至った過去を持つルチアは、国王からの求婚を喜べずーー。
【完結】愛する人はあの人の代わりに私を抱く
紬あおい
恋愛
年上の優しい婚約者は、叶わなかった過去の恋人の代わりに私を抱く。気付かない振りが我慢の限界を超えた時、私は………そして、愛する婚約者や家族達は………悔いのない人生を送れましたか?
大人になったオフェーリア。
ぽんぽこ狸
恋愛
婚約者のジラルドのそばには王女であるベアトリーチェがおり、彼女は慈愛に満ちた表情で下腹部を撫でている。
生まれてくる子供の為にも婚約解消をとオフェーリアは言われるが、納得がいかない。
けれどもそれどころではないだろう、こうなってしまった以上は、婚約解消はやむなしだ。
それ以上に重要なことは、ジラルドの実家であるレピード公爵家とオフェーリアの実家はたくさんの共同事業を行っていて、今それがおじゃんになれば、オフェーリアには補えないほどの損失を生むことになる。
その点についてすぐに確認すると、そういう所がジラルドに見離される原因になったのだとベアトリーチェは怒鳴りだしてオフェーリアに掴みかかってきた。
その尋常では無い様子に泣き寝入りすることになったオフェーリアだったが、父と母が設定したお見合いで彼女の騎士をしていたヴァレントと出会い、とある復讐の方法を思いついたのだった。
愛しているこの想いが届かない
ララ愛
恋愛
大好きな婚約者には愛する人がいるらしい
それを知っても諦められず自分がみじめでもどんなに悲しくても側にいたかった
でも笑いかけてもらえない自分が愛されない自分が限界になった時お別れすることを
決めました
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
【R18】深層のご令嬢は、婚約破棄して愛しのお兄様に花弁を散らされる
奏音 美都
恋愛
バトワール財閥の令嬢であるクリスティーナは血の繋がらない兄、ウィンストンを密かに慕っていた。だが、貴族院議員であり、ノルウェールズ侯爵家の三男であるコンラッドとの婚姻話が持ち上がり、バトワール財閥、ひいては会社の経営に携わる兄のために、お見合いを受ける覚悟をする。
だが、今目の前では兄のウィンストンに迫られていた。
「ノルウェールズ侯爵の御曹司とのお見合いが決まったって聞いたんだが、本当なのか?」」
どう尋ねる兄の真意は……
世間知らずな山ごもり薬師は、××な騎士団長の性癖淫愛から逃げ出せない
二位関りをん
恋愛
平民薬師・クララは国境沿いの深い山奥で暮らしながら、魔法薬の研究に没頭している。招集が下れば山を下りて麓にある病院や娼館で診察補助をしたりしているが、世間知らずなのに変わりはない。
ある日、山の中で倒れている男性を発見。彼はなんと騎士団長・レイルドで女嫌いの噂を持つ人物だった。
当然女嫌いの噂なんて知らないクララは良心に従い彼を助け、治療を施す。
だが、レイルドには隠している秘密……性癖があった。
――君の××××、触らせてもらえないだろうか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる