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④取材2
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男が食べ終わるのを待ってから、私は取材を再開した。不快なテーブル上の惨状を処理してもらおうと店員を探したけど、なぜか誰もいない。厨房からも人の気配を全く感じなかった。
暗いし。なんだか、檻のよう………。
唯一の助けは、あの寡黙な老夫婦の存在だった。チラッと見ると、まだ食事中らしく、出来るならこの老夫婦が帰る前に私も取材を終わらせたかった。
私は、予定していたいくつかの質問を省いた。
「じゃあ、取材を続けます。……どうして今、この時期に引退を決意されたんですか? 引退を決めたきっかけのようなものがありましたら、教えて下さい」
少しの間が空き、人間の皮を被ったこの悪魔は左の袖をまくり、私に細腕を見せた。
「あれは、確か先々週の火曜日なんだけど……。初めて負傷したんだ。相手が持っていたナイフが飛んできてさ、この腕を負傷した」
男の腕を見たが、小さい傷痕が一つあるだけだった。こんな傷なら、珍しくもなんともない。
「あの…………」
「まぁ素人の君には分からないだろうけど、この小さな傷が僕の限界を証明してる。死に損ないの僕が、殺し屋なんて滑稽な話だし」
「分かりました。…………少し早いですが、取材はここまでとします。この度の協力大変感謝します。ありがとうございました」
私は、必要書類をバックに押し込む。
「何をそんなに焦っているんです?」
「あっ、すみません。会社に戻って、すぐに今のお話をまとめなければいけないので……」
この悪魔から一秒でも早く離れたかった。
「僕……。そんなに悪魔に見えますかぁ? ショックだ」
「っ!?」
「これから食後のデザートを一緒に食べませんか? この店の七色ゼリーは、ウマイですよ」
「いえ、結構です。失礼します」
どんなトリック?
分からないけど、心を読まれてる。早く逃げないと。
「最後に、僕からも一つだけあなたに質問しても良いですか?」
「はい……。どうぞ。あまりプライベートなことはお話できませんが」
そう言うと、男は一枚の写真を私に手渡した。二階建ての家の前での家族写真。仲良さそうな夫婦と学生服を着た子供。立っている三人の前で小さな椅子に老夫婦が座っていた。みんな、満面の笑み。幸せそうだった。
「この写真の真ん中の男。見覚えないですか?」
私には、気になっていることがあった。写真の中の老夫婦………。
このレストランにいる、今も食事中
のあの夫婦じゃない?
似ているだけ。いや、本人だと思う。
「どうしました?」
「失礼しますっ!」
男は、音もなく私のそばに来る。私は、とっさに男を突き飛ばした。
レストランの出口に走ると扉の前にあの老夫婦が立っていた。その目を見て、全身に鳥肌がたった。涙を流しながら、私を睨んでいる。
背後から声がした。
「四年前。あなたが記事にした盗撮魔の犯人。あの家族の旦那さんですよ。あの後、息子は学校でのイジメに耐えきれず自殺。奥さんもノイローゼになって今も入院中だそうです。僕は依頼されたんです。この夫婦に。あなたを殺してくれって」
「んっ、あのっ! 私は、悪くない。あの男は」
「そうですね。たぶん、この中にいる人間で一番あなたが善人だ」
「かっ、家族をめちゃくちゃにしてしまったこと。それは、謝ります。そんなつもりじゃなくて。本当なんですっ!! 信じて下さい」
この老夫婦には、私の言葉が届いていない。今さら何を言っても無駄。私は、強引に老夫婦を扉からどかすと外に出た。背中や頬、肩を引っ掻かれ、燃えるように熱かった。
外に出て、すぐに目眩がして膝から崩れ落ちた。
「さっき、写真を手渡す時にあなたの指に毒針を刺したんです。でも痛くなかったでしょ? 僕は、殺しのプロだから」
「ぶゅっ………ぅ…………」
「ヤバイっ! 早く戻って、デザート食べなきゃ。……今度は、モモちゃんを連れてこよう」
暗いし。なんだか、檻のよう………。
唯一の助けは、あの寡黙な老夫婦の存在だった。チラッと見ると、まだ食事中らしく、出来るならこの老夫婦が帰る前に私も取材を終わらせたかった。
私は、予定していたいくつかの質問を省いた。
「じゃあ、取材を続けます。……どうして今、この時期に引退を決意されたんですか? 引退を決めたきっかけのようなものがありましたら、教えて下さい」
少しの間が空き、人間の皮を被ったこの悪魔は左の袖をまくり、私に細腕を見せた。
「あれは、確か先々週の火曜日なんだけど……。初めて負傷したんだ。相手が持っていたナイフが飛んできてさ、この腕を負傷した」
男の腕を見たが、小さい傷痕が一つあるだけだった。こんな傷なら、珍しくもなんともない。
「あの…………」
「まぁ素人の君には分からないだろうけど、この小さな傷が僕の限界を証明してる。死に損ないの僕が、殺し屋なんて滑稽な話だし」
「分かりました。…………少し早いですが、取材はここまでとします。この度の協力大変感謝します。ありがとうございました」
私は、必要書類をバックに押し込む。
「何をそんなに焦っているんです?」
「あっ、すみません。会社に戻って、すぐに今のお話をまとめなければいけないので……」
この悪魔から一秒でも早く離れたかった。
「僕……。そんなに悪魔に見えますかぁ? ショックだ」
「っ!?」
「これから食後のデザートを一緒に食べませんか? この店の七色ゼリーは、ウマイですよ」
「いえ、結構です。失礼します」
どんなトリック?
分からないけど、心を読まれてる。早く逃げないと。
「最後に、僕からも一つだけあなたに質問しても良いですか?」
「はい……。どうぞ。あまりプライベートなことはお話できませんが」
そう言うと、男は一枚の写真を私に手渡した。二階建ての家の前での家族写真。仲良さそうな夫婦と学生服を着た子供。立っている三人の前で小さな椅子に老夫婦が座っていた。みんな、満面の笑み。幸せそうだった。
「この写真の真ん中の男。見覚えないですか?」
私には、気になっていることがあった。写真の中の老夫婦………。
このレストランにいる、今も食事中
のあの夫婦じゃない?
似ているだけ。いや、本人だと思う。
「どうしました?」
「失礼しますっ!」
男は、音もなく私のそばに来る。私は、とっさに男を突き飛ばした。
レストランの出口に走ると扉の前にあの老夫婦が立っていた。その目を見て、全身に鳥肌がたった。涙を流しながら、私を睨んでいる。
背後から声がした。
「四年前。あなたが記事にした盗撮魔の犯人。あの家族の旦那さんですよ。あの後、息子は学校でのイジメに耐えきれず自殺。奥さんもノイローゼになって今も入院中だそうです。僕は依頼されたんです。この夫婦に。あなたを殺してくれって」
「んっ、あのっ! 私は、悪くない。あの男は」
「そうですね。たぶん、この中にいる人間で一番あなたが善人だ」
「かっ、家族をめちゃくちゃにしてしまったこと。それは、謝ります。そんなつもりじゃなくて。本当なんですっ!! 信じて下さい」
この老夫婦には、私の言葉が届いていない。今さら何を言っても無駄。私は、強引に老夫婦を扉からどかすと外に出た。背中や頬、肩を引っ掻かれ、燃えるように熱かった。
外に出て、すぐに目眩がして膝から崩れ落ちた。
「さっき、写真を手渡す時にあなたの指に毒針を刺したんです。でも痛くなかったでしょ? 僕は、殺しのプロだから」
「ぶゅっ………ぅ…………」
「ヤバイっ! 早く戻って、デザート食べなきゃ。……今度は、モモちゃんを連れてこよう」
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