理想的な夫婦

カラスヤマ

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⑬動き

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三週間後。僕達は、高級ホテルから出て格安アパートに引っ越した。
モモちゃんは文句一つ言わず、僕についてきてくれた。

引っ越しそばを食べた後、狭いソファーでくっつきながらバラエティーを見ていた。

「あ、言うのが遅くなったけど新しい仕事見つかったよ。早くお金貯めて、もっと広い所に引っ越すから。だから、それまで我慢してね」

「えぇっ!?  もう仕事見つかったの?  嘘でしょ?  ゲームと現実、ごちゃ混ぜになってない?」

「それくらいの区別つくわ……。研究施設の夜間警備の仕事なんだけどさ。今、人手不足みたいで面接一分ですぐ決まった。タイミング良かったみたい」

「おめでと………」

「頭がガクガク揺れてるけど、大丈夫?」

妻は、涙目で僕の胸元にすがりついた。

「くっつける時間……減っちゃうね……」

「ハハ。そんなに心配しなくても大丈夫だよ。基本的に残業もないみたいだし。前の仕事より、よっぽどホワイト。二人の時間は、そこまで減らないから」

「夜勤でしょ。幽霊さん出るよ?」

「ホラー大好きだから、むしろ大歓迎!」

「変態さんも出るよ?」

「勤め先は、超一流企業の『バブルフィーダ』だよ。セキュリティ万全だし、そんな変な輩はそもそも侵入出来ないって」

「………簡単なお弁当作るから、持って行ってね。お腹すいたら軽く摘まめるように………」

「ありがとう」

モモちゃんの頭を撫でようとした。

ビュッ!

その瞬間。凄まじい速さで腕を背中側に捻られた。

「いだだだだだだだぁーーー!!!!  痛っ……。なんでぇ!?」

「貴様は、そんなんで本当に警備なんて出来るのか? ビルの中は、血に飢えたモンスターだらけだぞ。油断するな!」

「……あ、うん。気を付けるよ」

「よしっ!  そろそろ一緒に風呂でイチャイチャするぞ。油断するな!  気合い入れろ!」

「はいっ!!」

僕達は、軍隊の行進のように風呂場に向かった。


でもーーーー。


この時のモモちゃんの言葉が、あながち間違っていなかったことを僕は後日、嫌というほど思い知ることになる。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

深夜一時。

【バブルフィーダ施設内   第八隔離エリア】


静かな部屋。
私以外に誰もいない。天井から、声がする。パパの声だ。

「何か欲しい物ある?」

『…………』

「そう……。何かあったら、パパに教えてね」

『はい』

「じゃあ、次の悪者退治もお願いね」

『はい』

ビーーーーーッッ!!!!

目の前のドアが、開いた。少しだけ外が、見えた。私が知らない外の世界。
産まれてから、ずっと私はここにいる。この白い部屋にいる。部屋の外は危険だから、絶対に出ちゃダメだとパパに言われている。いつものように私の部屋に悪者が入ってきた。

私は、悪者が嫌い。

パパが、悪者が嫌いだから。

私が彼らを退治しないと、世界はもっとダメになってしまうとパパが前に言っていた。

この悪者は私を見ると、

「あなたを倒せば、ここから出られる。あなたを殺せば……」

『……?』

意味が、分からない。でもこの悪者も前の悪者と同じことを言っていた。

私は、少しだけこの悪者と話をすることにした。

『ここから出て、どうするの?』

「えっ!  何、これ!?  言葉が頭に響いてくる」

『ここから出て、どうするの?』

「……………そんなの決まってるじゃない。家族のとこに帰るの!  あなたにもいるでしょ? 心配してくれるパパやママが」


カゾク?

ママはいないけど、私にはパパがいる。まだ一度も会ったことがないパパ。いつも声だけ。

パパは、家族?

分からない。

「ごめんなさい。あなたには、悪いけど。私は……。私は……もう帰りたいのよ!!」

悪者は、いつものように首に大きな注射を突き刺した。中の緑色した液体を流し込む。

十秒もしないうちに悪者の体が、だんだんと大きくなる。

「だがら………死ん…デ……」

私を襲おうと向かってきた。鋭い歯。爪。尖った耳。

『やっぱり……。悪者は、みんな一緒』

私を傷つけようとする。仲良く出来ない。


ピギュッ……。


私は、思い切り悪者の顔面を殴った。すると悪者の頭から、ブリュッと脳ミソが飛び出て、目玉や良く分からない血の塊が、部屋に散らばった。

あ~ぁ。また、部屋が汚れちゃった。

「良くやった!!  さすが、パパの娘だ」

『パパ……。パパは、私の家族?』

「あぁ。もちろん」

パパ……?

なんで嘘をつくの。
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