冷やし上手な彼女

カラスヤマ

文字の大きさ
上 下
1 / 63

秘密

しおりを挟む
世界でも有数の財閥。
神華(しんか)財閥のご令嬢である七美(ななみ)は、実は俺の恋人。

許されるはずのない二人の関係。もしバレたら処刑不可避。だから、この事実は一部のメイドしか知らない。

元々、親の借金を彼女に肩代わりしてもらった負い目がある俺は、基本的に彼女の言いなり(ペット)になっている。彼女は、危険を冒して毎日俺のボロアパートに入り浸っていた。

「あのさぁ、そろそろ帰った方がいいよ? もう8時過ぎたし」

「嫌……。もっと、タマちゃんと一緒にいたい」

「七美が帰らないと、この関係がバレて俺が殺されるんだよ」

本当は、もっとずっと一緒にいたかった。

綺麗な顔。滑らかな肌。
服を脱ぎ、産まれたままの姿の彼女。
彼女の胸に顔を埋め、その白い肌にキスをした。

「んっ……」

もし、こんなことをしているのがバレたらリアルな死が待っている。彼女の家が、裏社会も牛耳っていることは情報に疎い俺ですら知っている事実。

だけど今は。

今だけはーーーーー。

「もう一回したい」

「う…ん………」

九時過ぎ、七美は迎えの車に乗り、帰っていった。

次の日。朝早く。
俺は、通い慣れた高校で未だに慣れない全校集会に強制参加していた。
長時間のハゲ校長のツマラナイ演説に目眩がしてきた頃。
やっと終わったと思って油断してたら、最後に生徒会長からの挨拶が残っていた。

壇上に立ち、生徒約八百人と先生を見下ろす生徒会長。神華 七美。女子生徒の黄色い歓声が聞こえた。

「七美様……。はぁ~、かっこ良いぃ」

「だよね~。七美様見るために、この学校通ってるみたいなもんだし」

七美は、 『男子生徒のブレザー』を着て今も俺達に偉そうに演説している。

男装した彼女は、俺以外には女と言うことを隠して学園生活を送っていた。可愛い娘を異常なまでに愛する両親が、彼女に男のフリをさせ、害虫(七美に言い寄る男共)を少しでも遠ざけたい思惑があるらしい。


当然、最初は七美を女子高に行かせようとしたらしいが、彼女の猛烈な反対&自殺未遂により断念したらしい。
後になって知ったことだが、七美はどうしても俺と同じ高校に行きたかったみたいだ。もし、この真実が露呈したら俺は明日にでも海に沈められ、魚の餌になっている。

「…………」

「…………っ」

一瞬、七美と目があった。少しだけ照れた感じを出してしまった七美に、また女子生徒の歓声が上がった。

「えぇ!? 今の何、なに。何が起きたの。可愛いぃ~」

「あんな表情するの、もう反則だよ~」

反則?

何言ってんだ、コイツら。

ーーーーーーーーーーーーーーーー

数年前。男の姿をした七美に彼女の別邸で行われた怪しいパーティーで初めて会った。
まぁ、その時は親の借金のこともあり、俺は素直に七美にお礼を言いたかった。

タキシードを華麗に着こなした姿を見て、七美が女だなんて夢にも思っていなかった。

「あっ、招待して頂き…まして、ありがとうございます」

「そんなに緊張しなくても大丈夫だよ。なかなか似合ってるね、その服。サイズもぴったりだし」

「う~ん……そうかな……。堅苦しくて、腹もキツイんだよなぁ、これ」

「ハハハハ、やっぱり君って面白いなぁ。向こうにさ、秘密の場所があるんだよ。こっち、こっち!」

俺の右手を掴み、子供のように無邪気に笑う七美。俺達は、罰を覚悟でパーティーを抜け出した。


ーーーーこの時から俺はさ、すでにお前に魅了されていたんだと思うよ。


しおりを挟む

処理中です...